『カカシ…』
「ん?」
『あのひと、どうしてまゆげにケムシついてるの?』
「……」
二人の言い合いから20分。
今だカカシに抱きかかえられ、しがみついているリクハは当然のごとく自分たちの隣を歩いているガイをチラッと見ながらそう問いかけた。
「なっ!!これはケムシではないぞ!!!!」
『(ビクッ)』
「…フッ!!ケムシだってさ…!笑える」
「笑うなカカシィーーーーー!!!!!」
拳をワナワナと震わせながら怒りをあらわにするガイに、カカシは含み笑いで「怒るなよケムシ」と嫌味を言ってみせた。
『カカシー』
「ん?」
『おなかすいた…』
「ああ、もうそんな時間だっけ」
『おなかの虫がおこってる』
―グウゥゥゥゥッ〜
「ハハハ。リクハの腹の虫は元気じゃの」
「よし!ならばみんなでだんごでも食いに行かないか!?」
「なんで昼時にだんごなんだよ」
『イタチはおだんごすきだよ!わたしもすき!』
「イタチ?…誰だ?カカシ知ってるか?」
「いや?」
『イタチはおさななじみだよ!』
「おお!幼なじみとはまさに青春だな!いいライバルになる!オレとカカシのようにな!」
「オレがいつお前のライバルになったんだよ」
「出会った時からだぁ!!」
「……ほんっと疲れるコイツ…」
両腕を空に向けて突き上げながら吠えているガイを横目に、カカシは深いため息をつく。
リクハはそんな兄貴分たちを前にケラケラと可愛らしい笑顔を浮かべ、『もうじぶんであるくー』とカカシの腕から離れパックンと一緒に歩きたいと二人の数歩先を楽しそうに駆けていく。
そんな健気で純粋なリクハの存在に、カカシは自分が暗部であると言うことを忘れそうになってしまう。
「カカシ」
「なに」
「オレは正直子守は分からないが、こういうのもたまにはいいもんだな!」
「…なによ急に」
「息の詰まるような任務ばかりやってるだろ、お前」
「別に」
「…ほら見ろ!あの子の笑顔。こう、心が洗われていくようじゃないかっ」
「……」
少し先でパックンとじゃれ合っているリクハを見つめるカカシ。
確かにガイの言うとおり、リクハの笑顔は見ているだけで重い気持ちがフッと軽くなっていくような気がしていた。
数時間前まではこんな任務…と思っていたが、今はもう違う。
ガイにライバル勝負だと言われ負ける気はさらさらなかったが、今考えてみれば勝負を受けなかったのは自分以外の誰かにリクハが懐いてしまうのは嫌だと感じたからだ。そんな風に自分が思っていると思うと、自嘲じみた笑いがマスクの下で浮かび上がった。
『パックン、パックン〜』
「ほれリクハ、ちゃんと前を見て歩かんと転ぶぞ」
『うんー』
「…あ、リクハ、前だ前っ」
『え?…うわっ…』
ドンッ…!
言わんこっちゃないとパックンがため息をついたのと、リクハが地面に尻もちをついたのはほぼ同時の事だった。リクハがぶつかった人物を見上げるのと、その人物がリクハに気づき手を差し伸べ立ち上がらせる。カカシとガイもすぐに駆け寄るがすぐに声をかけられずにいた。
その理由はリクハがぶつかった人物がかもし出す妙な威圧感からか、はたまたその存在自体に気が引けてしまったからなのかは定かではない。
「おい、あの人は…」
「ああ。警務部隊隊長…うちはフガクさんだ」
ガイの問いかけに、耳打ちで答えるカカシ。
そう、その人物とはリクハの父が尊敬し、彼女の幼馴染の実の父親であるうちはフガクその人だった。
ちょうど里の見回りに出ていたのだろう。
フガクの周りには、何人かの部下が連れ添っている。
『あ、フガクおじさん』
「すまなかったなリクハ。気づかなくて」
『だ、だいじょうぶです』
「怪我はないか?」
『うん』
「そうか、なら良かった」
『……』
さっきまではしゃぎ回っていたリクハが一変して大人しくなる。
子供ながらにこの人の前ではしっかりしなければならないと、無意識のうちに萎縮してしまっているのだろう。
カカシは何とか助け舟を出してやりたいが、やはり入って行きづらい雰囲気だ。するとフガクの付添いの若い部下の一人がリクハに近づき膝に手をついて身をかがめる。大きな澄んだ空色の瞳と目が合うと、今までの仏頂面が見事なまでに崩れ去り、代わりに笑顔が浮かび上がる。
『……』
「この子が隊長の息子さんの幼馴染のリクハちゃんですね」
「え、あの仙波一族の?この子が」
フガクよりは柔らかい雰囲気であることは確かだが、見知らぬ人間を前にリクハは不安そうに胸の前で手を組みだす。
それに気づいたカカシが雰囲気うんぬんいってる場合じゃない動き出そうとしたその瞬間、意外にもフガクがリクハの頭に手を置き不安を取り去るかのような行動に出たのだ。
「そうだ。アキトの愛娘だ」
『…(ホッ)』
「へぇ。アキトには似てないですけど、可愛い娘さんですね」
「リクハ、今日はイタチが遊んでやれなくてすまないな」
『イタチどうしたの…?』
「ん?少し体調を崩してな。なに、すぐに良くなる」
『ほんと?』
「ああ。ハスナが煎じた薬を処方してもらったからな」
『へへっ。うん!おかーさんのお薬すごくよくきくの!』
「だから大丈夫だ。また元気になったら遊びに来なさい」
『うん!イタチに、おだいじに!って』
「わかった。伝えておこう」
『ありがとう!』
ほんの一瞬、フガクが口元をつり上げたのをカカシだけが見逃すことをしなかった。
里中でもあまりいい評判ではない『うちは警務部隊』の部隊長が、少女一人に一瞬とは言えど笑みを浮かべたのだ。
そのありえない光景を作り出しているのは紛れもなく仙波リクハという少女が持つ人としての魅力に尽きる。
誰に対しても惜しみなく注がれるあの太陽のような笑顔。
人懐っこい性格。
愛らしい容姿。
カカシは意を決したかのようにリクハの隣に立つと、こちらに視線を向けたフガクや部下の人間に軽く頭を下げ挨拶を交わした。
「どうも」
「…はたけ、カカシか」
「今日一日、この子の護衛をハスナさんとミナト先生から頼まれました。任務として」
威厳のある眼差しが、カカシの視線と絡み合う。
「そうか。…その子の父親は…」
「はい?」
「あれ(父親)は相当な過保護だからな。気を付けろ」
「なにを、ですか?」
「いろいろと、だ。そろそろ仕事に戻る。リクハを頼んだぞ」
「はいっ」
「じゃあねリクハちゃん」
『おじさんにおいちゃんたちばいば〜い』
「ふぅ…」
張りつめていた空気がフワッと解き放たれれば、カカシはいつのようにやる気のない目をさらに細めため息をつく。
「いや〜っ。あれがうちはの警務部隊と言うやつかっ、凄まじいな」
「リクハってうちはと仲良かったの…?」
『うん!おとーさんも、おかあさんもみ〜んな!なかよしだよっ』
「へぇ…」
『でもね!』
「ん?」
『イタチとわたしが、いちばんなかよし!!』
木ノ葉警務部隊のあの人
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