「おばちゃん、この子にイチゴ味のかき氷一つね」
「はいよ、ちょっと待ってな」
店の店主である中年女性にそう告げたカカシは、目の前でパックンと遊んでいるリクハに視線を向ける。
隣ではガイが団子を注文しており、穏やかで平和なこの時間に暗部に所属しているカカシは少しばかり違和感を感じていた。
こんな時間の過ごし方もあるのだと…。
『パックン、こっちこっち』
「店先で走り回ってはいかんぞリクハ」
『え〜!あそぼうよ〜〜!』
「言うことを聞かん子には、かき氷なしだぞ」
『え!やだ!パックンのいうこときく』
「リクハほら、こっち座って大人しく待ってて」
『うん!』
言いながらカカシが自分の隣をポンポンと叩くと、リクハは嬉しそうに駆け寄ってきてカカシの隣に腰を下ろした。
まだまだ小さな足が地面に届かず椅子から投げ出され、早くかき氷こないかな〜っと可愛らしく頬杖をついている。
何気ないその仕草に、自然と目を奪われた。
よくよくリクハを観察してみれば、まだ幼いというにも関わらず実に整った顔立ちをしている。それはガイも感じているのかもう鼻の下が伸びていて、珍獣に拍車がかかったような気持ちの悪さをカカシは感じていた。
「はい、お待ちどうさま。かき氷と団子と、あと抹茶アイスね」
『イチゴわたしのー!』
「リクハ、行儀が悪いぞ。座って」
『はーい』
嬉しさのあまり椅子の上で立ち上がり、身を乗り出して店主の持ってきたかき氷に両手を伸ばしているリクハの肩を押さえて座らせた。
言うことを素直に聞く方なのか、あまり手間がかからない。
自分の目の前に置かれた少し大きめの器に入ったかき氷を見つめながら、リクハはこれでもか!と言うくらいの笑顔を浮かべて見せた。
『おいしそう〜〜!!』
「ゆっくり食べろよ。いろいろ出歩くの面倒だし」
「何を弱気なこと言ってるんだカカシ!子供は元気に走り回るのが一番だろっ。これを食べ終えたらおにごっこをしよう!な、リクハ!」
『わたしおにごっこきらーい』
「ブフッ。フラれてやんの」
「(ガーーンッ!!!!)」
「ガイでも落ち込むことがあるんだな」
誘いを簡単に拒否されたガイは串に刺さったままの三食団子片手に青ざめた表情で固まっている。
リクハがガイの誘いに乗らなかったことに、カカシは少しばかりの優越感に浸ることができた。
小さな手で長いスプーンを持ちかき氷を頬張っているリクハを横目に、カカシは目を細めその頭を撫でた。
『??』
「あ…」
『なあに?』
「…い、いや」
無意識の行動に、自分でも驚いてガイと同様に一瞬固まってしまった。
大きな瞳で自分を見てくるリクハから不自然に視線を反らし食べたくもないのに頼んでしまった抹茶アイスを眺めていると、隣から見を乗り出し抹茶アイスを物珍しそうに見てくるリクハに「食べたいの?」と聞いてみる。
『メロン…?』
「いや、これ抹茶。お茶だよ」
『え〜、マズそうだよ〜』
「お茶って言ってもこれは苦くないから。甘いから」
『…じゃあ、ちょっとだけちょーだい?』
「別にいいけど」
言いながら隣のリクハが取りやすいように器を移動させるが、なぜか自分では手を付けようとはせずあろうことか小さな口を『あー』と開けて食べさせてくれるのを待っているではないか。
『カカシ〜?』
「なに?オレがやるの?」
『うんっ』
「……」
「ほれほれ〜、食べさせてやれよカカシ〜」
「そうだぞカカシ。お前は今日一日その子の保護者も同然なんだからな」
「ガイ。パックン。…楽しんでるだろ…」
『カカシはやく〜』
リクハが足をバタバタと動かし落ち着きがなくなってくる。
ガイとパックンは不敵な目をしてニヤついてる始末だ。
カカシは盛大なため息をつき、なんでこんなことまでしなければならないんだと面倒くさそうにアイスをリクハの口まで運んでいく。
パクッと可愛らしい効果音が聞こえてきそうだった。
『…ん〜…』
「(…子犬の餌付けみたい…)」
「ブフッ。なかなかうまいじゃないかカカシ」
「父親っぽかったぞ」
「お前ら後で覚えてろよ…」
二人を睨むとガイは団子を頬張り始める。いつもはクナイを投げ、刀を振っているこの手がまさか子供にアイスを食べさせてやるために使われるとは、思いもよらなかった。
まだ口の中で溶けきれないのかなんのアクションも起こさないリクハを覗き込むようにして見つめると、大きな空色の双眼と目が合い不覚にも「可愛い」と内心呟いてしまった。
「…で、おいしいの?マズイの?」
『カカシ』
「ん?」
『…わたしも』
「なに?」
『わたしもこれがいい!!』
「えっ…」
『イチゴよりおいしい!わたしもこれーっ』
「わ、わかったわかった。オレのと交換してやるから」
頬をほんのりと赤く染めて初めてのおいしさにキラキラと目を輝かせているリクハは純粋以外の何物でもない。
カカシからしてみればたかが「抹茶味のアイスクリーム」なのだが、無知なリクハはそれだけで心の底から喜んでみせる。
物がおいしいという理由だけでここまで喜びをあらわにできる幼いリクハを、少しだけ、うらやましいと思った。
『わたしこれすきー!』
「抹茶ね」
『うん!まっちゃー!!』
「む。リクハ、オレのはどうだ?うまいぞ三色団子!」
『おにちゃんのはいらないー』
「(ガーーーーーンッ!!!)」
「ザマーミロ」
『おだんごは、イタチからしかもらわないんだよ』
そう言ったリクハは、幸せそうな笑顔を浮かべて抹茶アイスを頬張った。
あの子が抹茶を好きなわけ
(好物はあなたが教えてくれたもの)
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