気づけば日暮れ。
もう少しすれば、任務に出たリクハの両親とミナトが里に戻って来る時間だろうと、自分の背中で遊び疲れ眠っているリクハを盗み見ながらカカシは「ふぅ」とため息をついた。
先ほどまで一緒にいたガイとパックンの姿は、もうない。ガイは途中で会ったアスマと紅に、無理矢理引き取ってもらったのだ。リクハが怖がっているからと、正当な理由を付けて。
パックンは「時間切れだ」と言い残し、なぜか惜しみながら帰って行った。きっとリクハと別れるのが嫌だったのだろう、今日一日一番リクハにべったりだったのはパックンだったから。
リクハもパックンを気に入っていた様だったし、なおさらだ。また会うなんて約束をしていたが、それはまた自分がリクハに会うということを意味していて、口では絶対に言わないが少し嬉しいような気持ちになった。

通常任務とは程遠い、ままごとの様な…平和過ぎる一日。リクハと過ごした、特別な一日。
日々過酷な任務をこなしているカカシにとって、今日見聞きしたもの全てが新鮮だった。
見慣れた里に、顔見知りの店。
すべてを知っているはずなのに、不思議と…カカシの目には新しく見えた。こんな平和で、穏やかな時間の使い方があったのかと自分を嘲笑うかのように口元をつり上げた。

「あれ、リクハちゃん寝ちゃったの?」
「…!ミナト先生っ」
「お疲れ様、カカシ。今帰ったよ」
「お、お疲れ様です。…あれ?アキト先輩とハスナ先輩は?」
「先に任務の報告をしに行くから、リクハちゃんの様子を見てきてくれって頼まれてね。すぐこっちに飛んできた」
「そうだったんですか…」

急に背後から声をかけられ驚いて振り向いてみれば、そこには任務帰りのミナトが居てカカシは気配に気づけなかったことに表情を歪める。
そんなカカシの視線を気にすることなく歩み寄っていったミナトは、まだまだ小さいその背中でスヤスヤと寝息を立てているさらに小さな少女を見て笑顔を浮かべた。

「安心しきってるね。仲良くなれたの?カカシ」
「別に、仲良くとかはっ…」
「ハハッ。素直じゃないんだから」
「な、なんですか」
「いや、なんでもない。きっと楽しかったんだろうなって思っただけだよ」
「……」
「あれ?図星?」
「からかわないでくださいミナト先生っ。オレもう子守なんてしませんからね!」

そう言いながらもしっかりとリクハを背負っているカカシに自然と笑みがこぼれてしまう。
責任感の強いカカシのことだから、『任務』と言えばリクハの面倒を嫌々ながらも見てくれるとは思ってはいた。そこに甘んじてつけ込むようなやり方をしたのは申し訳ないと思いつつも、やはりカカシに任せて正解だったとミナトは内心安堵し、眠っているリクハの頭をそっと撫でた。
夕日に照らされて艶めく空色の柔らかい髪、天使のような可愛らしいその寝顔。カカシの背中にピタッと寄り添っているその姿は、まるで兄と妹のように見えた。

「子守なんて任せた覚えはないよ。言ったでしょ?任務だって」
「そ、それはっ」
「それに、今日でリクハちゃんがカカシに懐いちゃってたらそんなことも言えなくなるよ?」
「………」
「ま、オレの方が懐かれてると思うけどね」

そう言いながらウインクをするミナトに、カカシはあからさまにふて腐れたような視線を送る。

「そんなに睨むなって。さあ、リクハちゃんをアキトたちのところまで送り届けるよ」
「…はい」

ミナトがそう言うと少し表情を歪めながら背中にいるリクハに視線を向けるカカシ。
その表情は少し寂しそうに見えて、ミナトは苦笑いを浮かべながらカカシの肩に触れた。
一秒にも満たないその直後、残っていたのは綺麗な夕日の輝きに当てられた、見慣れた里の道だけだった。



「リクハちゅわ〜〜んっ」
「ちょ、アキト先輩…娘さんまだ寝てますから…」
「父親から娘遠ざけてどないすんねん」
「いや、だから起きちゃいますよ…寝てますから」
「え?なに?ちょお待ちカカシ。今日一日面倒見たくらいでなに?なんでリクハのことならもう分かってますからみたいになっとんの?」
「(うっわ…すっげぇ面倒くさい)…いや、そう言うわけじゃ」
「つーかもうええわ。リクハこっち渡し」

独特のしゃべり方と見下すような視線でカカシを睨んでいるのは、リクハの父親であるアキト。
リクハの髪色とは似ても似つかない茶髪に、整った顔立ちのアキトはカカシの背中で眠っているリクハに手を伸ばす。
するとリクハがタイミングよく顔を背け、カカシの服をギュッと握りしめたものだから、アキトは愛してやまない愛娘を他の野郎に盗られたと被害妄想に陥り鬼のような形相を浮かべた。

「…カカシィ…。うちのかわええリクハになにさらしたん?アァ??」
「いや、ただ寝返りうっただけでしょ?言いがかり止めてください」
「リクハはなァ、オレのことが世界で一番大好きなんや。オレの気配に気づかんわけないやろ。起きんわけないやろォ」
「いや、アキト。それ無理あるから。ちょっと落ち着いて」
「離せミナト!そもそもお前が男にうちのかわええっリクハを預けるっちゅーのも大反対言うたやろ!!!どないすんねんっ。これでリクハがこのガキに懐いてしもうたら、お前どう責任とんねんんんっ」
「いや怖いから。責任とかそういうのないから、ね。ハスナ」
「ごめんねカカシ。うちの旦那バカなの」
「おまっ、どっちの味方しとんねん!」
「カカシ」
「こらーっ!」

その瞬間ハスナの痛烈な容赦のない蹴りがアキトの腹部にヒットしたことは、見なかったことにしようとカカシとミナトは冷めた視線を送った。
完全にノックアウトしているアキトを放置し、ハスナがカカシの背中からリクハを抱き上げると重みと温もりがなくなり少しばかり物足りなさを感じる。

「ありがとう。急なお願いだったのに、本当に助かったわ」
「いえ…手のかからない子で…一日良い子でしたよ」
「フフ。ほんと?…また遊んであげてね、カカシ」

パックンが名残惜しんでいたわけが、やっと分かった気がした。絶対にないと思っていたが、気づけばいつの間にか自分も…リクハを気に入ってしまっていたようだ。
ハスナの優しい視線に大きく頷き、「はい」と返事を返そうと口を開きかけたその瞬間、リクハの大きな瞳がゆっくりと少しずつ開かれていく。
眠たそうに眼をこすりながら、『あ、おかあさんだぁ…』と嬉しそうに微笑んだ。

「起こしちゃった?」
『ん……あれ…カカシは?』

キョロキョロと辺りを見回し目の前に居るカカシと視線が合うと、リクハはカカシに両腕を伸ばす。
ハスナが微笑みながらリクハを地に下ろすと、リクハは嬉しそうにカカシに駆け寄りしがみつくようにして抱き付いてみせた。
その行動に一番驚いているのはカカシで、ミナトも倒れているアキトの隣で満足げな笑みを浮かべていた。

『カカシいたぁ』
「うん」
『あのね、きょーはすごくたのしかった!』
「そう?」
『うん!パックンとー、ゲジゲジのおにいちゃんとー、あと"まっちゃ"!ぜんぶぜ〜んぶたのしかった!』
「ほんと?ゲジゲジも?」
『…ん〜〜〜』
「ハハハッ。オレも楽しかったよ、リクハ」
『えへへっ。うん!!』

自分を見上げてくるリクハの頭を撫でながら、カカシは不器用ながらも笑顔を浮かべた。
口元の布でその表情を掴むことは難しいが、リクハが最高に可愛らしい笑顔を浮かべているのだから間違いない。
カカシは今、心から笑っているのだ。

『わたしカカシのことだいすきだよ!パックンもだけどっ。でもパックンよりすき!』
「……」
「カカシ、顔赤いよ」
「ミ、ミナト先生っ」
『だからまたあそんでね!カカシッ』
 
顔が赤いなんて分かるはずもないのに、からかうミナトに恥ずかしがりながらもカカシはリクハの瞳を真っ直ぐ見つめ、

「オレもリクハが大好きだ」

と、その小さな体をしっかりと抱き寄せた。


空色カラーにをした日


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