『…っはぁ、はぁっ…はぁ…お父さん!お母さん!どこっ…』

不気味なほど赤く染まった紅の空に、人の血で塗りつぶされた赤い大地。荒れた荒野のすぐ近くを流れている小川からは、時折敵か味方か区別のつかない大人たちの死体が赤い血と共に流れてくるのが嫌でも視界に入ってしまう。なんとも言い難い悪臭が鼻をつき、あらゆる場所から聞こえてくる断末魔のような叫び声や刃と刃のぶつかり合う音。

そう…ここは戦場だった。
多くの人間の血が流れ、命が次々といとも簡単に消えていく。そんな地獄絵図のような荒野を走るのは、まだ幼い少女…仙波リクハ。
いくつのも死体の間を走り、離れてしまった父と母を探す。一人でいる不安感と、いつ殺されてしまうかも分からない恐怖が幼いリクハを支配する。

―ザザッ!!

『…っ!!!』

―ガキンッッ!!

『……っ』
「外したか」
「子供だと油断するからだ」
「うるさい」

不意に聞こえた砂利を踏む音と殺気立った気配に振り向き、飛んできたクナイを同じく持っていたクナイで弾き返す。生々しい金属音が一瞬で止み、投げられたクナイが地面に突き刺さった。
今の一瞬の出来事と同時にリクハの目の前に現れたのは、自分よりも遥かに大きな体格の男と、細身の女。額当てから分かるのは、他里の人間。味方ではないということだった。リクハは高鳴る心音を感じながら二人を睨み、クナイを構える。そんな幼い少女の動きに余裕さを感じたのか、男が二ヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「殺るつもりか?無駄な足掻きだ。どうせお前はここで死ぬ」
『……』
「額当てもしていないただのガキが不運だったな」
「待て十郎…こいつ、木ノ葉の仙波一族の子供だ」
『…!』
「…なんだと?なぜ分かる」
「こいつの母親を知っているのさ。同じ髪色にこの澄んだ瞳…間違いなく仙波の娘だねこりゃあ…」

リクハの空色の髪と瞳を品定めするかのように嫌な視線で見つめてくる女に息を呑む。
自分の母親が名の知れたくノ一であることは幼いリクハでも知っていたが、今はそれが最悪な結果に繋がるんではないかという考えが頭を過った。

「仙波に伝わる医療忍術はアホなお偉い大名たちの間で相当な高値で取引されてる。子供だろうが関係なくね」
「ほう…」
「このガキを生きたまま連れて行けば、一儲けできそうだ」
『…なにをっ』
「ははっ。死ぬよりかはまだいい選択肢をくれてやろうって言ってんだよ。十郎、傷ものにはするんじゃないよ」
「わーってるっての…!そらっ!」
『…!!』

―ドゴオオォォォッ!!

十郎と呼ばれた大男が地面へと拳を叩きつけると、次の瞬間にはけたたましい地鳴りと共に地面に亀裂が走り盛り上がった岩肌がリクハを襲う。それを軽い身のこなしで避けるとクナイを構えたまま二人に向かって走り出し距離をつめた。
男の横を通りすぎ向かってきた女と一度クナイをぶつけ合うと一旦距離をとり、手裏剣を投げる。それはいとも簡単に弾かれたが、リクハが影分身の印を組むのには十分すぎる時間が稼げていた。

「このガキ、この年でもう影分身を…!?」
『っ!!!!』
「後ろだ!!!」
「なっ!」

―ザシュッ!!
目の前に現れた影分身は合わせて二人。その二人がクナイを構えて向かってくるのに意識を奪われ、後ろに迫っていたもう一人の影分身…ではなく本体の存在に気づいていなかったらしい女のうなじから大量の血しぶきが上がる。
ドンッ…という鈍い音と共に倒れた女はすでに肉片と化していて、リクハは浴びた返り血を右手で拭うと無表情のまま大男と向き合った。子供だと思い油断した結果に、女は命を落とすことになったのだ。

『…(今の影分身で…チャクラが…)』
「生意気なガキが!生け捕りはなしだ!」
『…っ!』
「おらぁぁ!!!」

リクハ向かって勢いよく振り下ろされた拳は再び地面を砕く。それをぎりぎりのところで避け、体勢を立て直しクナイを構える。大男が投げてきた手裏剣を弾き返し、前進しようと地面を蹴ったその時だった…。

『うあっ…』
「このっ…クソガキがっっ……!!」
『まだ生きてっ……!』

―ガシッ!!

『う゛っっ!!』
「ははは!!もう逃げられねぇぞガキ!」

仕損じたのかまだかろうじて息のあった女に右足を捕まれ一気に体勢を崩した瞬間、変わり身の印を組み終わる前に大男に首をつかまれ軽がると持ち上げられてしまった。呼吸のできない状態のまま、リクハは苦痛の表情を浮かべる。

「なめるなよ、お前はここで殺す」
『…う゛っ……くる…しっ…』
「死ねやっ」

グググッ…!とリクハの細い首を掴む腕に更なる力が加わると、いよいよ意識が遠のいていくのが自分でも分かった。こんなところで、こんなにも簡単に命を奪われるのが戦争。なんの理由もなく、ただこうして人々が争い合い自分たちが正義だと信じ殺し合うのが戦争。自分もこの大勢の中の、一人の犠牲に過ぎないのかと目を閉じる。なんて理不尽で、悲しいのだろうとリクハの頬に一筋の涙が伝った、次の瞬間…。

「え…」
『…風遁・突破(とっぱ)!』

―ブオッ!!!!

リクハの口から吐き出された息がチャクラによって増幅され、嵐が来たのではないかと思うほどの凄まじい威力の風が大男と女を吹き飛ばし地面さえも抉る。最後の力を振り絞って出したその技は、意識を無くしたリクハの体さえも近くにあった谷の間へと吹き飛ばしてしまった。
このままでは谷底へと落下し、命の保証はない。

―ビュオオオッ!!

「っ…なんだ!」
「急に風がっ…」
「…っ!!??…お前たち、先に行ってろ!」
「え!?た、隊長!?」
「どこに行くんですかっ」
「すぐに追いかけるから先に仲間と合流しろ!いいか、死ぬなよ!」
「ちょ!!隊長!」

不幸中の幸いか、これは奇跡か。
はたまた神という存在の導きなのか。

「(間違いないっ…今…!)」

たまたま近くを通りかかった少年の目には見えていたのだ。勢いよく吹き荒れる風の中で意識を失い宙を舞う少女の姿が。
そして少年はなんの躊躇もなく終わりを迎えた荒野の崖から勢いよく飛び降りると、谷底に落ちていく少女の手を掴みその小さな体を抱き寄せ瞬身の術でその場から一瞬で姿を消した。


命の片隅で君を見た
(あの時見えた、分かったんだ。おまえの存在が)


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