空色の澄んだ髪色とその瞳はとても綺麗で、この戦場には似つかわしくないと今目の前で眠る少女の母親を見たときにそう思った。
降りしきる雨。
そんな悪天候の中でも時折聞こえてくる爆発音に、木ノ葉の額当てをつけた少年は表情を歪めた。
不幸中の幸いか、今は先ほど助けた少女…リクハを連れ、近くにあった洞窟に身を潜めている。幼い顔についた返り血を濡れた親指で優しく拭いながら感じたのは、戦争の残酷さだった。
『……ん……』
「お、眼が覚めたか…?」
『………』
ゆっくりと開かれたリクハの視界に見知らぬ少年が映りこみ、まだ覚醒しきらない意識の中で先ほどの恐怖がフラッシュバックする。今目の前にいるのは敵なのだろうかと、リクハはすかさずクナイを構えようと身を起こす。そんな反応に、少年は何もしないという意味を込めて両手を軽く上げて見せた。
『…っ…敵っ…!!』
「落ち着けっ。オレは敵じゃない!大丈夫だ」
『…っ……』
「大丈夫だ。ほら、オレを見ろ」
『…っ…??』
大きな瞳に涙を溜めながら痛む体を無理に動かそうとするリクハをなんとか宥めようと頬を両手で優しく包み込み、しっかりと視線を合わせる。
困惑しているリクハに穏やかな笑みを浮かべると、言い聞かすように声をかけた。
「オレは木ノ葉の人間だ。君は、仙波アキトさんとハスナさんの娘のリクハちゃんだ」
『なんで…わたしの名前……』
「知ってるさ。仙波とうちは昔から交流の深い一族同士…。オレはうちはの人間だから」
『あ……』
そう言った瞬間に漆黒から赤くなったその眼。
『…写輪眼…』
「正解」
幼馴染にもいつか宿るであろうその赤い眼を見た瞬間リクハの体からやっと緊張がとれたのが分かり、少年はさらに人懐っこい笑顔を浮かべると「ふぅ…」と一息つき頬から手を離すとリクハの頭をポンポンと数回優しく撫でた。
「うちはシスイだ。よろしくな」
『…うちは…シスイ…』
「おう」
『…!あの、瞬身のシスイ!…さん??』
「シスイでいいさ。堅っ苦しいのはどうもな」
『…わたしを助けてくれたんですか?』
木ノ葉はもちろん、他里の忍でも知らない者はいないであろうその名前にリクハは目を大きく見開き驚きと焦が入り混じったような表情を浮かべた。
とんでもない大物に、命を救われた…と。
「危ないところだったが、間一髪間に合ってよかった」
『……わたし…敵と戦ってて…それで…』
自分の両手を見ながらカタカタと震えだすリクハの体。
相当怖かったのだろう、シスイは自分より小さなその手を優しく包むと真剣な表情で口を開いた。
「もう戦わなくていい。大丈夫、オレがついてる」
『…っ…お父さんと…お母さんとはなれちゃって…っ』
「二人を探そう。…怖かったろ?よく頑張ったな」
『…うんっ…』
「…よし。立てるか?」
シスイの優しさに涙が溢れそうになるがなんとか堪えて我慢する。言われたことを確認しようと痛む体を起こそうと足に力を入れてみるが…、
『…!…いっ…たぁ…』
「ははは。こりゃあ捻挫だな」
右足がひどく痛み立ち上がることすらできなかった。
そんなリクハの様子にシスイは腰につけているポーチから包帯を取り出し、まだ細いその足にクルクルと巻いていく。「医療忍術に特化した一族の人間を応急処置するのは変な気分だ」と笑顔を見せて処置を終えると、リクハの両脇に手を沿え軽々とその体を持ち上げ立たせる。
その一連の流れについていけず、リクハが『わわっ…』とバランスを崩すがシスイがすぐに支えてくれた。
「雨が止む前にここを出たい。大丈夫か?」
『はい』
「よし。じゃあ〜…こうしよう。ほら」
『え…?』
「歩けないだろ?乗って」
『……い、いいんですか?』
「遠慮するなって。…よっと!」
『うわっ!』
自分の背中を前にしてどうしようかとアタフタしているリクハに子供が気なんて使わなくていいのにと内心思いながら、体を少しだけ後ろに向けその小さな腕をとると半ば強制的にリクハを背負い立ち上がる。思った以上に軽々持ち上がったリクハの小ささに、シスイの中で守るべき対象という意識が強くなったのを感じた。
洞窟の外に出ると、先ほどまで勢いよく降っていた雨が小雨になっていてシスイは辺りを見渡してから敵の気配がないことを確認するとある一定の距離まで瞬身で移動する。
『あのっ、シスイ…さんっ』
「シスイでいいって言っただろ?」
『上忍の人を呼び捨てにしたら、お母さんに怒られます』
「はははっ!ならハスナさんには、オレが許可したって言っといてやるよ」
『それなら怒られないかも』
「で?何か言いかけただろ、なんだ?」
少しだけ顔を後ろに向けるとリクハはシスイの首元にしっかりと腕を回し、風の音にかき消されないようにしっかりとした口調でこう言った。
『あのね!』
「ああ」
『シスイがすごく優しい人でよかった!助けてくれて、ありがとう!』
「……」
『シスイ?』
「あ、ああっ。オレは当り前のことをしただけだよ。仲間だからな」
『……うんっ』
シスイの背中から伝わってくる温かい体温とその優しさに、リクハは全身を預けるとそのまま疲労からすぐに眠りについてしまった。
シスイはそんな幼いリクハに笑みを浮かべ、仲間との合流地点へと足を速めた。
*
「よっと…」
『……スゥ〜…』
「よく眠ってるな」
あれから40分ほど進んだ所。荒野が終り、突如出現する広大な森の中に今回木ノ葉は拠点を構えていた。不幸中の幸いか、ここまで敵に遭遇することなく来ることができた。
自分の背中でスヤスヤと眠っているリクハを確認すると、シスイは優しい笑みを浮かべ大木の枝から枝へ素早く移動していく。
すると、あと少しで仲間たちがいるであろう拠点に辿り着く…という所でこちらに向かって物凄い勢いで近づいてくる知った気配にシスイは「やっぱりな…」と内心呟くと苦笑いを浮かべた。
「…!!!!シスイーーー!!!」
大声を上げながら正面から近づいてくるのは、一人の男性。茶髪で色白、男でも美形だなと思ってしまうほど容姿は完璧に整っている。
シスイがその人物より先に止まるとすぐに同じ場所まで来て「シスイー!」と目を輝かせリクハごと二人を抱きしめた。
「う゛っ…」
「リクハー!!オレのかわいい愛娘!」
「ア、アキトさんっ…娘さん渡しますから離して下さい…っ」
「ほんまありがとおシスイ!お前が神に見えるわ」
「(相変わらず独特な喋り方だな…)いえ。無事で良かったです」
「シスイはリクハの命の恩人やな」
「偶然通りかかっただけです」
シスイの背中から愛する我が子をその腕の中に抱きしめると、アキトという名のリクハの父親は「ぐすっ」と感動のあまり涙を流し鼻をすすった。
「あの、アキトさん」
「なんや…ぐすっ」
「…なんで、こんなに小さい娘さんを戦場へ連れてきたんですか…?」
リクハを見つけた時からずっと思っていた疑問を、シスイは真剣な表情でアキトに問いかけた。
シスイが知るこの夫婦は、本当に愛娘であるリクハを愛し可愛がっている。
父親アキトの過保護っぷりは、木ノ葉一だと有名なほどに。
そんな二人が自らの意思でリクハをこんな危険な戦場に連れてくる訳がないのだ。
だからこそ、シスイは知りたかった。
いくら戦時中と言えど多くの命が失われるこの戦いに、リクハを戦力として見なし成長させようとしているのかと。
「お前は争い事が嫌いやもんな、シスイ」
「…すみません。でも、あまりにもその子はまだ幼い…」
「…まあ、せやな。オレも反対やった」
腕の中で眠るリクハを見つめるアキト。
「お前、フガクさんとこのイタチを知っとるか?」
「はい。知っています」
「ついこの間、イタチが戦争に参加したことは?」
「ええ…」
「それと一緒や。フガクさんに頼まれて仕方なくやけど」
仙波一族であるアキトとフガクの仲が実に親密であると言うことは、シスイだけでなく里に住む他の一族の間でも有名な話である。
二人の性格は真逆と言えるほどかけ離れたものだが、アキトは昔からフガクを慕い強い信頼を寄せている。それは昔、アキトがフガクに命を救われているからだと前にアキト本人から聞いたことがあったなとシスイは思い出す。
絶対的な信頼を寄せているフガクからの申し出に、アキトは断り切ることができなかったのだろう。リクハを戦場へと連れ出した結果、命の危険にさらす事となってしまったが。
「なぜフガクさんはそんなことを…?」
「さあな。あの人のことだからなんか考えがあるんやろ」
「考えとは?」
「よう知らん!お前はまだ子供なんやし、あんま難しいこと考えんな!帰るで」
最後は結局うまく誤魔化されてしまったような気がしたシスイは、一瞬腑に落ちないような表情を浮かべたがアキトの笑顔に負けそれ以上の追及は止めておこうと思った。
とにかくリクハが無事でいたことが何よりだと感じながら、二人は数キロ先にある拠点へと帰って行った。
うちはシスイと出会った日
(その背中はとても温かくて…優しかった)
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