「よかったねリクハ。すぐに退院できて」
『うん。ケガもよくなったし、また一緒に修行できるね』
「それは嬉しいけど、病み上がりなんだから無理しちゃ駄目だ」
『大丈夫だよっ。私他の人より元気になるの早いから』

あれから3日後の昼下がり。幼い子供が持つにしては少しばかり大きな鞄に、持って来ていた荷物を詰め込みながら隣にいるイタチに笑顔でそう言ったリクハ。
今日は待ちに待った退院の日。本当なら両親が迎えに来るところだが、生憎リクハの両親は最前線で戦う上忍の一角。任務が入ればどんな事情があるにしろ戦場へ行かなければならない。そんな状況でリクハの両親が頼りにしたのは親友のミコトやクシナではなく、イタチだった。
朝早くに母であるミコトに起こされ玄関に向かえば、そこには任務へ行く身支度を整えたリクハの母の姿があり何の前置きもなく、

「イタチ!今日お昼ごろリクハが退院するから、迎え!お願いしたいの」

そう言われ、断る理由もなかったので快く引き受けたイタチ。だから、彼が今こうしてリクハを迎えに来ているのだ。イタチは荷物の詰め終わった鞄をリクハの手からスッと奪うと、それを肩にかけ病室を見渡した。

「忘れ物はない?」
『全部入れたよ。…あ、私が持つ』
「いやいいよ。オレが持つ」
『ダメ。私の荷物だもん、重いし』
「別にこれくらいは…」
『いいの貸して、わるいから』
「重くないし、オレが持つ。ほら、行くぞ」
『ちょ、イタチ…!』

半ば強引に会話を終わらせ、鞄を持っていない方の手でリクハの手を掴み病室を後にした。
イタチが頑なに自分が持つと言ったのは、こうしてリクハと手を繋げなくなるのが嫌だったから。
入院中毎日お見舞いには来ていたもののやはり一緒に過ごせない日常は退屈で、少しだけ…いや、かなり寂しかったのかもしれない。

「リクハ」
『ん?』
「もうオレの知らないところで、戦わないで…」
『……イタチ』
「次戦場に行くようなことがあれば、今度は絶対一緒だ」

自分のすぐ後を歩くリクハに振り向くことなくそう言ったイタチ。
どんな表情をしているかは分からないが、その口調やリクハの手をギュッと強く握り締めた動作からその気持ちが伝わってくる。リクハもイタチの手を握り返すと、すぐ隣まで歩み寄って少しだけ俯き加減のイタチの顔を覗き込み笑顔を浮かべて口を開いた。

『ありがとう、イタチ』
「うん…」

またこの笑顔を見れてよかったと、イタチは心の底から思っていた。リクハが戦場で戦っていると知らされたのは、彼女がシスイに助けられたまさにそのタイミングで、初めは父であるフガクが何を言っているのか上手く理解できず話す声が物凄く遠くに感じたのを今でも鮮明に覚えている。
病院に入院してすぐに駆け付けた時、ベッドで眠るリクハの穏やかな寝顔を見て涙が出そうになったことも。あの地獄のような現実を目の当たりにして、命の尊さを今まで以上に考えるようになったイタチには、リクハという存在が自分にとってどれだけ重要なものだったのかを改めて再認識させられることになった。
それと同時に、イタチには気になることが一つ。
それは、シスイとリクハの関係。
今までずっと、毎日顔を合わせて日々の生活を共にしてきた2人にとって、シスイの存在が加わったことは少しだけ世界が広がったような気がしていた。
実力はあれど、まだアカデミーに通っていない2人の人間関係は狭い。
そんな中でシスイの登場はとても新鮮で、立場は違えど2人にいろんな気持ちを芽生えさせるきっかけとなっていた。

「あのさ、リクハ…」
『なに?』
「その…」
『ん?』
「リクハ、戦場でシスイに助けられたって言ってただろ?」
『そうだよ』
「……」
『それがどうしたの?』
「……」
『イタチ?…おーい。聞いてる?』

質問しておいて口を閉ざしてしまったイタチに首を傾げるリクハ。
少しバツの悪そうな表情を浮かべて、イタチがプイッと顔を背ける。さらに何が言いたいのか分からなくなったリクハは、繋がれている手を引っ張り『おーい、イタチー』と顔を覗き込もうとしていた。
一方のイタチは、自分からこの話題に触れたくせに何故だか言葉に詰まり完全にどう誤魔化そうかと考えていた。
自分にはないと思っていたこの悶々とするある感情に、自分自身で触れてしまった後悔の念が押し寄せる。ただ一言、「シスイとは、仲良いの?」と言えば簡単な返事が返ってきて終わる会話なのに、今はそれがとても重い一言に感じる。
幼いながらに気づいてしまった。
イタチだから気づいてしまったこの感情を、この先見て見ぬふりをすることはきっとできない。
このタイミングで?と自問自答するが、状況はどうにもできなかった。

『シスイがどうかしたの?』
「いや…」
「オレがどうかしたか?」
『「…!!」』

この登場の仕方にデジャブと驚きを感じたリクハとイタチ。
病院の入口の方から笑顔で「よっ」と言いながら歩み寄ってくるシスイを見つめる二人は、目を丸くして同じような表情でフリーズしているから何だか笑えた。

「よっ。病院のど真ん中でお前ら何してんだ?」
『シスイこそ何してるの?』
「リクハが退院するって聞いたからさ、おめでとうって言いにな」
『えへへっ。うれっ…』
「それだけ?」
『??』
「ああ、それだけだが…なんかその…マズかったか?(イタチが膨れてる…)」
「…別に。リクハにはオレがついてるから…大丈夫だ」

右頬だけを少しだけ膨らませて機嫌の悪そうな表情のイタチ。そんな子供らしい、可愛げのある一面にシスイは苦笑いを浮かべた。

「そ、そうか。…でもその、退院おめでとなリクハ」
『うんっ、ありがとうシスイ!』
「と言っても、少し安静にしていろよ?」
『え、やだ。イタチと修行するの』
「おいおい。病み上がりなんだぞお前。無理するな」
『イタチと同じこと言ってる』
「リクハがすぐ無茶するからだろ?」
『だって…先越されちゃうし』
「オレたちはそんなに力の差があるわけじゃないよ」
『あるよ!…手裏剣術とか特に…』
「でもオレは医療忍術を使えない」
『そうだけどさ、私もイタチみたいに強くなりたいの』
「だからそんなに力の差は…」
「よし分かった二人とも!」
『「???」』

シスイは各々の意見を言い合う二人を交互に見つめた後、自分より背の低い二人の肩にそれぞれ手を置きウィンクしながらこう言った。

「アカデミーに入るまで暇だろうから、オレが修行つけてやるよ」
「え、ほんとに?」
『すごいっ、シスイが見てくれるの!?』
「ああ。ただ、オレも任務を受ける身だから毎日とはいかないが…時間がある時は必ず付き合うからさ」
『うんっ、それでも全然いい!』
「お前達は大切な"友達"だからな。特別だ」

ニカッと、まるで太陽の様な人懐っこい笑顔を浮かべるとそれにつられる様にしてリクハとイタチも笑顔を浮かべた。

「ただし、オレの修業は厳しいからな。しっかりついてこいよ?」


ふたりのうちは



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