『ねぇ、シスイ』
「ん?どうしたリクハ」
『この術の印の組み方なんだけど…』
「ああ、それはな…」
「………」
そう言ってなんの躊躇もなくリクハの両手をとって印の組み方を教えるシスイに、少し離れた場所でその様子を見ていたイタチは表情を歪めた。いつもならあのポジションにいるのは自分で、リクハがシスイを頼ることもなかったのに…と。
上忍であり、年上で兄のような存在。おまけにシスイは穏やかでいつも優しく、明るく人当たりも良い。年下の面倒見も良く、リクハもすっかりシスイに懐いている。そして容姿も完璧。まさに絵にかいたような理想の人物と言えるシスイは、不器用な自分とは大分かけ離れた存在。
別に劣等感を感じたり、過度に比較しているわけではないが、シスイには敵わないなと心が呟く。二人の楽しそうにしている様子を見つめながらイタチは軽くため息つき、少しだけ俯いた。
『うまくできない…』
「そう言えば、修行始めてからもう4時間は経つな。休憩にしよう」
『うんっ。イタチ呼んでくる』
「ああ、頼むよ」
リクハはシスイに笑顔を浮かべてから、少し離れた場所に居るイタチの元へと駆け寄っていく。幼い妹のようなリクハの存在に、シスイは柔らかな笑顔を浮かべて「かわいい奴だ」と内心呟いた。
3人で修行を始めるようになってから早くも2か月が経とうとしていた。初めは上忍であるシスイ相手にぎこちない2人だったが、今では不要な緊張感が外れていつも楽しそうに修行をしている。のみ込みはもちろん早く、とくにイタチに関してはその成長に目を見張るものがあった。
「イタチ、少し休もう」
「うん。わかった」
小川が流れる森の中。
3人は近くにあった大きな岩の上に腰を下ろすと、渇いた喉を潤すためにそれぞれ持って来ていた水筒の水を飲む。穏やかな時間が流れるこの居心地のよさに、シスイは日々の任務で目の当たりにしている現実を忘れてしまいそうになる。
『あ…』
「どうした?」
『シスイ、そこケガしてる』
「え?」
隣に座るシスイに少しだけ視線を向けた時、たまたま映り込んだ左腕の掠り傷。傷口は浅いが、薄っすら赤い血が滲んでいる。特に痛みもなく自分自身でも気づいていなかったシスイは、「本当だ」と少しだけ驚いた表情を浮かべた。が、すぐに何事もなかったかの様な笑みを浮かべ傷口から視線を外すと「自然と治る」そう言いながら再び水筒の水を口に含んだ。
上忍であるシスイにとってはこれくらいのケガは日常茶飯事であり、ケガの内には入らないのだろう。
そんなシスイの態度に医療忍術に特化した一族出身であるリクハは眉間にシワを寄せ表情を歪めた。どんなに小さな傷であろうとケガはケガ。命にかかわるモノでなくとも、どんなに小さなモノだろうとそれを見過ごしてはいけないと日々両親から言われている。
リクハはシスイの腕を無理やり、でもどこか優しく掴むと傷口に左手をかざしチャクラを集中させた。
「お、おい…大丈夫だってこれくらい」
『ダメ!大したことなくてもケガしたら治すの』
リクハのチャクラを受けた傷口は瞬間的な早さで塞がり、その光景にイタチもシスイも見入っている。戦場に立つことの多いシスイでさえ、医療忍術に特化した仙波一族の能力を目の当たりにする機会は少ないのだ。
「凄いなリクハ、一瞬だった」
「これが仙波一族の力か。驚いた」
『私はまだ小さなキズしか治せないし、時間もかかるの。母さんはもっと早いよ』
「いや、普通の医療班の人間より何倍も早い。それに、その年でこれだけチャクラを練れれば大したもんだよ。ありがとな、リクハ」
『えへへっ…』
「………」
『またケガしても私が治してあげるからね!』
「おっ。頼もしいな」
『だからって無理はしちゃダメだよ?』
「はははっ。分かってるよ、ありがとう」
シスイが穏やかな笑みでリクハの頭を撫でれば、嬉しそうな笑顔でそれに応えるリクハ。
2人の仲睦ましい姿に、イタチは再び表情を一瞬だけ曇らせた。それから再び数時間修業が続き、太陽がオレンジ色に染まる時刻を迎えた頃。シスイが修行の終わりを二人に告げた。
「お疲れ、二人とも」
『ねえシスイ!今度はいつ教えてくれるの?』
「なんだリクハ、やる気だな」
『だって二人と修行してる時が一番楽しいんだもん』
「ははははっ。だってさイタチッ」
「なんでオレに振るんだ」
リクハの天使のような可愛らしい笑顔に、シスイが嬉しそうに白い歯を見せ笑いイタチを肘で突く。ただただ無邪気なリクハの言動が、時々こうして意表を突いてくる。
「そうか…確かにこうやって三人で集まって修行をするのはオレも楽しいよ。次は一週間後になりそうだな」
『任務大変?』
「明日からちょっとだけ遠征の任務があってな」
「じゃあそれまでは、リクハと修行してる」
「ああ。戻ったらしっかりその成果を見せてもらうからな」
「うんっ」
『シスイも任務頑張ってね』
「ありがとう。それじゃあ、オレはここで。送ってやれなくてすまん」
「リクハはオレが送るよ」
「頼むな、イタチ」
「うん」
「じゃあな」と言い残し、一瞬でその場から姿を消したシスイを見送りイタチとリクハも家までの帰路を歩み始めた。幼い二人の影が夕日に照らされ道に映る。今日も二人の着ている服は泥だらけで、その努力が伺えた。
*
うちは一族と仙波一族の敷地は隣接していて、帰り道もほぼ同じ。修行を行っていた場所からは歩いて20分程の所にある。いつもはひたすら修行の感想や反省点を喋り続けているリクハだが、今日はとても静か。イタチはおかしいなと思い、隣を歩くリクハに顔を向ける。
すると歩きながらだと言うにも関わらず、頭が左右いろんな方向へ不規則に傾き足取りもヨロヨロとおぼつかない。さすがに疲れたのか、睡魔に襲われている。このままでは自分と別れた後帰れないだろうとリクハに声をかければ、『ふえ?』なんて間抜けな返事が返ってきてイタチは優しく笑みを浮かべた。
「眠いの?疲れた?」
『だ、だいじょーぶ…』
「クスッ…リクハ、目が閉じてる」
『うう〜ん…おきてるよ』
「歩ける?」
『あるける…』
「本当か?」
イタチがリクハの顔を覗き込みながらそう聞けば、眠そうに目を擦りながら説得力の無い返事を返す。
「リクハ、いいよ寝て。オレがおぶっていくから」
『でも…』
「いいから、ほら」
『…ん…』
睡魔が限界だったのだろう、否定はしつつもイタチの優しさに甘えるリクハ。伸ばされた手を取り、顔を上げたその瞬間イタチの右頬に軽い掠り傷が見えた。リクハは無意識にそこに手を当ててイタチの頬を両手で包むと、チャクラを集中させる。
至近距離で、しかもほぼ全体重が自分に掛けられている状態でイタチがリクハを支えているが傍から見れば抱き合っているようにも見てとれる。イタチの頬に熱が集まり、一気に心臓がどくん、どくんと大きく高鳴った。
「…っ…リクハ…?」
『ケガしてる、イタチ…』
「え…気づかなかった」
『だいじょぶ…なおしてあげる…』
「い、いいよっ…痛くないからっ。それより…」
『イタチ……』
「な、なに…?」
『ケガしたら…、いちばんさいしょに…イタチのこと、なおしてあげるね…』
「え…?」
目の前にあるリクハの大きな瞳。
綺麗な空色の瞳には、困惑した表情の自分が映っている。
『みんなよりも最初に…私がイタチのけが…なおしてあげる…』
「リクハ……うわっ…」
『ぐ〜……』
「……寝た…」
傷が癒え、笑顔でそう言ったリクハは電池が切れたようにイタチの腕の中へと倒れ込み寝息を立て始める。一瞬の出来事だったがまだ心臓はうるさくて、イタチは頬を赤らめながら言われた言葉に唇を噛みしめリクハの体をしっかりと支えながら満面の笑みを浮かべ、小さな声で呟いた。
「リクハの事は…オレが一番近くで守るから…」
だから、オレ達はどんな時も一緒にいような。
今日のシスイとの事などすっかり解消され、イタチはリクハをおぶってしっかりと家まで送り届けたのだった。
***
幼い誓いを交わした二人。
あれから数年が過ぎ、イタチもリクハも上忍として成長しシスイ、イタチ、リクハのスリーマンセルである任務を遂行した帰り道でのことだった。
「本当に…よく眠ってるな。呑気と言うか…なんと言うか」
「戦ってオレ達の回復もしてれば、リクハじゃなくてもこうなるさ」
『ぐ〜〜〜っ…』
「写輪眼はチャクラの消費も多いから、リクハには苦労をかけるな」
「まあ、今回は完全に"寝不足"が原因だけどな」
木の枝から枝へ飛び移るイタチの腕の中には爆睡中のリクハの姿がある。横抱きにされ、ぴくりとも動かず完全に電池切れのようだ。
「また新技の開発か?」
「いや。どうやら…オレ達の足手まといにならないように、修行してたらしい」
「…おいおい、足手まといって…オレ達二人とほぼ互角のくノ一がか?」
「くすっ…。負けん気はオレ達以上だ」
「ははははっ。言えてるなっ」
『ぐ〜〜……』
イタチはリクハの体を支える腕に力を込めて、しっかり抱き抱え内心「ありがとう」と呟いた。
数年たった今でも、そのポジションは譲れない。
僕にとっての唯一無二
(イタチ…シスイ……いま…たすける…から…)
((かわいい……))
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