「サスケくんか。いい名だな」
『サスケ〜、リクハお姉ちゃんだよ〜』
「あうあ〜」
「ハハッ、よしよし」
『今ちょっと笑った?』

季節が真夏から秋へと移り変わろうとしているも、残暑が残る9月の半ば。縁側に面した和室に嬉しそうな赤子の声が響いた。生まれて二か月と半月のその赤子の名はうちはサスケ。
うちは一族警備部隊部隊長である、「うちはフガク」の次男として生まれてきた。うちは一族という才能に恵まれた家系に生まれたサスケは今、二人が兄として慕うシスイの腕の中で自分に笑顔を向けている兄イタチとその幼馴染であるリクハの顔をじ〜っと見つめながら瞳を何度もパチパチと動かしていた。

『シスイ見てっ』
「ああ、かわいい顔してるな」
『きれいな目〜っ』
「サスケ、今日はリクハとシスイが会いに来てくれたんだよ」
「あうぅ〜」
「イタチより愛嬌があるな」
「アハハ…」

イタチの乾いた笑いが聞こえてきたが二人は今、目の前にいるサスケに夢中。4歳の時に戦争を経験したリクハと、日々戦場へ任務に出ているシスイにとってサスケという新しい命がとても尊い存在に思えて仕方がないのだろう、二人とも目をキラキラと輝かせている。
シスイの腕の中でもサスケは泣かずに大人しい。
彼の人の良さが生まれたばかりの赤子にも伝わっているのだろうかと、イタチは普段と変わらないシスイの優しい笑顔を前にそう思った。

「シスイ、慣れてるね」
「ん?…ああ、まあな。赤子や子供は嫌いじゃない」
『私たちの面倒見もいいもんね』
「お前たちは手のかからない"可愛くない子供"だけどな」
『うわ、イタチ聞いた?シスイの本音』
「むくれるなって。冗談だよ」

右頬だけを膨らませ、じと目で自分を睨むリクハに笑顔を浮かべるシスイ。「可愛い顔が台無しだぞ?」とさらにからかえば、リクハが余計にむくれていく。
そんな何気ないやり取りが幸せで、兄弟や同じ歳の幼馴染がいないシスイにとって、一人っ子のリクハは本当の妹の様に思えて仕方がなかった。

「イタチはいい兄貴になりそうだな」
「え?そんなことないって」
『シスイの言うとおりだよっ。イタチ優しいもん』
「プッ…。それ、お前にだけだぞリクハ」
『え??』
「…!」

シスイの予想だにしていなかった発言が、イタチの頬を赤く染め困惑させた。自分の左腕を引っ張り「シスイッ!」とそれ以上余計な事は言わないでくれと訴えかけてくるイタチの姿に、シスイは悪戯な笑顔を浮かべケラケラと楽しそうに笑っている。
それもそのハズ。なぜなら、幼いながらに他人に対してどこか冷たくいつも冷静なイタチが、リクハの前ではまるで別人だからだ。
リクハが居ると、まとう雰囲気が柔らかくなり笑顔も増える。いつも彼女のことを気にかけリードし、守ろうとする。好いているのか、妹の様に思っているかはまだ幼すぎて分からないが、見返りを求めず尽すその姿にイタチの一途さが垣間見えるのだ。
そしてそんな健気なイタチが可愛く見え、シスイもついついからかってしまう。
当の本人には写輪眼でも開眼しそうなくらい睨まれてしまっているが。

「アッハハハハ…!」
『ねぇ、どう言うこと?イタチ』
「え?…あー…えーっと…」
「(全く可愛いなこいつらは…)要するにだなリクハ」
『うん』
「うちは一族の男は優しいってことだ」
「それはちょっとどうかと思うけど…」
「おいおいなんだよイタチ」

もちろん冗談で言っているのだが、どこか自信ありげなシスイの物言いにイタチは若干引き気味で苦笑いを浮かべている。そんな二人の横でリクハが少し考え込むような仕草をした後、すぐに俯き気味だった顔を上げてパンッと胸の前で両手を合わせてこう言った。

『そっか!だから私、優しいイタチとシスイのこと大好きなんだねっ』
「「………」」
『私もうちはを見習おっと』
「あう〜〜」
『えへへっ、サスケくんもきっと優しい男の子になるね〜』

完全にフリーズ状態の二人を無視し、リクハはシスイの腕の中で手を動かしているサスケに向かって笑顔を向け柔らかい頬を撫でた。そんな様子をまだハッキリとしない視界の中でサスケは確かに見つめ感じていた。言葉にできなくても確実な温かい繋がりが、ここにはあるんだということを。



サスケが生まれる数か月前…。

「そして、お姫様と王子様は幸せに暮らしましたとさ。おしまい」
『これ、すごくいいお話だねっ』
「気に入った?」
『うんっ。読んでくれてありがとう、ミナト先生』
「うわ〜〜っ」
『ん?』
「やっぱりリクハちゃんかわいいな〜」
『えへへへっ、くすぐったいよミナト先生〜』

ソファに座る自分の膝の上で、ベタな内容の絵本を読み聞かせ終えると思いの外喜んでくれたリクハの笑顔にミナトもつられて笑顔になる。その天使のような可愛らしい笑顔と、素直な反応に堪らず頬づり。
まだ子供の居ないミナトにとって、同期であるアキトの娘リクハの存在は可愛くて仕方がなかった。父親になるとは実に幸せなことなんだなという思いを噛みしめながら、小さな体をギューと抱きしめた。
今日は両親ともに任務に出払い、明日の朝まで帰ってこない。
いつも預けているイタチの家は母であるミコトが出産を控えていることから、珍しくリクハを見て欲しいと頼まれ今こうして一緒に過ごしているのだ。

「ミナトったら、相変わらずリクハちゃんにメロメロだってばね」
「あはは…つい可愛くて」
「女の子だったらアキト(過保護)みたいになりそうね」
「やだなぁ〜、あそこまでの究極は彼だけだよ」

テーブルに並べられた温かい夕食。
クシナが最後の一品を運び終わると「ご飯にしよっ」とリクハに笑顔を向ける。
ミナトの膝の上からクシナの隣へと移動すると、目の前には実に美味しそうな料理が並びリクハは『おいしそう!』と満面の笑みでクシナにそう言った。
その天使のような笑顔と素直な反応に、クシナは目をキラキラと輝かせてリクハの両頬をグニグニと優しく撫で回す。

「かわいい子、かわいい子〜っ。リクハは本っ当にかわいいってばね〜」
『あ〜う〜〜』
「ほらね。クシナもオレと同じじゃないか」
「いいな〜女の子〜」
『クシナさんの赤ちゃんはどっち?』
「んー?まだ分からないの」
「リクハちゃんはどっちだと思う?」
『んーとねー』

クシナがリクハから手を離すと、今度はリクハが大きくなったクシナのお腹に手を当てて首を傾げる。その姿にミナトとクシナが顔を見合わせて穏やかな笑みを浮かべた。

『わかったっ』
「え、うそホント!?」
『うん!絶対…っ』
「絶対?」
『絶対ね、男の子!』

何の根拠もなしに笑顔でそう言ったリクハ。
よく子供は生まれてくる赤子の性別を言い当てるなんて言うけれど、これで当たっていたらそんな言われも確信に近くなるような気がした。
ミナトはそんな無邪気なリクハが可愛くて、自分の子供がこの小さい少女のことをお姉ちゃんと呼び、一緒に遊んだり、修行をしたりする日がそう遠くないところまで来ているんだなと幸せな未来に笑顔を浮かべた。

『イタチのお家にも、もうすぐ赤ちゃんが生まれるの』
「ミコトの赤ちゃんは男の子だってね」
「じゃあ、うちの子とは同期になるわけか」
『私とイタチみたいに、仲良くなれるといいね』
「そうだね。リクハちゃんも、たくさん遊んであげて」
『もちろんだよ!イタチはお兄ちゃんになるから、私がこの子のお姉ちゃんになってあげるんだ』

そう言いながらクシナのお腹を優しく撫でて、『待ってるからね〜』と小声で話しかければクシナがハッと驚いた表情を浮かべて、「今動いたってばね!」とそう言った。

「リクハちゃんの声届いてるみたいだね」
『うん!早く会いたいなっ』
「あ、また動いたっ」


ふたりおとうと
(それは運命が生まれた日)


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