朝、いつもより早く布団から飛び起きたサスケは一目散にカーテンを開け窓を開けた。そこから入り込んで来たのは気持が良いほどの温かい日差しと、雲が少ない綺麗な青空。
その景色に満面の笑みを浮かべたサスケ。
昨日駄々をこねて同じ部屋で寝てもらった兄のイタチが眠る布団に振り返り、その肩を揺らす。もともと寝起きの良いイタチはサスケが起きた物音で目を覚ましていたのだろう、「起きてるよ」と優しい笑みを浮かべながら、上半身だけを起こしサスケの頭を撫で窓の方に視線を向ける。
そこには見事に晴れた青空と、そよ風に揺れるてるてる坊主の姿があった。
「晴れたな」
「うん!はれた!てるてるぼうずのおかげ」
「作って正解だったな」
「リクハねえさんもよろこんでるかな?」
「喜んでるさ。楽しみにしていたよ」
「えへへっ。ぼくもたのしみ!」
そう言って満面の笑みを浮かべるサスケを見つめながら、幼馴染のリクハがこの笑顔を『天使!』と言っていたのを思い出すイタチ。我が弟ながら喜怒哀楽が豊かで、純粋な性格だなとつられる様にして笑顔を浮かべた。
待ち合わせの時間は11時。
朝食をとっている最中も、両親であるミコトとフガクに「今日はリクハねえさんと遊ぶんだよ!」と始終嬉しそうに話していた。支度を整え、二階の窓から顔を出しリクハが来るのを今か今かと待ち続けているサスケを見て自分もよく同じことをしていたなと思わず笑いが込み上げた。
「サスケ、下で待とうか」
「うん!」
イタチに手を引かれて部屋を出るサスケがなぜこんなにも楽しそうにしているかと言えば、一週間前に大好きなリクハと約束をしたからだ。
今度の日曜日は必ず三人で遊びに行こうと。
少し前まではほぼ毎日一緒に過ごしていたのに、アカデミーに入学した二人は日々修行に打ち込むようになってしまった。時々遊んではくれるものの、ほとんど二人でどこかへ行ってしまうことが多い。
イタチとリクハが強い忍なんだと言うことはなんとなく分かってはいるが、やはりサスケにとっては二人と過ごす時間は特別で、もっと一緒に居たいと思う気持ちが強いのだ。
「はやくこないかな〜」
「本当にリクハが好きだな、サスケは」
「うんっ。やさしいしから。この前ぼくのケガをいっしゅんでなおしてくれたんだよ」
「リクハはすごく優秀な医療忍者だ」
「"いりょうにんじゃ"?」
「ああ。戦うことより、仲間の怪我や病気を治すのが仕事なんだ」
「リクハねえさんすごいねっ。おいしゃさんみたい!でもじゃあ、にいさんみたいにつよくないの?」
大きな瞳をパチパチさせて小首を傾げながら質問して来るサスケに、イタチはこのあいだの修業でリクハが大木に穴を開けたことを思い出し笑いながらこう言った。
「いや、リクハは特別だ。すごく強いよ」
「にいさんより!?」
「ははっ、かもな」
「えー!それはないよっ、だってにいさんよりつよかったらさっ」
「ん?」
「にいさんがリクハねえさんのことまもってあげられなくなっちゃうじゃん」
「……」
『おーいっ、サスケー、イタチー!』
「…あ!リクハねえさんだっ」
サスケの言葉に一瞬フリーズしたイタチ。イタチもまだまだ幼いが、自分たちよりも遥かに幼い弟サスケがそんな風に思っていたとは想像していなかった。聞き慣れた幼馴染の声で我に返ると、目の前でリクハに手を振るサスケを見つめ穏やかな笑みを浮かべその頭を撫でた。
「大丈夫だサスケ」
「え?」
「リクハのことは、オレが絶対守るって決めてるから」
そう言ったイタチの言葉に、サスケの目がキラキラと輝く。まるで、憧れのヒーローを目の前にしているような。
「さっすがにいさん!!」
「リクハには秘密だぞ」
「うん!おとことおとこのヒミツだねっ」
人差し指を口元に添えたイタチを真似てサスケも満面の笑みでそう返す。兄弟で何やら楽しそうに話しているところに丁度リクハも到着し、『何話してるの?』と首を傾げた。
「あのね!今、ぼくとにいさんどっちがねえさんのことすきかはなしてたのっ」
「なっ…」
『え?』
今話していたことをうまくごまかしてくれるのかと思いきや、突然とんでもない方向へ飛んだ会話の内容に穏やかだったイタチの表情が焦りへと変わった。もちろんリクハもキョトン…としている。
そんな二人を気にも留めず、サスケは笑顔でリクハの腰に腕を回しギュウッと嬉しそうに抱きついた。
『サスケ?』
「にいさんもねえさんのことすきだけど、ぼくのほうがもっとすきなんだよ!」
『!!』
「ね、にいさんっ」
「え…あ、ああ…」
「へへっ」
抱きついたままイタチに振り返り、うまくごまかしたでしょ?と言わんばかりのサスケにイタチは若干引きつった表情を浮かべた。
『サスケ〜ッ、かわいいなぁ、もう!』
「あ、おとこにかわいいなんてダメだよ」
『いいの、サスケはかわいい私の弟よ』
「えー、じゃあにいさんは?」
『え?』
「にいさんは何?かわいい?」
「おい、サスケ…」
『え…っと…』
かわいいが不服だったのか、頬を軽く膨らませて自分を見上げてくるサスケに可愛さを感じつつ、その質問にイタチを見ればしっかりと目が合う。いつも一緒に居たせいか何も思わなかったけれど、アカデミーに通いだしてクラスの女の子たちがイタチを見てかっこいい!とかキャー!と黄色い悲鳴を上げていたのを思い出す。
リクハにじ〜っと見つめられ気恥ずかしさが込み上げてくるも、なぜか視線を反らせないイタチ。
『えっとね…』
「うんうん」
『イタチは、クラスの…女の子からはかっこいいって言われてる』
「うわ〜、やっぱりすごいやにいさんっ」
イタチからサスケへと視線を移してそう言ったリクハ。うまく言い逃れられてしまった様な気がして、イタチは少しばかり不服そうな表情を浮かべていた。それに気づいたリクハが首を傾げる。サスケが突然切り出したこととは言え、聞いたからにはその答えが気になってしまっていたのもまた事実。どこか期待している自分が居たことに恥ずかしさを感じた。
『なに?』
「サスケはリクハに聞いたのに…」
『え?』
「なんでもない。…ほら、行こう」
「あ、まってよにいさん!」
ボソッと呟かれたイタチの言葉はうまく聞き取れず、リクハは腑に落ちないまま先に歩きだしてしまった幼馴染のもとへ駆け寄る。
隣に並ぶと左手を差し出され、なんの躊躇もなく握り返すとさっきの不服そうな表情はどこへやら、満足そうなイタチの笑顔がそこにはあった。
「あー、にいさんズルい!ぼくもリクハねえさんとつなぎたい」
『いいよ、ほら』
「本当にリクハが好きだな、サスケは」
「うん!ぼくにいさんとリクハねえさんのことだいすき」
『サスケ〜〜ッ』
「あははっ、そうか」
『私も大好き!なにがあっても守ってあげる!』
幼いサスケのあまりの可愛さに、リクハは目を輝かせてそう言った。
*
日が落ちるまで里中を散策し、久しぶりに楽しい休日を過ごし帰路に着く。遊び疲れて帰りは寝てしまうだろうと思ってはいたが、二人の予想通りサスケはイタチの背中で熟睡している。夕日に照らされた柔らかい寝顔を見つめながら、リクハは目を細めほほ笑んだ。
『サスケ、イタチのこと大好きだね』
「お前のこともな」
『ずーっと兄さんが兄さんがって話してた』
「家ではその逆だよ」
『あははっ。いい子だなぁ、ホント』
スヤスヤと寝息を立てるサスケの頬をそっと撫でるリクハ。本当の弟ではないけれど、まるで身内の様な親しさや愛情を感じる。
「そう言えば」
『ん?』
「リクハは四代目の息子に会ったことがあるって言ってたな」
『え、ああ…うん。今もたまに会うよ。なんで?』
「サスケと同い年だろ?いい友達になれるかと思ってな」
『ああ…そういうことか』
サスケとはまるで正反対な性格をした幼い少年の姿を思い出しながら、リクハは苦笑いを浮かべた。
『いい子だよ。私は好き』
「確か名前は…ナルト…だったか」
『うん。うずまきナルト。明るくて元気で、うるさくて超イタズラっ子』
「…へえ」
『周りは"例の件"があったからあの子を遠ざけるけど、私はあの優しさと純粋さが大好きなんだ』
まるで花が咲いたような可愛らしい笑顔でそう言ったリクハに、イタチの胸がトクンッと高鳴る。それと同時に、寛大で回りに流されない強い意志をもつ幼馴染を誇らしく思えた。
「リクハがそう言うなら、そうなんだろうな」
『うんっ。だからイタチも、あまり周りの意見には…』
「解ってる。心配するな」
『えへへっ、流石はイタチ。ありがとう』
今自分だけに向けられているこの笑顔が、嬉しくてたまらない。明るくて素直で、心配なところは山ほどあるけれどリクハがそばに居てくれるだけでどんなことでも乗り越えていけそうな…そんな気にさせてくれる優しい笑顔だ。
それから数分歩くと、うちは一族の敷地内に入り家に着く。あっという間の一日だったが、リクハとはまた明日アカデミーで会える。
そう思うとまた、嬉しさが込み上げて来る。
『ありがとう、楽しかった』
「オレも、サスケもだ。ありがとう」
『じゃあ明日アカデミーでね』
「送っていくよ。サスケを母さんに預けてくる」
『いいよいいよっ、家近いし…』
「もう暗いし駄目だ。いいから待ってろ」
『あ、ちょっとイタチ…』
有無を言わせず念押ししたイタチは、家の中に入りサスケをミコトに預ける。本当にすぐ外に出てきたイタチは、リクハの隣まで来ると手をとり「行こ」と歩き出した。
うちは一族と仙波一族の敷地は隣接しているといってもいいくらい近くにある。
一族間でもやはり親交が深く、みんな当たり前のように里内を行き来しているのだ。
『ごめんねなんか、近いのに』
「オレがやりたくてやってることだ」
『うん…』
「…迷惑か?」
『え、まさかっ!そんなことない』
「そうか」
『うんっ。いつもありがと、イタチ』
この笑顔が見れるなら、なんだってやってしまえそうだとイタチは思う。明日も会えるというのに、別れ際はやっぱり少し寂しいと感じた。
「…また明日、迎えに来よう」
リクハが居なくなった帰り道で、そう呟いたイタチの言葉は闇の中へと消えていった。
この気持ちに名前はない
(それはまだ先の未来)
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