『はい、これでいいですよ』
「悪いねリクハ」
『構いませんけど…今月これで4回目ですよ?』
「あはは〜…暗部は大変なのよ」
『理解してますけど、掠り傷程度でわざわざ私を呼び出す必要ありますか?これなら医療忍術が使えない看護婦にも治療はできます』
「いやだって…リクハ最近暗部専属の医療班に入ったんでしょ?」
『私まだ三代目には正式に返事はしてないですっ』
リクハのその言葉にベッドの上で今まで治療…といっても、軽傷である掠り傷の手当てを受けていたカカシは、「そうなの?」と呑気な返事を返した。それに対してリクハは『はぁ…』とため息一つ。
10分ほど前だ。
仕事中だったにも関わらず、暗部の隊長がお呼びですと言われ何事かと別室に来てみれば、今月でもう4度目となるカカシの姿がそこにはあった。別に特別重傷と言うわけでもなく、看護婦…下手をしたら自分でも手当てできそうなくらいの軽傷でわざわざ自分を呼び出すのだ。
仕事中なうえ、さらに重傷の患者を看ているリクハからしたら結構迷惑な話である。しかし当の本人は、さぞ当たり前かの様ないつもと変わらない感情が読みにくい目をしている。
「三代目はリクハの腕を見込んで今回の話を振ったんだぞ」
『それは…ありがたいことですけど。私は木ノ葉の里の忍で、この病院に運ばれてくる全ての人を平等に治療するのが勤めなのにって、そう思うとなんだか踏み切れないんです』
「お前の母親も、そうゆう人だったな。でも、暗部に入ったからと言ってここでの仕事ができなくなるわけじゃない」
『でも時々は、任務に出向くんですよね?』
「まあね…と言っても、里での治療が主にだよ。三代目はそこも酌んでる」
『…なら今のままでも…』
「いいじゃない、オレもいるし」
『やです。そういう問題じゃないです』
「うわひっどいな〜…一応先輩よ?オレ」
分かりやすく眉を八の字に下げるカカシを無視して、医療道具を片づけるリクハ。まだまだ幼い頃は自分の姿を見つければ笑顔で駆け寄ってきてくれたのにと、少しだけ肩を落とした。成長した彼女を見届けられるのも嬉しいのだが、寂しさもある。
「リクハさ」
『なんですか?』
「イタチには話したの?この話」
『……言ってないです』
「へえ〜…お前らの中にも隠し事ってあるんだ」
『別に隠してるわけじゃないですよ』
「まあ、言ったところであいつは絶対反対するだろうね」
『絶対反対しますね』
イタチが暗部入りすると聞いた時、本心は反対だったリクハ。それは暗部という組織がどういう所なのか知っていたからだ。危険な任務が多く、任務や組織内でのことは一切他言無用。
暗部に入ってから、イタチも前より考え込んでいることが多くなったなとは感じていた。心配しても無理をして「大丈夫だ」と逆にこっちを気遣うものだから最近はあまり触れないようにしていた。
「イタチがいる暗部に入りたいとは思わないのか?」
『それは…イタチのことは心配ですよ?でも私がいたら逆に迷惑になります』
「まあ〜…分かるけどねぇ。いくらあいつと言えど、私情が出るか」
『イタチにはイタチの任務があります。大切な幼馴染には変わりないですけど、私たちは忍だから…適度な距離感も必要です』
「その若さでよくそこまで割り切ってるねお前。…かわいくないよ」
『なっ…カカシさんに言われたくないんですけど!』
「あ、怒った怒った」
『からかわないで下さいよ!』
「あはは。やっぱリクハに看てもらうと和むね〜。ありがと」
『え…いや、そんな…』
「ぷっ…。今度はなに?照れた?」
『……もうカカシさんは看ません。ガイさんにでも手当てしてもらって』
立ち上がったカカシの背中を押して、開け放ったドアから無理やり追い出す。「え〜」なんて言ってはいるが、カカシはどこか嬉しそうだった。
『もう軽傷で呼ばないでください!』
「ひどいな〜。心は重傷よ?」
『分かりました。じゃあガイさんから青春パワーもらってください』
「うわ。真面目に拒否したい」
『じゃあもうこれで。私は仕事に戻ります』
「ああ、ちょっと待ってリクハ」
『も〜、まだ何かあるんですか??』
一緒に部屋を出て先に歩きだしたリクハに静止をかけるカカシ。怪訝そうな表情で振り返ると、そこには至って真面目な目をしたカカシがいた。
少しばかり緊張が走る。
「お前が暗部入りに前向きじゃないのは分かったし、正直オレも安心したよ」
『カカシさん…?』
「いくらリクハが強くても。やっぱり、かわいい弟子が目の前で戦う姿はあんまり見たくないからね。オレも」
苦笑いを浮かべてそう言ったカカシに、リクハは持っていたカルテをギュッと握りしめる。
「こんな頼み、オレからしなくてもいいんだろうけどさ」
『頼み?』
「頼みというか…。お前も忙しいだろうけど、少しイタチを気にかけてやってくれ」
『え…?何かあったんですか?』
「いやいや違う。ただ、暗部は精神面でも気苦労が絶えないって事。イタチは優秀だけど、まだ若いし…責任感も強いからさ」
『……』
「お前みたいな存在は重要なんだよ、だからさ」
あえて触れずにしていたことは逆効果だったのだろうか、とリクハは俯く。自分よりも何倍も大人で感情を表に出さないイタチに対して、同じようにどこかつくろって接していた自分がいたんじゃないだろうかとふつふつと何とも言えない感情が湧き上がる。そんなリクハを見て、カカシはまた苦笑いを浮かべた。
「いつものお前でいればいいの。それだけ」
『カカシさんは…大丈夫なんですか?』
「オレ?」
『はい。悩み事とか打ち明けられるような人は…』
「いるよ」
『(ホッ…)よかった、それなら…っ』
「おまえ」
『え?』
いきなり指をさされ笑顔でそう言われたリクハは、目を大きく見開いて驚いた表情を浮かべる。
そんな素直な反応に、カカシの気持ちが自然と安らぐ。
「リクハと話す時間は、オレも気が緩む」
『…そ、そうですか?』
「うん。ありがとな」
『い、いえいえいっ。話聞くぐらいしかっ』
「それが一番大事なの。じゃ、オレ行くわ」
『え、あ…また任務に?』
「そ。イタチとツーマンセル」
『え、そうなんですかっ?あ、じゃあ…あの…これ』
「??」
イタチとのツーマンセルと聞き、リクハが慌ただしく腰につけていた医療ポーチの中から取り出した小さな紙袋。それをカカシに手渡すと「なに?」と首を傾げられた。
『兵糧丸です。毎朝作って患者さんに渡す用なんですけど、持って行って下さい』
「うわ…ホントに?リクハの手作り?」
『そうですよ。なんですか?』
「いや…なんでもない。ありがとう」
『任務気をつけて下さいね…。イタチにも無理しないようにと』
「うん。伝えとくよ、じゃあね」
兵糧丸の入った紙袋を持つ手を上げて、歩き出したカカシの背中を見えなくなるまで見送った。願わくば、掠り傷でさえも負って帰ってきて欲しくはない。
リクハは一つため息をつくと、仕事に戻るためカカシとは別の方へと歩き出した。
*
「イタチ」
「カカシ隊長」
「悪いね遅くなって」
「いえ。自分も今来たところです」
今日のツーマンセルはそこまで難しい任務ではない。けれど確実に人が死ぬ。暗部という組織が行う任務はいつもそういった内容ばかり。だからこそ、少しでも心に光がさす様な明るい話題が必要なのだ。
「さっき傷の手当をしに病院に行ったらリクハに会ったよ」
「リクハに?あいつ、元気にしてましたか?」
「なんだ、いつも一緒にいるもんだと」
「さすがにお互い任務を受ける身ですから、最近は会っていないです」
「そっか…。まあ元気だったよ。掠り傷くらいで来るなって言われた」
「はは。元気そうですね」
初めて見たと言っても過言ではないイタチの笑顔に、カカシも少しばかり驚くが内心安心する。まだその余裕はあるのだと。
「それで、これ」
「なんです?」
「リクハがイタチに渡してくれって」
「オレに?」
「そ。手作りの兵糧丸」
紙袋を受取中身を確認しているイタチ。家族以外の誰かがこうして想ってくれているという事は、いいことだなと実感させられる。イタチは中に入っていた兵糧丸を手の平に出すと、カカシの前に差し出す。
「カカシ隊長もお一つどうぞ」
「え?これはお前にって」
「あいつ、料理は大の苦手なんですけどコレ(兵糧丸)だけはすごく上手いんです」
「あー…そう言えばそんな事言ってたっけ」
「リクハはカカシ隊長にもと渡したハズなので、どうぞ」
「(この子は変に鋭いな〜)じゃあ、ありがたく頂くよ」
「きっと気に入りますよ」
「あ……ホントだ…。うまい…」
「よかった」
手作りの兵糧丸
(あ、無理するなってさ)
(……)
((イタチが照れてる…))
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