「アキトさんがあんなにもお前を気に掛けていたのは…」
『……?』
「いつかこうなると解っていたからだと、オレは思う」
『それって…』
「あくまでも憶測だが」
表面的な軽薄さとは裏腹に、彼の実力、忍としての強さは本物だったと今でも思う。だからこそ、二人が生きている可能性があることを周知した時、イタチはすぐに「有り得ること」として消化することができたのだ。
「オレたちはアキトさんの全てを理解してたわけじゃない」
イタチの言葉に、団子屋での店主とのやり取りが蘇る。
大抵は、家族、というだけで全てを理解した気になっていることがほとんどだ。フガクが今だにイタチを掌中に納めておけると見誤っているのだって、「己の息子」だからという独断と偏見を持っているからだろう。よく言えば親の愛情とも取れるが、理解を省いた上でのそれはただの一方的な押し付けに過ぎない。リクハも父に対する曖昧な先入観から、全てを理解した気になっていた未熟さを恥じる。現に自分は、何も知らなかったのだから。
『イタチの憶測に沿って話を進めたとして、父さんは未来を知ることのできる力を持っていたってこと?』
「あるいわハスナさんか…協力者の存在も有り得るだろう」
『…協力者…か』
「思い当たる節は?」
『…いるにはいるけど、本人に話を聞かないと何とも…』
「誰だ?」
『えっと…』
そう問われたリクハはすぐに返事を返さずに言葉を詰まらせた。それはこの任務の目的が、両親の友、イタチのいう協力者かもしれない「うちはムスビ」にたどり着くという為でもあるからだ。そこまでの詳細を話していなかった、というよりは、話せなかったことに少しばかり後悔した。この話をする上で避けて通れないのは、父アキトがうちはの人間だったという真実だ。銀鏡村についてからムスビに打ち明けられては、イタチがどんな顔をするか想像がつく。ここまで巻き込んでしまったのだ。
その真実は今、伝えなくては…。
『イタチ、その…目的地に着く前に、もう一つ話しておきたいことがあって』
「何だ」
『………父さんの、出生に関することなんだけど』
「ああ」
『………』
繋いだ手から伝わる少しの緊張。
覚悟を整えるため目を閉じて深呼吸をした。
きっとイタチならば、大した問題じゃないと受け止めてくれるに違いない。物事の先読みが上手い彼にこの情報を与えれば、きっとまた新たに憶測を立て状況が進展することも期待できる。リクハは『よし…』と内心呟き目を開けると、イタチには視線を向けずに口を開いた。
『その、私の父さん…実は…』
「………」
その時だった。
「二人共、人の気配ダ」
空から一瞬で降下してきたハクセンが、リクハたちの前に現れ東の方角に視線を向けた。なんて間の悪い…そんなことを感じながらも二人は立ち上がり顔を見合わせ頷いた。ハクセンはチャクラコントロールで体のサイズを小さくすると、太い木の枝を蹴ったリクハの肩にとまり気配の詳細を伝えていく。
「二人の男の気配ダ。…一人は大分、チャクラを消費シテいるようダ」
「驚異的な感知能力だな」
「故ニ私は盲目ダ」
『そうだったの…!?…分からなかった…』
月明かりもあまり届いていない森の中を、的確に障害物を避けながら難なく進むイタチとリクハ。気配を殺し、極力音を立てずに次から次へと木の枝を蹴る。そして、数メートル進んだところでリクハの表情が歪み隣を駆けるイタチに待ったをかけた。
『イタチ、ちょっと待って…』
「どうした」
「…主も気づイたようだナ」
適当な枝の上で立ち止まり、近づいてくる気配に違和感を感じたリクハは少し思考を巡らせたあと『病の臭いがする』と言った。その言葉を聞いて立ち止まった理由が明白になり、イタチはなるほど…と腰に右手を添えた。『病の臭い』を感知できる特異的な臭覚を持つリクハ。幼い頃はよく、『ヘンな臭いがする』と言って自分やシスイを不思議がらせていたものだが、仙波一族の者ならば当然だと後にフガクから聞かされて、今ではもう違和感を感じることはなくなった。
「このまま進めば目的地の銀鏡村がある。周辺に集落がないところからすると、気配はそこから来たと考えるのが妥当だろう」
『…伝染病の類じゃないといいんだけど…』
「廃村に近い村だ。可能性は低くないな」
『そうだね。危険だと確認したら私が先に…』
ードサッ!
「お、おい!しっかりしろっ!!」
「うわぁぁっ!!やめろっ、早く逃げるんだっ…!!」
「何から逃げるってんだ!村に戻ろうっ」
「村に戻るっ!?それは駄目だっ!お前さんまで喰われちまう!」
「おいヤシチ!!どうしちまったんだ!しっかりしろ!」
「逃げるんだっ!とにかく走れゴシチ!!」
リクハの言葉を遮るようにして草むらから姿を現したのは、みすぼらしい身なりをした男二人。倒れ込み、何かを喚き立てている男の方はチャクラの消耗が著しく、錯乱状態に陥っているのが分かる。イタチとリクハは木の枝からその様子を数秒観察して、やはり二人が村からやって来た人間で、こちらに危害を加える可能性が低いと判断するとほぼ同じタイミングで地面へと降り立った。
「おい、そこのアンタ」
「…へっ?…って、うわぁ!?!?なんだ君らはっ…」
ガクガクと震えている男は明後日の方を指差し「逃げろぉ…」と連呼し続けていて、イタチの声に振り向き驚愕している男はまともに会話ができるようだった。が、夜の森、しかも誰も寄り付かないような辺境の地に突然現れた少年と少女を前に男までもが腰を抜かして尻餅をついた。
「危害を加えるつもりはない。安心しろ」
「こ、子供がこんなところでな、何してるんだっ…」
『イタチ、私は先にあの人の治療を』
「ああ」
すっと男の横を通り過ぎて、錯乱状態の男の側に膝をつくと、その症状が予想していた見立てと合致し『やっぱり…』と溜息混じりに呟いた。すかさず神手を発動させて白目を剥く男の額に当てがうと、ものの数秒で震えが止まり、瞳がゆっくりと閉じられていく。今の今まで狂ったように喚いていた男が一瞬で治癒されていく様を見て、男は目玉が飛び出るんじゃないかというくらいに目を見開き歓喜の声を上げた。
「な、なななっ、何だ今のっ…嬢ちゃんがやったのか!?」
『はい。この人はこれでもう大丈夫で…』
「その白く光ってる手のお陰かっ!?一瞬だったぞっ…!まるで神の身技でも見てるみてぇだった!!」
『あ、これはですね…』
「よく見りゃあ容姿も天使のようじゃねぇか…っ」
『え…』
「まさか嬢ちゃんは…いや、あなた様は!この疫病を祓う為に遣わされた神のっ…」
その刹那。リクハに詰め寄ろうとした男の襟袖を背後から掴み、強制的に静止させたイタチが表情を歪めて口を開いた。
「戯言はいい。この状況について聞きたいことがある」
「いででっ…。は、話す!話すが、君らは一体何もんだっ!?」
「木ノ葉の忍だ」
Mission.4
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