「リクハ……」
『………』
「喧嘩したんだってな」
『………』
「上級生の、しかも男子相手に」
『………』
「なに考えてんだ、お前」
夕刻時、生徒たちが帰宅し終えて静まり返ったアカデミーの保健室。一人ベッドの上で膝を抱え、窓から外を眺めていたリクハが開いた扉のほうに視線だけを向けると、そこには予想外の人物がいた。
『…シスイ』
「イタチが心配してたぞ」
ため息を吐きながらリクハのそばまで歩み寄るシスイ。そんな彼からバツが悪そうに視線を外し、膝を抱えて顔を埋めたリクハ。その頭には包帯が巻かれ、手足には無数の絆創膏やシップが貼られていた。
リクハのそんな姿に、シスイの表情が曇る。
『…母さんたちは?』
「任務で里の外だ。だから代わりにオレが来た」
『……』
「ケガ、大丈夫なのか?」
『…うん…。平気…』
「相手方は病院で手当てを受けてる」
『………』
「お前は医療忍者だろ。なんでこんな無茶な真似したんだ…」
『だって……』
「……?」
『だってあいつらが…うちはのこと悪く言ったから…』
「え…」
シスイの問いに答えるために顔を上げたリクハの表情は、ひどく歪んでいて、今にも泣き出してしまいそうになるのを必死で堪えながらそう言った。その理由にシスイは言葉を詰まらせる。けれど次の瞬間には、全てを理解しシスイはすぐに穏やかな笑みを浮かべた。
『私はっ…イタチもシスイもサスケもっ…大事な友達でっ…うちはのみんなはすごくっ…優しいのにっ、あいつらヒドイこと言ってたから…っ』
「……」
『それでっ…悔しくてっ…私っ』
「そうか…。リクハはオレたちを庇ってくれたのか」
ついに耐えきれず肩を震わせポロポロと涙を流すリクハ。その姿はとても純粋で、優しさに溢れている。シスイはリクハの頭にポンッと優しく手を置くと、「ありがとう」と感謝の言葉を口にした。
『ごめんっ…シスイッ…』
「謝る必要はない。お前はお前が正しいと思うことをしたんだ」
『う…っ…ひくっ…』
「はは。ほら…おいでリクハ」
言いながら目の前で両手を広げれば、小さな腕を伸ばしてギュッと抱きついてくる。その瞬間張り詰めていた糸が解けたのか、声を出しわんわんと泣き出すリクハ。シスイは小さな体をさらに強く抱きしめて、髪を撫で「大丈夫だ」と優しく宥める。
その姿はまるで、兄と妹の様だった。
『…シスイッ……』
「ん?」
『…父さんと母さんにっ…怒られるかなっ?』
「それは心配するな」
『ホント…ッ?』
「ああ。兄ちゃんが上手く言ってやる」
思っていた以上に特別で、かけがえのない存在になっていた。そう思ったのはこれが初めてじゃない。もっと…もっと前からそう思っていたんだと思う。
昔からオレたちの関係はちっとも変っていなくて…。
血の繋がりなんてなくったって、お前が妹、オレが兄貴。
それは変わらない。別にいいだろ?
これからもそんな仲で。
*
『シスイーーーーー!!!!!』
「ん?」
『絶対に怒らないで聞いてっ』
「おっと…っ、今回はどうした?」
火影室から出てきたシスイ目がけて勢いよく抱きついてきたのは、もうすでに号泣している中忍になったリクハ。どこで自分の居場所を嗅ぎつけて来たのか、日常茶飯事なのでもう慣れた自分がいる。
が、一緒に居た部下はかなり驚いている。無理もない。もともとリクハは母親似の恵まれた容姿で、彼女を気にかける者はそう少なくない。
イタチが一緒じゃなくてよかったと切に思った。
『ク、クナイがっ…』
「クナイ?」
『シスイに新調してもらったクナイ壊れちゃったっ』
「なっ!一昨日用意してやったばっかだろっ」
『ごめん〜〜〜っ!』
「使い方が荒いんだよ…お前は」
シスイから離れたリクハは申し訳なさそうに、腰のポーチから無残な姿になったクナイを差し出してくる。
それを受取り「やれやれ」と呆れ顔のシスイ。
ちなみに新調したばかりの忍具を数日でダメにするのは、これが初めてではない。
『うぅぅ…』
「全く仕方ない奴だ、新調しなおしてやるから来い」
『え!?』
「目を輝かせるな。クナイの新調くらい自分でやれよ」
『…だって…』
「なんだ?」
『だって…シスイにお願いしたいんだもん』
「…………」
もうリクハと出会って数年は経つが、やはりどこまで成長しようがかわいい妹なのだ。
面倒で押しつけてきていると分かっていても、兄弟のいないシスイにとっては唯一無二の存在でついつい甘さが出てしまう。
そんな自分を内心嘲笑いながら、リクハの頭を少し乱暴に撫でるといつもの人懐っこい笑顔を浮かべた。
『あ、シスイ』
「ん?」
『イタチには、最短記録で壊したこと言わないでね…』
「なんでだよ」
『女の私より忍具を綺麗に扱うから…』
「なら、見習ったらどうだ?」
『それはっ…』
「オレがなんだって?」
『「あ…」』
リクハの額を軽く小突き呆れていると、目の前から分厚い書類を持ったイタチがタイミングよく現れた。恰好から見て任務終わり。これから三代目の所へ報告に行くのだろう。
二人に歩み寄りリクハに視線を向けると、少し焦ったような様子で苦笑いを浮かべている。なにかを隠していることは明白だった。
『お、おつかれ様イタチ。ケガしてない?』
「大丈夫だ。ありがとう」
「なあイタチ、このあと時間を作れないか?」
『(ギクッ)』
「別に構わないが、何か用か?」
「おう。こいつを新調しにな」
リクハの願いを完全に無視して、イタチの目の前に壊れたクナイを出すシスイ。
それを見たイタチがすぐにリクハの物だと理解すると、苦笑いを浮かべた。
「最短新記録だな」
『イタチそれ失礼だよ』
「新調したばかりのクナイ壊してくる方が失礼だろ」
『シスイ〜…ごめん〜』
「ったく。いくつになっても手のかかる妹だ」
タカラモノ
(まあでも、リクハにケガがなくてよかったよ)
((オレよりこいつに甘いなイタチは…))
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