夕暮れ時。
顔岩の上から見下ろす木ノ葉の里がオレンジ色に染まり、綺麗だった。昔とは少しだけ変わった里の景色と、隣に居るリクハの成長が比例してるみたいで時間の流れが少しだけ寂しく感じる。同じ里内にいて、いつでも顔を合わせることができるのに戻っては来ない関係や思い出が、少しばかり恋しい。カカシは穏やかな表情で里の景色を眺めているリクハの頭にポン…と手を置く。
『カカシさん?』と不思議そうに自分を見てくるその姿に、愛情が膨らむ。

「オレの愛弟子」
『ミナト先生には、感謝ですね』
「オレ達を繋げてくれた人だからね」

昔から、イタチともシスイとも違う立ち位置で自分を支え成長させてくれたカカシ。初めてカカシに会った日は、もう幼い頃の記憶の中に薄れてしまってはいるが断片的には思い出せる。

リクハが5歳の頃。
その著しい成長には指導者が必要だと提言したミナトが推薦したのが、カカシだった。さまざまな能力に長け、あらゆる面からリクハを成長させることができると見越したミナトの選択は、まさに大きな花を咲かせる結果となった。

「ま。よくここまで成長してくれたね、リクハ」
『そりゃあ、カカシさんの弟子ですから』

ふわりと笑う、優しいこの笑顔が大好きで。カカシは少しだけ乱暴にリクハの頭を撫でると、「ホントかわいい弟子」と困ったような表情を浮かべた。

「なあリクハ」
『はい?』
「今だから聞くけど…、お前あの時本当はどう思ってた?」
『……カカシさんのことですか?』
「ああ」
『………』

もうパックンは居なくなっていて、助け舟はない。
お互い顔を見合わせることなく里の景色に視線を向け、少しの間沈黙が流れる。そんな様子を少し離れた場所から見つめている三人の間に、緊張が走った。

「ほらやっぱり!…カカシ先生とリクハ姉ちゃんは元カレ元カノの仲だってばよ〜っ」
「師弟関係から急激に接近したってわけ!?」
「それしかねぇって!」
「ありえねぇっ。そんな地球がひっくり返るようなことがあってたまるかっ」
「イタチとカカシ先生に挟まれて、ドロドロの三角関係ってやつだってばよ!」
「あんなかわいい顔してっ、やるなぁリクハさんっ」
「やめろお前ら!それ以上姉さんのイメージ崩すな!」

ピーチクパーチク好き勝手なことを言っているナルトとサクラに嫌気がさす。自分は幼い頃からリクハとイタチの関係を見て来ていて、カカシの入る余地なんて一ミリたりともないのを知っていたし今もそう信じている。しかし先日のイタチの態度がその確信を鈍らせ、今現在カカシの口から意味ありげな発言が飛び出したところでサスケの確信が揺れ動く。

「リクハ、あいつじゃなくて…オレを見てよ」

『あの時…私…』
「………」

思い出される記憶に、胸が苦しくなる。
何も言えなかったあの日。
カカシの気持ちに気づいていたのに、何も言えずに逃げてしまった。それから何事もなかったかのように接して来るカカシに甘えて、本当に、何もなかったことにして来てしまった。イタチとの婚約が決まった時も、カカシは笑顔で「おめでとう」と言ってくれた。一体どれほどの思いがあったのかは分からないし、知るのが怖い。今でももし、カカシがあの時の気持ちでいたら…そう考えただけで苦しくなる。自分の恩師を傷つけてしまったかもしれない、そう思いながら。

『カカシさん、私…っ』
「やっぱいい」
『え…』

遮られた言葉が、少し痛い。

「やっぱ、言わないで」
『カカシさん…』
「ごめんねリクハ…」
『私…』
「…泣かせるつもりはなかった」
『っ……』

大きな空色の瞳からポロポロと溢れだす涙を、カカシの両手が拭う。その手は大きくて温かくて、とても優しい。自分が逃げても、どんなに卑怯でも、どこまでもその優しさで包み込んでくれる。

イタチと同じだった。カカシはリクハの思いを知っていたし、叶わないことなど初めから分かっていた。それでも、抑え切れない思いは日々募っていくばかり。だからあの日、言ってはいけないあの一言を伝えてしまった。困らせると、分かっていて。

『ごめん、なさいっ…』
「いや、謝るのはオレだから」
『…っ…』
「お前が選んだのは、オレじゃない。イタチだもんな…」
『…ぐすっ……』
「……なあ、リクハ」
『…っ、はい…?』

カカシの両手がリクハの頬を包んでいて、真っ直ぐその瞳を見つめる。一度目を閉じ深呼吸をすると、やっぱりだ…。心の内側から押し寄せてくる感情の波に、胸が潰されそうになる。だからまた、ほら…言ってはいけない言葉が突いて出た。

「やっぱりオレは……お前が大好きだ。リクハ」

抑え切れない気持ちが、まだこんなに残ってて…。


弟子
(手を伸ばしてはいけないと、分かってたのに)



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