「おはよう妹分!」
『わぁっ!?』
「ハハハハッ。相変わらず忍らしからぬ反応だな、リクハ」
『シ、シスイッ…脅かさないでよ』

朝。
警務部隊の演習場の入口で、中を覗き込みながら入ろうかどうしようか迷っていると、背後からいきなり両目を塞がれ声を上げたリクハ。任務中はしっかり相手の気配に気づけるクセに、一歩里内に入ると「警戒心?なにそれ」状態まで気を緩ませてしまう妹分にシスイは苦笑いを浮かべていた。

「何してんだ?入ればいいだろ」
『あの…シスイ』
「ん?」
『今日、イタチに会った?』

困った表情で恐る恐るそう聞いてきたリクハに、昨日のことを知るシスイは「やれやれ」といった様子でイタチが中に居ることを伝える。正直なにか起こるだろうなとは思っていたが、まさかあのカカシが一線を逸脱するような、思い切った行動に出るとは想像の範囲外。
それはイタチも同じだったようで、珍しく感情を表に出し落ち込んでいる様子だった。

「リクハ」
『ん…?』
「素直に謝れ。話の通じない相手じゃないんだ」
『シスイ、昨日の話は…』
「すまんな。サスケから聞いてるよ、オレも気になってたから」

シスイにとってリクハは、昔から一緒に過ごしてきた大切な妹のような存在。カカシとはまた違った立ち位置でリクハを支え、見守ってきたつもりだ。昨日の話を聞いた時、正直カカシには腹が立ったがリクハにも非があったのは確か。

一番嫌な思いをしたのはイタチだろうと、彼の心中を思うとため息が出る。目の前にいる妹分は今にも泣きそうな顔をしているし、いやあと数秒で泣きだすと悟ったのかシスイは両腕を軽く広げて声をかけた。

「よし、来いリクハ」

その言葉と共に大粒の涙をボロボロと流し始めたリクハ。昔から、イタチに言えないことはこうして自分が受け止めてきた。リクハに抱く感情は、イタチやカカシのそれとは違う。本当の家族に感じる愛情に近いもので、イタチもそれは理解していた。「よしよし」と自分の胸で泣いているリクハの頭を撫でながら、どうして周りもこの二人をそっとしておいてくれないのかとシスイはため息をついた。

『…う゛っ…私ホントに…っ最低なことしちゃったっ』
「全くだ。隙だらけなんだよ、お前は」
『…っ……シスイ…ッ』
「なんだ?」
『…イタチに絶対嫌われたっ…!』
「はあ〜?」
『こんな最低な女、絶対いらないって言われるっ…』

何を言い出すかと思えば、くだらない心配ばかり。
いくつになっても恋に鈍感な妹は、今だに健在らしい。シスイはリクハの体を少しだけ引き離すと、涙に濡れた頬を両手で軽く引っ張り上を向かせる。大きな空色の瞳は自分を見上げ、不安げな表情。イタチがあれだけ理不尽で納得のいかない状況下でカカシに頭を下げたのは、本当にリクハを想い支えたいと思っているからこその行動だったとシスイは思う。

それ以下でもそれ以上でもない。大切なものを背負うと決めた、イタチなりの覚悟の現れ。誰にだって出来るようなことじゃない。リクハを想うイタチだからこそ、できたのだ。

「お前は昔から、こういう事には疎くて鈍感だからな」
『うぅ〜っ……ごめんっ…』
「謝る相手が違うぞリクハ」

溢れだす涙を、親指で拭ってやる。

「今お前がこれだけ泣いてるなら、イタチはもっと悲しんでる」
『………』
「アイツは本当に優しいやつだから、自分がどんなに辛くても…お前のためなら笑うんだよ。昔から、ずっとそうだった」
『……っ』
「イタチはいつも、お前のことを考えてるよリクハ」
『……』
「小さい頃から変わらずずっと…お前を守りたいって。言葉になんてしなくても、イタチの行動がいつもそう言ってた。今回だってそうだろう」

「リクハのことは…もう全部オレに任せてください」

リクハの脳裏に、昨日のイタチの姿が鮮明に映し出される。あの後も、家まで送ってくれたその帰り道…イタチは一切リクハを咎めるようなことはしなかった。ただ少しだけ、苦しそうな笑顔を浮かべていただけ。

「イタチがどんな思いで全て呑み込んで…カカシさんに頭下げたかちゃんと考えてみろ」
『…っ…』
「…行けるか?」

最後に涙を拭ってやると、リクハは大きく頷きシスイに『ありがとう』と伝え演習場の中へ入って行く。小さくて、一人前だがどこか守ってやらないとと思わせてくるその後ろ姿に、シスイは柔らかな笑顔を浮かべた。


大丈夫。
いつもこうして待っているから

(だから思い切り、お前を歩めばそれでいい)


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