演習場内にある簡易施設。
今はその中で資料整理をしていると、シスイは言っていた。リクハは扉の前で一度深呼吸をし、先程のシスイの言葉を思い出す。ずっとそばに居たのに、見失ってばかりだ。イタチは自分の事を、こんなにも考えてくれているというのに。

「………」

資料の整理をしていても、いつものように作業が進まない。
昨日のことが頭をよぎり、全く集中できずにいた。
机の上には書類と巻物の山。
イタチが珍しく机の上を乱し、深いため息ばかりを繰り返す。こんなことで作業に支障をきたすなどあってはならない事なのだが、どうしてもダメなのだ。リクハのこととなると。
そんな自分にも、昨日のことにも嫌気がさしてならない。手の甲に額を乗せ、完全に考える態勢に入ってしまったイタチと、開いた扉からリクハが中へ入って来たのはほぼ同時のタイミングだった。



一方その頃…。

「二発殴らせろ、カカシ」
「あのね。盗み聞きしてたのはお前らでしょ?」
「そう言う問題じゃないってばよ!最低だっ、最低な人だあんたは!」
「軽蔑しました!カカシ先生」
「はあ〜〜…」

第七班の修行をつけるためいつもの場所に向かったカカシ。
「おはよう」と挨拶するなり三人からの鋭い視線と非難の声が殺到し、ため息。自分の行動も行き過ぎていたと反省しているが、人のプライバシーを盗み聞きしていたこの三人にいろいろと咎められたくはない。
が、いかんせん目の前で起こった光景からしか意見できない年頃なのだ、どうしたものかと考えてはみるものの、カカシの頭の中はリクハのことでいっぱいだった。

「大人の世界があるんだよ、お前たちもあと10年経てば分かる」
「ふざけんな!姉さんとイタチを傷つけやがって」
「そうですよ!ホントありえないっ」
「姉ちゃんはカカシ先生のこと尊敬してたんだってばよ!?」
「(あー、うるさいなァ)分かってるよ、そんなことは」
「だったらなんで…っ!」

ぐいぐい詰め寄ってくるナルトを制止し、カカシは深いため息をついた。そして、至って真面目な視線で三人を見つめる。

「確かめたかったんだ」
「確かめる、だと?」
「ああ。…リクハを想うイタチの覚悟をね」

好きだ惚れたなんていう茶番はいらない。
愛している、そんな簡単な感情だけなら消してやる。
大切な恩師から託された、唯一無二の…リクハの命。彼女を思い、夢半ばで命を落としていった両親に代わり、ミナトに託された意志を継いで、カカシはリクハを守り成長させてきた。
そこには並々ならぬ思いと覚悟があり、そして同時に…抱いてはいけない感情が芽生えてしまったことも…事実だった。

「イタチはお前なんかより、姉さんを想ってる…」
「サスケ君…」
「お前なんかが割って入れるような繋がりじゃねぇんだよ」

サスケの鋭い眼が、カカシを睨みつける。
イタチ同様サスケもまた、抱く感情は違えどリクハを姉だと慕い大切に思っているのだ。
カカシはそんな視線に苦笑いを浮かべて「そうだったな」と短くそう言った。

「さーて、修行始めるぞお前らー」
「うわ!何事もなかったかのように切り替えた!」
「ありえない!キモいです、カカシ先生っ」
「え、それヒドくない?」
「「反省しろ!」」

こんなにも大きな愛情を、今まで感じたことがあっただろうか。自分の命を投げ捨てられるほど、守りたいと思った相手がいただろうか。

『カカシー』
「あのねリクハ。オレ今日からお前の上司だよ?呼び捨てはないでしょ」
『そ、そっか…。えっと、じゃあ…』
「まあ、何でもいいけど…。それと、年上に向かってタメ口は厳禁な」
『う、うん…あ、じゃなくて…はい』
「特に火影様には。分かった?」
『はーい』
「伸ばすな、ちゃんと返事。もう一回」
『はい…』
「それと、話す時聞く時は相手の顔ちゃんと見る」
『……プイッ』
「あ!このリクハ!わざとだろっ」
『カカシ細かい!』
「お前が大雑把すぎるんだよ!」


飛び抜けていたのは忍術における才能と努力する才能だけ。最初のうちは言うことなんて聞きやしないし、すぐ泣くし、そのくせ負けず嫌いで大変だった。
挨拶の仕方もろくに知らなかったあの小娘が、木ノ葉の里にこの人ありと言われる様にまでなったのは彼女の惜しみないひたむきな努力があったから。
大事に、大切に、育ててきたリクハという宝物。まだ少し、手放したくない。そんな複雑な思いが、カカシの胸を少しだけ締め付けた。


タカラモノ
(なんでこんなに大事になっちゃったかなー)


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