「貴方も懲りないですね」
「だって愛してるもん」
「…あいつをこれ以上怒らせない方がいい」
「まじな顔して言わないでくれる?」
「オレは庇う気ないですよ」
あれから一週間が過ぎた。
あの一件以来、イタチとは一度だけ顔を合わせる機会があったのだが、彼のたち振る舞いは恐ろしいくらいに完璧で人格者のそれだった。
*
「カカシさん」
「…イタチか」
「さっき五代目から聞きました。明日からまた、リクハがカカシさんの下につくとか」
「ああ。担当上忍候補だからね、いろいろ教えてやれってさ」
「そうですか。よろしくお願いします」
「…あのさ、イタチ」
「なんですか?」
「怖い、その作り笑顔…」
会った瞬間から、不自然なまでの綺麗な笑顔を貼り付けているイタチに恐怖心さえ感じるカカシ。暗部で一緒になった時はまだ幼さがあり可愛げもあったが、今のイタチは自分をも凌ぐ力を持ち合わせているほどに強い。
何を考えているのか全く読めず、逆にナルト達のように非難してくれた方が対処し易かった。
「カカシさん」
「なに?」
「…リクハのこと」
「……」
「オレに任せてくれて、ありがとうございます」
ああ、ほらまただ。
「リクハの師があなたで良かったと、今はそう思います」
「はあ〜…」
「オレに至らないところがあったら、また…ご指導ください」
昔から完璧なまでにすべてを受け入れてしまうイタチ。どう感情を処理しているかは分からないが、年上の自分よりも大人に見えて仕方がない。…ただ少し、そんな彼のやり方が不器用で背負い込み過ぎているんじゃないかと感じる時がある。自分がどんなに優れていてもそれを表には出さず、むしろ教えを乞うてくる低姿勢に「できすぎだろう」と嫌味を言ってやった。
「勝てないね〜」
「手離すつもりはないですから」
「まだ諦めてないって言ったら?」
「無理でしょう、もう」
「あ〜、ムカつくなぁ。その余裕の笑顔」
つい先ほど渡された大切な書類の入った封筒を指差すイタチに、少し腹が立つがこの選択をしたことに…後悔なんてしていなかった。
『ちょっとカカシさん!書類一枚忘れてっ…て、イタチ…』
「リクハ。もう済んだのか?」
『う、うん。…あの…なんか大事な話してた?』
今日はカカシと大事な用事があり、それを済ませに来ていたリクハ。もちろんイタチもそれは知っていたから良いのだが、あれ以来顔を合わせるのはこれが初めて。ピリピリとした雰囲気が漂っているわけではないが、リクハは二人を前に一番気まづそうな表情を浮かべた。
「ああ。男同士の真面目な話してたとこ」
『えっ…あの、じゃあ…私先に帰ってましょうか?』
「いーよ。一生終わりそうのない話だから」
「カカシさん…」
『お、穏便にお願いします…』
カカシの言葉に苦笑いを浮かべたイタチ。
リクハは特に表情を変えることのないカカシが逆に怖くて、一歩後ずさる。が、次の瞬間にはカカシが持っていた封筒でリクハの頭をポンと叩き、いつものやる気のない口調で「てゆーかさー」と文句を言われた。
「こんな大事な書類提出するって時に、なんで印鑑忘れんのお前」
『え…だって要らないって言ったじゃないですか』
「もう一回来なきゃいけなくなったし、二度手間。自分のミスを人のせいにするな」
『カカシさんだって大事な書類忘れてるじゃないですか』
「だって受付のおばちゃんが要らないって言ってたし」
『はいその言い訳あり得ない。物忘れは歳のせいよ』
「あ!年上にはタメ口使うなって昔から言ってるよな、オレ」
『うるさいこの変態!セクハラ上忍!』
「…リクハ、仮にも自分の師に向かってそれはないだろう」
「イタチ君、仮にもってヒドくない?」
*
里から少し離れただだっ広い草原で、ナルトたちに修行をつけているリクハを見つめ目を細める。
ベストの胸ポケットから取り出したお守りは、一週間前にナルトに見せたものと違って真新しくなっていた。
「で?お前がここに来るなんて珍しいね。シスイ」
「ええ。今日は非番なんで、妹の身の安全を確認しに」
「イタチの差しがね?」
「いえいえ。オレの独断で」
「…団結力あるなぁ、お前ら」
「大事な妹ですから」
カカシと同じように少し離れた場所に居るリクハたちに視線を向けるシスイ。彼のリクハを思う気持ちはカカシやイタチとは少し違うけれど、その姿は妹を思う兄のそれでカカシは大事な弟子を見守ってくれる頼りがいのある二人の存在に、笑顔を浮かべた。
『シスイーッ』
それから数時間して修行を終えたリクハがシスイの存在に気づき駆け寄ってくる。その姿のなんともまあかわいい事か。
自分なら間違いなくデレデレしてしまうところだが、隣で「おう!」と手を振っているシスイからはそういう下心的な物が一切感じられず、なんて恐ろしい男なんだと感じずにはいられなかった。シスイが両手を軽く差し出せば駆け寄ってきたリクハが躊躇なくその手を握り、嬉しそうに満面の笑みを向ける。
『シスイが来るなんて珍しいねっ』
「んー、まあな」
「なんでオレ見るのよ」
「いいかリクハ。カカシさんには気をつけろよ?」
『うん。…それで今日来てくれたの?』
「妹が心配なんだよ、オレは」
そう言ったシスイの爽やかなこと。
リクハはカカシと会話している時とは違い、そりゃあもうずっとニコニコニコニコしている。昔から仲が良い事は知っていたが、見せつけてくれるなあ…なんて少しだけガッカリするカカシ。
今の今までしていた修行の内容をひたすら喋り続けているリクハの話を、「そうか、そうか」と優しい表情で聞いているシスイは本当に良い兄の姿に見えた。
『あ、そうだシスイ』
「ん?」
『今日からなんだよ。ね、カカシさん』
「え?あー、そうだったな」
「ああ。…そうでしたか」
前々から話は聞いていたが、今日がその日なのかとカカシに文句を言いながら表情を歪めているリクハを優しい眼差しで見つめた。
彼女の両親が亡くなり、もう随分と時間が経つ。親を亡くしたこの二人の新しい形の関係に、シスイは嬉しく思っていた。血の繋がりなんて関係ない。必要なのは、大事なものを背負う覚悟があるかどうか。背負った瞬間から死ぬまでずっと、守り通す覚悟があればあのずと力もついてくる。
自分やイタチを強くしてくれたのも、大切なリクハという繋がりがあったからこそ。シスイはリクハの肩に手を置き一歩前に出ると、カカシに向かって深々と頭を下げた。その行動に先日のイタチの姿が重なる。
「世話の焼ける妹ですが、よろしくお願いします」
「…それはオレじゃなくて、イタチに言うべき言葉じゃないのか」
「ああ、いいんです。あいつには」
「?」
顔を上げたシスイは真っすぐカカシを見つめ、穏やかな表情を浮かべる。
「お前がリクハを背負っていけって、言ってあるんで」
「…お前ら本当にかっこいいね」
愛娘
(なんでも一緒に背負ってやるから、好きなように生きていけ)
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