「お前それ…何をどうしたらそうになったの?」
『卵を焼いた、だけなんですけど…』
「女で料理できないとか、嫁の貰い手いるのリクハ」
『…カカシさんこそ、そんなに性格歪んでたらいい人来ないですよ』
「……とりあえず片づけろ」
『ですね…』
ああ、懐かしい。
「雷切!」
『うわっ…!』
「避けるの遅い!今のじゃ死んでるぞ!」
『だったら力の加減して下さいよ!いくら医療忍者って言ったって怖いわ!』
「タメ口使うな!ちゃんと空中でも受け身とれる様になるまで帰れないからな」
『わー!鬼!死んじゃえ!』
「はあ!?」
何十年分の、いろんな思い出が蘇る。
『カカシさーん!』
「うるさい。読書中」
『ちっ。エロ本呼んでるだけじゃないですか』
「お前今舌打ちしたよな」
『してないです。それより聞いて下さいよっ』
「なに?」
『ミナト先生の螺旋丸!会得しましたっ』
「…まじで?」
『まじです!見てて下さい!』
「おまっ、人ん家壊す気か!」
今思い返せば、楽しい思い出ばかりだ。
日々着実に成長していくリクハの姿を見るのが楽しくて、嬉しくて、好きだった。たくさん衝突もして、くだらないことで笑い合って。リクハがいる毎日は、オレにとって、本当に希望そのものだった。
『カカシさーん』
「……」
『起きてるのわかってますよー』
「……」
『おいったら』
「……」
『…わざとだ。絶対わざと』
「……」
夢の世界からはもうだいぶ前に戻ってきてはいるが、リクハの呼びかけに一切応じようとしないカカシ。
『ちょっと六代目!』
「……」
『六代目火影様ー』
「……」
『………』
「……」
『…父さん、起きっ…』
「あー、いい夢見たー」
"父さん"というフレーズが耳を掠め、火影室の机につっぱなしていたカカシはわざとらしく今起きました的な様子で体を起こす。目の前には冷たい視線を送ってくるリクハの姿があり、何年経っても変わらなく美しさを増す教え子に笑顔を向けた。
『…おはようございます、六代目』
「えー。さっきみたいに父さんって言ってくれないの?」
『火影室なので』
「いいじゃない二人だけなんだし」
『………はあああ〜』
「なによその盛大な溜息は」
あからさまに表情を歪め、持ってきた大量の書類をカカシの前にドンッと置くと今度はカカシが表情を歪めた。今しがた片付け終わったばかりなのに、なんでこうもポンポン運ばれてくるのかが分からない。「リクハ〜」と懇願するように名前を呼べば、『早くサイン下さい』と容赦ない視線が返ってきた。
「たまには娘とのんびりした休暇を過ごしたいよ、オレは」
『火影様に休暇はないですよ』
「その"敬語"はやめてって。親子なんだから」
『昔はタメ口使うな、特に火影様には〜とか言ってたくせに』
「それはお前の教育の一貫」
渡された書類をめんどくさそうにペラペラとめくり、サインをしていく。数年前、まだナルトたちの担当上忍をしていた頃のカカシがリクハを自分の養子にしたいと言い出した時にはそれはそれは驚いたものだ。
血の繋がりもなければ、ただの師弟関係だった二人。それ以上でも、それ以下でもないと周りは思っていたのだが、カカシはそうではなかったらしい。
幼い頃から彼女の成長を支え、見届けて行く中でカカシの中でも気持ちの変化があったのだろう。
「リクハ−」
『はい?』
「お茶淹れてくれる?」
『もー、めんどくさいな〜』
「そこは、うん。父さん、とかじゃないの?」
『余計なこと言わなくていいから手を動かして』
「ひっどいなー、お前」
とかなんとか言いながら、カカシの要望に応えお茶の入った湯呑を机に置いてくれるリクハ。昔はお茶すら淹れられないほど料理と言う才能がなかったが、今はもうその面影はない。
たまに作ってくれる手料理はどれもみんな美味しくなった。カカシが「ありがと」と言いながら笑顔を向けると、大好きな笑顔が返ってきた。
「そう言えばさ」
『ん?』
「ナルトの結婚祝い、何にするか決めた?」
『それがまだ、カカシさんは?』
「オレもまだ」
サインし終わった書類を「はい」と渡し、お茶をすする。リクハの前ではなんの躊躇もなく口布を外すカカシ。見慣れた素顔に特に思う事もない。
話題はあと数か月でヒナタと結婚するナルト達への結婚祝いをどうするかに変わる。
あーでもない、こーでもないと議論を交わしている中でカカシはふとあることを思い出した。
「あのさリクハ」
『なに?』
「オレ結局お前の結婚祝い何あげたんだっけ?」
『え、覚えてないの?』
「まー。お前は貰ったって言ってたけど…」
『物じゃないと言えば、物ではないけど』
やっぱりそうだよなと考えるカカシに、リクハは穏やかな笑みを浮かべ『一番素敵な贈り物だったよ』と言った。それでもまだ見当がつかず首を傾げると、机の上に置いていた手作りのお守りをリクハが手に取りそれをカカシに向け見せる。
それはリクハがカカシのためにと作った大切な宝物。
『カカシさんから貰った贈り物は』
「……」
『あなたが、私の父親になってくれたことです』
「…泣いてもいい?」
あの日貰った最高の贈り物
(父さん、そう呼ぶお前の姿が大好きになった日)
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