目が覚めてから数日が経った日に、病院の屋上で両親の真実を知った。それをもたらしたのは長い間家族のように接してくれいた幼馴染の両親でもなく、同族の人間でもなく、ましてや信頼を寄せていた木ノ葉の上層部でもなく…母から継いだ口寄せ動物からだった。
幼かったとはいえ、全く知らなかった両親の裏の顔。
闇など似つかわしくない父親は根の暗部。
それも二重スパイだった。
母親はそれを黙認し、やがて死んだ。
そして次は神手という血継限界を継いだ自分が命を狙われているという。まるで昔暇つぶしで読んだ推理小説のようだった。
*
「リクハと任務に就くって?」
「…?」
「しかもツーマンセルで」
リクハを家まで送り届けた後、すぐに家へ帰る気分にはなれずいつもの場所へ足を運んだ。南賀ノ川の上流、夕日に染まる大きな滝を前にして、イタチは背後から聞こえた馴染みのある声に振り向き少しばかり表情を和らげた。
「シスイ。戻っていたのか」
「ついさっきな。簡単な任務だったよ」
姿を見せたのは親友のシスイで、朝から任務に出ていたわりには顔色がよく見えた。簡単な、という言葉から余程余裕があったらしい。シスイはイタチの隣に並ぶと、先程の問いをもう一度口にした。
「いつから任務に就く」
「明後日だ」
「三代目に直接願い出たって?」
「ああ」
「そうか…。余程里に居たくないのか、あいつ」
「……シスイも気付いていたか」
「まあな」
お互い視線を交えることなく、轟々と落ちる滝を見つめている。
イタチは先程のリクハとのやり取りを思い出し、額に右手を添え瞳を伏せた。
「以前と変わらず気丈に振る舞ってはいるが、何かを抱えてるように思う。まあ、聞いたところで打ち明けてはくれないが」
少しばかり残念そうに肩を落としたシスイ。
彼もまた、イタチ同様リクハを心配している。
妹のように可愛がり、世話を焼き、彼女の良き相談相手として常に隣にいるシスイ。イタチとはまた違った立ち位置にいるシスイは、もともと情に厚い性格もあってか、妹同然のリクハの力になれていない現状にもどかしさを感じていた。
「……一つ、気になることがあるんだ…」
「何だ?」
手を下ろし、ここにシスイが来てから初めて視線を重ねた。自分と同じ漆黒の瞳が、妹のように大切に思っている存在を心底心配しているのが分かる。イタチはそんなシスイにここ一週間ほどリクハのある行動に疑問を抱き、気づかれぬよう様子を伺っていたことを打ち明けた。
「…ある行動?」
「ああ」
「なんだよそれ」
「…理由は分からないが…」
普段から簡潔に物を言うイタチが珍しく言葉を濁す。
その感じから、シスイの勘が良からぬ方へと働き始める。
「勿体ぶらずに言え」
「リクハが…暗部の情報を得ようとしている」
「!」
「それも…ダンゾウの暗部、"根"の情報をだ」
「なっ…」
一度目の話で見開いた目を、さらに大きくして驚愕するシスイ。無理もないと、イタチは思った。自分もそれを確信した時、言いようのない不安を抱いたのだから。
「待てイタチ…何の冗談だ…」
「冗談じゃない。…そう思いたいが」
「何故あいつが根を探るんだっ」
「……」
「イタチお前、いつからそれに気づいてた?」
「…一週間前だ」
普段から冷静に物事を考えることのできるシスイが、イタチの話を聞いて不安や焦り、憤りを感じているのが見て取れた。
「ダンゾウにバレでもしたら大事になる…」
「あいつは優秀だ。痕跡は残さず嗅ぎ回ってる」
「…だからって…はぁっ…」
一度上げた手を力無く落とし、深いため息をついたシスイ。不安や心配は当然あるが、暗部相手に一切の痕跡を残さず情報を探っているリクハの能力には関心さえ抱く。
「この事は、他言しないでくれ」
「当たり前だ。護衛に就くのは明日からだろ?」
「ああ」
「…なら、今夜はオレが見張る」
「見張る?リクハを?どうする気だ…」
「まあ、任せろ。オレが気取られずにあいつのそばに居ることは容易い」
「………」
シスイの言葉に表情を歪めるイタチ。
そのあからさまな反応に、シスイは笑いを堪え親友の肩に手を置いた。
「イタチ、そうゆう意味じゃ無い」
リクハのことは、誰より一番…イタチが理解している。そんなことは分かっている。
「お前の不安や心配は、リクハの前だと顔に出る」
「………」
「あいつはそれに気づかない程鈍感じゃないぞ」
未熟だと、一番守りたいと思っているリクハの前で平静を装うことすらできない自分はまだまだ力が足りないと、そうイタチが考えていることは容易に想像できた。天才だが不器用で、性根の優しい親友についつい笑みがこぼれてしまう。
「それでいいんだ、イタチ」
「?」
「リクハの前では、装うな」
ありのままで居て欲しい。
そう内心呟いた。
暗部に入り、里と一族の間に立たされているイタチが、自分が何者であるかを見失ってしまわぬように…唯一気を許せる存在の幼馴染の前では、ありのままのうちはイタチで居て欲しいとシスイは切に願っているのだ。
「シスイ、オレは…」
「お前がリクハを心配する気持ちは痛いくらい理解できる。だが今は、あいつにその思いを気取らせるべきじゃない。余計に気を遣い、心を閉ざす」
「………」
「その意味、分かるか?」
「え…?」
軽く首を傾げてシスイの言葉の真意を探る。
夕陽に照らされた親友の顔は、実に穏やかでどこか嬉しそうだった。
「リクハにとっても、お前は特別ってことだ」
「……」
イタチの肩が小さく跳ねる。
それはそれは分からないくらいに。
だが、シスイはその気持ちの変化を見逃さない。
「どうゆう意味だ」
「ま、後は自分で頑張れ。オレは恋の女神じゃない」
「おい、シスイ…」
「明日の日暮れ、またここに来る」
「………」
「じゃあな、イタチ」
わざと戯けた感じでイタチの肩を数回叩き、質問に応えようとすらせず瞬身で姿を消してしまったシスイ。どこか違和感を感じながら、イタチは瞳を伏せ小さな溜息を吐いた。
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