『…シスイ』
「ん?」
『さっきカカシさんの前で、どうして嘘を?』
「なんだ、修行してたんじゃないのか?」
『それは…』
「聞いたところで本当のことは教えてくれないんだろ?」
『………』
「別にいいさ」
リクハを家まで送るため、カカシと別れ夜道を歩く。シスイの少し後ろを歩いていたリクハがおもむろに気になっていた疑問を投げかけ歩みを止めたものだから、シスイもつられるようにして立ち止まり穏やかな表情で振り返った。
カカシもそうだが、シスイもだ。自分があんな時間に修行なんてするハズがないと分かっているクセに、特に深く追求するでもなく嘘をついてまで手助けをしてくれた。リクハが何かを隠し、理由があってあの場所に居たことくらい、カカシとシスイともなれば見抜いているだろうに。
「言えないことの一つや二つ…」
『私を見張ってた…?』
「おいおい…」
『イタチに何か言われたの?』
「なら聞くが…見張られるような心当たりがあるのか?」
穏やかな口調だが、質問を最もな質問で返されてしまって口籠るリクハ。シスイにはいつだって敵わない。
「ただオレたちは、ここ最近のお前が心配なんだ」
『……』
「どこかうわの空で、遠くばかりを見てる」
『別に普段と変わらないよ、私は大丈夫』
「そうゆうのが心配だって言ってんだ」
シスイとは、出会ってからもうすぐ10年になる。優しくて、気さくで、情に厚く、いつもリクハの世話を焼いてくれる兄の様な存在。そばにいてくれると、実に頼もしいのだが…彼もイタチ同様誤魔化しがまるで効かない。隠し事ができないのだ。だから今まで全てを打ち明けてきた。ずっとそれでいいと思っていたし、話せないことなんてないとさえ思っていた。
今だって、心の奥底ではハクセンから聞いた真実も、それに対しての葛藤も、抱えているもの全てを打ち明けてしまいたいと、そう叫んでいる自分が居る。
けれど、一度弱さを見せてしまえば今自分がしていること、しようとしていることに巻き込んでしまう。例え拒んだとしても、二人は必ず手を差し伸べてくれる。イタチにもシスイにも、それぞれ抱く未来があって、上層部を敵に回す様なことをしてその光を奪うことはできない。
「なあ、リクハ」
『…?』
「いつもお前の世話ばかり焼いて、鬱陶しいと思わせている時もあるだろうが…オレにとってお前は…」
戦場でリクハと出会った時から、その存在がすでに特別だったことを今でもしっかり覚えている。何故だが不思議と、理由もなくただ守らなければと思ったのだ。イタチが抱く想いとは異なるが、これも愛情の一種。家族愛に近いものを感じている。どうしたってリクハのことが心配で、自分がどうにかしてやらなければと思ってしまうのだ。
「お前は、大切な妹なんだ」
『…シスイ』
血の繋がりは無くとも、リクハを心から愛している。
それはもちろん、家族として。
「だから、危険に身を晒すようなことはして欲しくないんだよ」
『……』
「何かあるなら、話してくれ。一人で抱え込むな」
気づくとシスイが目の前にいて、優しい笑みを浮かべリクハの肩に手を置き語りかけていた。里の者たちが抱くうちはの印象とは裏腹に、シスイという人物はこんなにも優しい心を持っている。両親を失い、友と呼べる存在は少ないが、こうしてシスイがそばにいてくれることをとても心強く感じた。
『ありがとう…シスイ』
「そんな泣きそうな顔するなって」
『…うんっ…』
「ここ数週間で、お前にとってはいろいろあったからな…任務がてら、気持ちの整理をして来るといい」
表情を歪めているリクハの肩を抱き寄せ、再び歩き出すシスイ。自分よりも狭いリクハの歩幅に合わせ、ゆっくりとしたペースで。
『イタチから任務の話聞いたの?』
「いや、三代目からだ。お前が願い出たそうじゃないか」
『うん…』
「今は、里に居たくないか?」
『…それもあるんだけど。ちょっと、確かめたいことがあって』
「確かめたいこと?」
リクハが三代目に願い出た任務内容、それはとある村の往診を兼ねた医療物資調達。
危険な任務ではない。
両親の情報を集める中で、父と母が頻繁に出入りしていた場所だということを知り居ても立ってもいられなかった。
「それも、話せない何かか?」
『……』
「ああ、分かってるよ、すまなかった」
『シスイ、私…』
「いいんだ。話せる時が来たら、いつでも頼れ」
そう言って妹の肩を抱く兄の手の温もりが、とても頼もしく感じた。
*
翌日。
イタチは今日の暗部での任務を境に、主要任務から外れリクハの護衛につく。だから今日一日だけはいつもと変わらずろ班の集合場所に足を運び、面越しにだが仲間たちと顔を合わせる。
「本当に…すみませんでした」
「いや、だからもういいんだ。一応報告しとこうと思っただけだから」
「……」
うちは一族を監視するために設営された監視塔。
カカシと共に交代へやって来たイタチは、テンゾウから昨夜の話を聞かされるなりバツが悪そうに頭を下げて謝罪した。すでにシスイから話は聞いてはいたが、一応…建前上暗部の先輩にはそれなりの態度を示す必要があるからだ。
「それに、カカシさんも一緒だったみたいだしね」
「ああ、修行をしていた」
テンゾウがイタチの背後にいるカカシに視線を向けてそう言った。
「オレからも、よく言い聞かせておきます…」
「君たちは、幼馴染みだって言っ…」
「そうしろイタチ。次は無いと伝えとけよ」
「………」
テンゾウの言葉を遮るようにして口を挟んできたのは、昨夜現場に居合わせた挑発的な口調の若い男の暗部。その隣には、体格の良いスキンヘッドの寡黙な男が並んでいる。イタチは面の下で瞳を細め、軽く睨みつけた。
「おまけに態度と礼儀も弁えろってな」
「暗部に対して刃を向けるなど言語道断だ」
「幼馴染みが幼馴染みならってやつだな。あれじゃ死ぬぜ」
「…っ」
「よせ、お前ら」
死というワードに珍しく感情をさらけ出したイタチ。それを制するかのようにカカシが肩に手を置き、一歩前へ出る。こんなくだらないやり取りに、流される必要はないと言うかのように。
「あいつの指導はオレがしてる。何か不満か?」
「……可愛い弟子だか知りませんが、特別扱いし過ぎなんじゃないっすか」
「火影邸周辺への侵入と暗部に対して攻撃をしかけるなど、ただの中忍が犯していいことではないでしょう。隊長」
「悪いな。あいつには、いかなる状況下でも攻撃をしかけられたら応戦しろと叩き込んである。火影邸周辺への侵入も、三代目には報告し了承を得ただろう」
「だからって…」
カカシの物怖じしない淡々とした口調に、二人は顔を見合わせ言葉を詰まらせる。
「あいつは…」
「あ?」
「あいつは、もうただの中忍というレベルを越えています。対峙してみて力量の差が分かったのではないですか?」
「んだとクソガキッ…」
「あーほら!もうシフト交代の時間だ!次の仕事に行くよ!」
イタチの言葉に声を荒げた若い男の暗部。すかさずテンゾウが割って入り、無理矢理入り口の方へと背中を押して誘導する。「ちっ」という舌打ちが聞こえたが、カカシの構うなという呟きに一気に頭を冷やし望遠鏡の前に立った。無機質なドアの閉まる音が聞こえた後、イタチは分からないくらい小さく溜息を吐く。
「…お前、リクハの事となると冷静さが欠けるな」
「すみません…」
口から出た言葉とは裏腹に、内心では貴方もだろうと反論する。
「シスイから話を聞いてたか?」
「……はい」
「リクハからは?」
「聞いてません。…何故です?」
「いや。…思ってることは同じだと思うけどね」
それは、何故あんな時間にリクハがあの場所に居たかという疑問の答えを知りたいと思っているということ。残念ながらその答えを知っているのはリクハと…恐らくは彼女の口寄せ動物であるハクセンくらいだろう。
「オレは知りません」
「じゃ、誰も知らないわけだ」
「…………」
カカシの言葉に返事を返すことはせず、望遠鏡を覗き込んだ。モニターには次々と移り変わるうちはの敷地内の映像。うちはを見張るということは、同じ敷地内にある仙波一族も見張るということ。特徴的な空色の髪を持つ人々が、なんの躊躇も隔たりもなくうちはの人間たちと接している。
この開放性が、もっと一族間にあれば…そう思いながらレンズを移動させ別の場所に視線を送ると、そこには。
「…(サスケ、リクハ)」
大切な二人の姿が映り込んだ。
She is my Childhood friend.
(今も昔もこれからも…)
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