「リクハ」

早朝。
朝靄に包まれた木ノ葉の里。
少しばかりひんやりとした澄んだ空気に肌寒さを感じた。

『…!イタチ、合流は門の前でって…』
「どうせ通り道だ」
『…そうだけど』

身支度を整え必要最低限な物だけを詰めたリュックを右肩だけで背負い、上着を持って玄関の扉を開けると視界の隅に人影を捉え、視線を向けるとイタチが居た。アパートの通路に備え付けられた手摺りに寄りかかり、昨日サスケ経由でイタチの手に渡った資料に目を通しているところだった。
リクハの存在に気づくや否や穏やかな表情を浮かべ、資料を折りたたみながら手摺りから体を離す。扉に鍵をかけてイタチの隣へと歩み寄ったリクハは、昨日のこともあってか少し気まずそうな表情を浮かべていた。

「荷物はそれだけか?」
『うん。…資料、読んでくれたみたいだね』
「ああ。目的地まで一日かかるな」
『ごめんね。長旅になるけど…』
「別に構わないさ」
『ありがと…』

普段と変わらない会話をしているだけなのに、どこか気まずい。イタチからはそんな雰囲気は伝わって来ないが、何か思ってることがあるのは確かだ。あえて視線を合わさず伏せ目がちに話を聞いていると、目の前に四つ折りにされた地図が現れ手渡される。
一瞬だけイタチに視線を向けるとしっかりと目が合い、とてつもなく不自然に逸らしてしまった。そんなリクハのあかさらまな態度に、少しだけ不満が募る。だがイタチはそれを出さずに至って平静を装い開かれた地図の一点を指指した。

「少し遠回りになるが、この渓谷は迂回しよう」
『昔から使われてるルートだけど、何か問題が?』
「ここは半年前の豪雨で地盤が相当緩んでる」
『通行止めに?』
「多分な。極力リスクは回避したい」
『分かった。じゃあ迂回ルートで向かうのね』
「任務中はオレの指示に従ってもらうが、異論は?」
『ないわ、従う』

赤く記されたルートと、言われた箇所を確認するリクハ。今回の任務は暗部の保護下で遂行するため、もちろん自分勝手な行動が許されないことは承知している。いくら親しい幼馴染といえど、イタチには報告義務がある。すでに暗部の部隊長としての実績があるイタチのやり方に意見する気はさらさら無かった。それこそ時間の浪費である。

「そうか。じゃあ行くぞ」
『うん…え、あ、ちょっとイタチッ』

イタチの言葉に地図を折りたたみ、服の内側に付いているポケットにしまい込もうとした瞬間、右肩で背負っていたリュックを奪われ何事もなかったかのように歩き出すイタチ。すぐさま後を追いかけ荷物くらい自分で持つと意見するが、彼が首を縦に振ることはなかった。

「オレに従うんだろ?」
『それとこれとはっ…』
「オレがそうしたいと思ったからやってるだけだ」
『……』
「だから気にするな」

隣を歩きながら困ったような表情を浮かべ、どうすればいいのかを模索している幼馴染の頭に手を乗せ諭すように優しく撫でると、今までとは全く違った反応が返ってきてイタチ自身が戸惑うことになった。
頬をほんのり赤く染めて大きな瞳で自分を見上げてくる幼馴染を前に、心臓がとくんと高鳴る。空色の澄んだ瞳があまりにも綺麗で、目が離せない。

「………」

しかしそれはあまりにも一瞬の出来事で、次の瞬間には身を縮めたリクハが少し間隔を取りイタチに対して疑いの眼差しを向けていた。

『イタチって…』
「?」
『意外と…女の子の扱いに慣れてるのね』
「は…?」

予想していなかったリクハの言葉に、イタチの表情が思い切り歪む。そして低い声をさらに低くして、

「心外だ」

とリクハの額を少し強めに小突いた。

『いったぁ…っ』
「お前がおかしな事を言うからだろ」
『だって…』
「撤回するまで許さないからな」
『イ、イタチ怒ったの??』
「当たり前だ」

好きな気持ちに気づいてしまったからこそ、イタチの態度一つ一つで心が浮き沈みするようになった。今までこんな事はなかったのに、ここ一週間で全てが変わってしまったような感覚。ただ純粋に向き合えればどんなに嬉しかっただろうと、リクハはイズミから伝えられた気持ちやカカシに言われた言葉、両親のことをあれこれ思い出し小さく溜息を吐いた。
ここ一週間でリクハを取り囲む状況が変わった事を説明するには、時間を少し遡る必要がある。

あれはそう…。
ハクセンの事件から目を覚まし、一週間が経った頃。
少しずつ身の回りの何かが変わり始めたのだ。


Y.0
(変わったのは、自身の心)


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