「君が暗部入りしたって知った時は正直驚いたよ」

滞在中自由に使ってくれと案内された来客用の丸太小屋は、窓に硝子も貼られていない非常に簡素な作りだった。窓と呼ぶには粗末な四角い枠から差し込む月明かりだけが、唯一の照明代わりとなり小屋の中を照らしている。そんな粗末な窓の縁に腰を下ろし、無数の星が輝く夜空を眺めていた時だった。物音を一切立てずに近づいてきたうちはムスビがイタチに声をかけたのは。

「うちはの暗部抜擢は、アキト以来だ」
「………」

廃村の危機を迎えつつある銀鏡村で、数週間続いた流行病をたったの数時間で抑え込んだリクハとい
う天才の上をいく同胞を見つめながら、ムスビは穏やかな溜息を吐いてイタチの隣で足を止めた。長い前髪が片顔を隠してはいるがムスビもまたうちは一族の人間、その顔立ちは端正なもので少しあどけなく見える笑顔と物腰の柔らかさが好印象な男だ。
まだ互いのことも理解し合わないうちから物事の本質に迫るような真実を、世間話でもしているかのような調子で口にしたムスビに対し、イタチは疑念を感じ数秒黙って彼を見つめた。

「…そう易々とオレに打ち明けて良かったのか?」
「だってもう知ってたでしょ?」
「まだ憶測の段階ではあった」
「ほぼ明確になってた憶測だろうけど」
「…………」
「君たちがここに来たってことはそうゆうことだ」
「…あの人の身内の人間は、みんな警戒心が薄いな」
「ははははっ。それってリクハちゃんも含めてってこと?」

穏やかに微笑んだムスビが、窓の外から小屋の中を覗き込む。簡易なベッドの上で疲れ眠っているリクハの姿に亡き親友の面影が重なり、里の外だというのに全く警戒せずに熟睡している楽観さが父親そっくりで思わず吹き出しそうになった。

「いつもあんな感じ?」

クスクスと肩を震わせ、指を差しながらそう言ったムスビ。彼の問いたいことをすぐに理解したイタチは、同じように無防備な幼馴染に視線を移しわずかに口角を上げ微笑んだ。

「いつもあんな感じだ」
「ハハハッ。楽観的なのは父親譲りかぁ」

娘の交友関係には酷く悲観的で過干渉だった父親が?
と、イタチは内心疑問を抱いた。

「アキトとはアカデミーからの同期でさ。ハスナと三人、いつも一緒に修行して遊んでた。…今の君達みたいにね」
「…………」
「シスイ君も今回のこと、知っているんでしょ?」
「大方は」
「そっか。…イタチ君、アキトが暗部って聞いてどう思った?」
「どう、とは?」
「驚いたでしょ。どう見たって暗部向きの忍じゃないし」
「…本気のアキトさんと手合わせしたことはないが、実力があるのは確かだ。幼少期、シスイと一緒に殺されかけたことがある」

淡々とした冷静な口調でそう言ったイタチに、ムスビが少し意外そうな表情を浮かべた。うちはのツートップとも呼ぶべき二人には、完全敗北などという経験はないと思っていたから。しかし軽率で人を小馬鹿にしたような発言ばかりを繰り返し、自己愛が強く自己中心的なアキトは幼い子供にも容赦がなかったようだ。

「あんたはずっと知っていたのか?」
「彼の暗部所属を?」
「ああ」
「知ってた。親友だったからね。でも、僕だけじゃないよ」
「他には誰が?」
「彼の妻であるハスナと、四代目火影、それと…」

瞳を伏せたムスビが口ごもる。
その続きを口にすることに一瞬躊躇う仕草を見せたが、意を決したようにイタチに視線を向けると、ゆっくりとした口調で口を開いた。

「君のお父さん、フガクさんだ」
「……!?」
「ダンゾウを除けばこの四人だけが、アキトの裏の顔を知っていたよ」

イタチの漆黒の瞳が、疑念と驚愕の色を含み大きく見開かれた。確かに父フガクとアキトは互いに信頼し合っていたようだったし、実の息子の自分よりも良い関係性を築いていると感じる時があったくらいだ。だから父がアキトの暗部所属を知っていたとしてもなんら不思議なことではない。が、にも関わらず胸の内に混沌と湧き上がってくるモヤのようなものが、イタチの表情を歪ませ嫌な予感を増幅させた。

「"うちはの鬼才"なんて呼ばれて一族の期待を一身に背負ったアキトが里側の暗部になるこの意味、今の君になら分かるかな?」
「…………」
「うちはの、里に対する不信は何も今に始まったことじゃない。それは里側も同じ。一族も里側も、互いを監視し合う都合のいい目が欲しかったのさ」
「…アキトさんの、暗部入隊を後押ししたのは誰だ」

何となく、予想はついた。
嫌な予感が的中しそうな展開に、そうであってくれるなとイタチの感情が胸の中で騒めき始める。察しのいいうちはの天才は、今の話を聞いて大方は理解してしまっただろう。アキトが暗部になり、誰がリクハの両親二人の命を奪ったのかを。

「フガクさんだよ」
「…………」
「そしてあの日、彼はうちはと木ノ葉の二重スパイになり…。里という大きな闇に殺されたんだよ」
「………!」
「いいかいイタチ君。君は絶対に、そうなっては駄目だ」

月明かりの下、伝えられた真実にリクハは閉じていた瞳をゆっくりと開いた。


Mission.6


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