「なあシスイ。最近のリクハをどう思う」
「どう、とは?」
「何かにだいぶ悩んでるとは思わないか?」

うちはの演習場は今日も高度な術のぶつかり合いで騒々しい。若手育成の手伝いをしに来ていたシスイは、休憩中に突然隣にやって来たオビトの唐突な質問に動揺を見せるわけでもなく、持っていたクナイを布で拭きながら至って冷静に口を開いた。

「あの事件以降、思い詰めているように見えます」
「いや、まあそれもあるだろうが、それ以外でさ」
「それ以外?他に何が?」

最近のリクハはどこかうわの空で、話をしていても心ここに在らずといった様子だからもちろん心配はしている。シスイが手元に向けていた視線を隣にいるオビトへ移動させると、「それはだな〜」と腕を組み考え込んでいる姿が映り込んだ。

「オレが思うにだなシスイ」
「はい」
「リクハの奴ついに…」
「ついに?」
「……"恋煩い"が到来したんだと思う」
「………は?」



「リクハちゃん顔真っ赤やけん!」

三代目への任務報告を済ませ火影邸を後にしながら、イタチは一人昨日の幼馴染のあの反応は一体何を意味していたんだろうと考える。イタチ自身、他人の心の動きに鈍感なわけではない。むしろ敏感に察知する方だ。が、どうにも相手がリクハとなるとそれがうまく機能しなくなる。自分の言動に対し、期待してしまうような反応を見せてくれる時はあるのだが、どうしても確証が持てなかった。
イタチが邪念を振り払うかの様に一度目を瞑り考えるのを止めると、角を曲がるため視線を右側にずらした。
その刹那ー。

『っ…!』
「…!?」

ドンっという衝撃音と共に地に落ちた数冊のファイルが散らばる。バランスを崩しよろけた相手の足元が見えてイタチがすかさず手を伸ばす。自分よりも華奢な両手首を掴み倒れる前に引き寄せると、思いの外至近距離に想い人の驚いた表情が映り込んだ。

『イタ、チ…ッ?』
「リクハ…?」

まさかこんなところで鉢合わせるとは思ってもいなかった。互いの存在を確認し合うように名前を呼び、視線を重ねたまま数秒間を置いたあと、ほぼ同時にハッとして距離を取る。気まずそうに視線を逸らしたイタチと、頬を染めて焦るリクハ。二人の関係上、今までになかった妙な雰囲気が漂った。

「すまない、大丈夫か?」
『へ、平気っ。私こそごめん。よそ見してて…』

長い髪を耳にかけながらしゃがみ込んだリクハは、ぶつかった時の衝撃で落としたファイルをいそいそと拾い集める。すでにリクハの意識はイタチと鉢合わせしたことから、見られたくない資料を死守することに向いていた。

「大事な資料だったか?悪いことをしたな」
『…!!』

イタチも同様にしゃがみ込み、近くにあったファイルに手を伸ばす。それを見たリクハはギョッとしてつい声を荒げてしまった。

『触らないで!!』
「……」

ぴたりと止まるイタチの手に、しまったと表情を歪めた。リクハがここまで焦る理由、それはこのファイルの中にはある資料全てが『暗部』に関する極秘のものだからだ。こんな物を持っていると暗部所属の、しかも幼馴染のイタチに知れたら一大事である。それこそ今日までの努力が水の泡と化すし、確実に追及されてしまう。巻き込みたくはないのだ。
リクハはすかさずイタチの手元にあったファイルを拾い上げ、謝罪の言葉を口にした。

『ごめんイタチ、怒鳴ったりして…』
「…いや、大丈夫だ。大事な物の様だな」

一瞬表情を歪めたイタチだったが、リクハと向き合う頃には穏やかなものへと変化させ手を差し伸べた。何かあると分かっているだろうにあえて気にしないフリをしてくれる幼馴染の優しさに、胸が締め付けられる思いがした。ファイルを片手で抱えながらイタチの手を取り立ち上がると、申し訳なさそうな表情を浮かべたリクハが口を開く。

『担当してる患者さんのカルテなの。個人情報だから極秘扱いで…拾ってくれようとしたのにごめんね』
「そうだったか。オレの方こそ悪かった」

やんわりとリクハの手を離すイタチ。

『これから帰るの?』
「ああ。お前は?帰り道はこっちだろ」

そう言って今しがたリクハがやって来た方向に視線を向ける。

『え、あ、そっか…そうだった』
「……」

イタチに言われて気が付いた。道を間違えるほど深く考え事をしていたということに。リクハは何度か目を泳がせ、気まずそうに人差し指で頬をかいた。こんなことは今まであり得なかったのに、一体どうしたのだとイタチの中で不安が膨らむ。

「リクハ」
『な、なに?』
「お前、大丈夫か?」
『………』
「ここ最近様子が変だ…」
『だ、大丈夫だよ。ちょっと考え事してただけ』

苦笑いを浮かべて誤魔化そうとするリクハに、納得のいかない表情を返すイタチ。全てを見透かしてしまいそうな漆黒の瞳から視線を逸らし、どうにかこの気まずい雰囲気を打破しようと口を開いた。

『イタチ、途中まで一緒に…』
「家まで送る」

心配ではあるが追及する気にはなれず、リクハの言葉を遮り歩き出すイタチ。通り過ぎ様に肩に手を置き歩みを促すと、いつも通り柔らかな笑みを浮かべた幼馴染が視界に映り込んだ。


Y.5
(一抹の不安が過った日)


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