「なあ、イタチ」
「?」
「お前の好きな団子やるからオレの頼み聞いたって」
「…なんですかいきなり」
「フガクさんやリクハには、言わんとってな」
「…リクハにも?」
「リクハにも」

そう言った幼馴染の父親は、串団子の入った紙袋を幼いイタチの前に突き出し余裕のある笑みを浮かべた。


「………」

なぜ今そんなことを思い出したのかは分からないが、あの時買収のごとく渡された好物につられて頼みごとを聞いたわけではない。いつもふざけて自分にちょっかいばかり出してくるリクハの父親が、珍しく真剣な表情と声のトーンでそんなことを言って来たから聞いたのだ。リクハと歩く帰り道、ふらりと立ち寄った団子屋の店先で幼馴染を待つイタチ。ふと目に止まった団子の絵が描かれた看板を見て、昔のことを思い出したのかもしれないと考えた。



「嬢ちゃん、アキトんとこの娘だよね?」
『えっ?…ええ。そうですけど』

串団子の入った紙袋を受け取りながら、リクハは若干目を開いて不思議そうに店主を見つめた。穏やかな表情で唐突な質問をしてきた店主は、「やっぱりそうか」とリクハの姿を見て納得してから、今度は視線を店の出入り口にいるイタチに向け続け様に確認をとった。

「外に居るのはフガクさんとこの息子さんだろ?」
『はい』
「父親同士親しい間柄だったが、子供の君らもか」

ニコリと人の良さそうな笑顔を浮かべた店主に対し、リクハも穏やかな表情を浮かべる。が、内心彼女の意識は彼の持つ『父親の情報』へとすでに向けられていた。些細なことでも何でもいい。自分の知り得ない二人の話を聞くことができれば、足踏みしている現状から一歩前進できる気がするのだ。

『あの、父をご存知なんですか?』
「知ってるも何も、うちの女房の弟と同期だよ」
『弟さんは忍なんですか』
「アキトほどの忍じゃないがね。奴は特別だったし」
『父が特別?…そんな風には…』

見えなかった気がすると内心呟く。

「娘の前じゃ違っていたのかね?まあ、父親なんてそんなもんか」

ハハハと白い歯を見せながら気さくに笑う店主は、団子の入ったケースの上に両腕を乗せリクハとの会話に乗り気な姿勢を見せた。外でイタチを待たせているからあまり長居はできないと考えながらも、ふらりと立ち寄った団子屋で思わぬ収穫を見込めそうだった。

「アキトに修行付けてもらったことはねぇのか?」
『ええ。父は医療忍術を使えなかったので』
「ああ、嬢ちゃんは仙波の血が濃いんだな。医療忍術か」
『はい』
「アキトの力は継がなかったのか?」

恐らく店主にはなんの他意もない問いかけだっただろう。しかしリクハにとってはかなり意味深な言葉で、一瞬体が硬直した。それもそのはず、自分が知り得ているアキトという父親は…子に受け継がせるほどの特別な力を持っているような忍ではなかったからだ。ミナトと並び優秀な風遁使いだとは言われていたが、それくらいだ。母のように血継限界の類を持ち合わせてはいない。

『と…言うと…?』
「実の親だろ?アキトはいい目を持ってたじゃねぇか」

言いながら店主は、自身の目元を指差し笑う。

「うちはの"鬼才"って異名が付くくらいのさっ」
『…!!!!!』



「(遅いな、リクハのやつ…)」

ただ団子を買うだけにここまで時間はかからないだろうと思考を巡らせ、何かあったのか?団子屋で?と心配になる。人当たりのいい幼馴染のことだから、店主と立ち話にでもなっているのかもしれないと店の戸に手をかけたその時だった。
ガラガラッと音を立て横開きの戸が開き、中から放心状態のリクハが出てきたのは。

「まいど!嬢ちゃんまた来なよ!」
『…ど、どうも……』
「……お、おい。どうしたんだ」

店主の弾む様な声とは対照的で、明後日の方を見つめながら自分の前を通り過ぎていく幼馴染。中で一体何があったんだと疑問を抱え、慌てて手首を掴み静止をかける。すると完全に気が抜けていたのかリクハの体が思い切りイタチの前へと倒れ込んできた。

「リクハ、おいっ…」

表情を歪めその体を支えるも、イタチの力に逆らう様にしてその場にペタンと力無く座り込んでしまったリクハ。ガサっと紙袋が地に落ちて、中の団子が少々潰れる。

「リクハ、どうしたんだ。中で何が…」
『……ない』
「え?」

完全に俯いているリクハがボソリと呟く。
何を言ったのかうまく聞き取れなくて困ったような表情を浮かべたあと、イタチは華奢な肩に手を置きリクハの隣へしゃがみ込んだ。長い髪が顔にかかり、その表情を確認することはできないが…泣いている?ような気がした。そして…。

「なあ、リクハ…大丈夫か?」

極力優しく、穏やかに声をかけると。

『ごめんねっ、なんでもないのっ…!』

目からボロボロと大粒の涙を流したリクハが顔を上げ、あまりにも説得力のない一言を言い放った。

「……それでか?」

苦笑いを浮かべたイタチがリクハの両頬に手を添え親指で涙を拭う。団子屋に入っただけでどうしてこうなるのかは理解できないが、幼馴染の泣き顔にめっぽう弱い天才は、ただ理由を知る前にこの涙を止めたいと考えた。

「リクハ…」
『うっ…ひくっ…うぅ…っ』
「ほら、帰ろう。こんな所で泣いてたら笑われるぞ」

そう言うとイタチは、リクハの前へ移動し背を向ける。優しい幼馴染のその行動が何を意味しているのかを知っているリクハは、申し訳ないと思いながらも昔よりずっとずっと大きくなった頼もしい背中に縋り付く他なかった。

『ごめん…ごめんねイタチッ…』
「大丈夫だ。気にするな」

自分の背中で声を殺して泣き続ける幼馴染をおぶって、イタチは少しだけ歩く速度を緩めながら帰路に着く。その姿を物陰から、悲痛な表情で見つめている少女がいるとは知らずに。


Y.6
(その泣き顔すらも、愛おしいと感じた日)


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