以前はこんな風に、互いを異性として意識することなどなかったのに。
「あーっ。イタチ君じゃなかね!」
「…シンコ」
「そっちの子は確か〜」
通りにある適当な茶屋でいいと言われたが、一軒避けたい場所があった。だから足早に通り過ぎようと思ったのに、なぜか捕まった。丁度店先に出ていた活気のある少女に名前を呼ばれて。
イタチがシンコと呼んだ年上の少女は、イタチがアカデミーを卒業して初めて組んだスリーマンセル第二班の一員だった忍。リクハにとってはテンマが死に、彼女が下忍資格を返上した時以来の再会である。シンコはイタチの一歩後ろに立っているリクハへと視線を移すと、人差し指を立たせて思い出したように口を開いた。
「思い出しよった!リクハちゃんやね!」
『はい。お久しぶりです』
「アンタ下忍のころからじょうもんやけん!覚えとるよ!」
『…じょうもん?』
「美人っちゅーこと!相変わらず綺麗な顔しとーね」
『え、いえっ。そんなことないです…』
恥ずかしそうに顔の前で両手を振り、遠慮がちにそう言ったリクハ。シンコはニコニコと笑顔を浮かべた後、イタチに近づき今度はニヤリと口角を上げ耳打ちをする。
「アンタも隅に置けん男やね〜っ。本命はこっちっちゅーわけ」
「は?」
「こないだ一緒に来た子は友達だって言っとたやん」
以前今日のように休暇を与えられイズミとここへやって来た時のことを言っているのだろう。イタチとしてはただ友人と休暇を共にしただけのことであって、他意はない。だからリクハにも話す必要がないと思っていたし、言ったところで彼女は何も感じないだろう。だがシンコの口から盛りに盛られた話をされるのは絶対に嫌だと思い、イタチは釘を刺すように口を開いた。
「……リクハの前で余計なことは言わないで下さい」
「ぷふっ。やっぱりこっちが本命っちゃね〜、面食いめ!」
「っ…」
ばしっ!と結構な勢いで背中を叩かれたイタチが、少しだけ前に仰反る。そんな二人のやり取りを眺めていたリクハは、シンコの気さくさに少しばかり驚いていた。イタチに対して今のような行動を取れる異性はほぼ居ないからだ。
「彼女の好物なんなん?」
「なぜオレに聞くんだ」
「好いとるっちゃろ〜っ?私がサービスしちゃるけん」
「…やめてくれ。嫌な気がする」
先程からニタニタと含みのある笑いを浮かべているシンコからは、余計なお節介の匂いがプンプンしてくるのだ。イタチは冷静に、若干目を細めて彼女の計らいを断る、すると…。
「教えんとリクハちゃんにアンタの気持ちバラしちゃる」
「………」
『??』
イタチという天才を目の当たりにし自信を喪失し、忍びを辞めたシンコ。イタチよりも遥かに劣っているというのに、今日に限っては一枚上手だった。なんて奴だと思いながらしぶしぶ口を割ると、シンコは身を弾ませながら店の奥へと消えていった。
『イタチの好きな子って、もしかしてシンコさん?』
「冗談はやめてくれ」
店先にある長椅子に腰を下ろし他愛もない話をしているリクハとイタチ。しばらくしてシンコが店先へと出て行くと、ただ椅子に座っているだけの二人を見てハッとした。イズミとは真ん中にお茶を置けるだけの距離があったのに、リクハとはそれがない。あと数センチで肩が触れ合う距離で会話をしているのだ。こうもあからさまな違いが出るのかと思ったが、その顔はすぐにニヤけ顔に変わっていった。
「アンタら相変わらず仲良いんちゃね」
『シンコさん』
「なん、付き合っとるの?」
『「!?」』
何気なく言った風に問いかけたが、シンコはわざと言ったのだ。盆に乗せられたお茶を二人の傍らにそれぞれ置くと、ニヒヒと笑いながら様子を伺う。一瞬顔を見合わせて、ほぼ同時に二人して不自然な逸らし方をするものだから内心腹を抱えて笑った。
「違うと?イタチ君の彼女やと思ったばい」
わざとらしく言いながらイタチに視線を向けると、眉間にシワを寄せ睨まれた。だがイズミの時のように否定もなにも言わないんだなと、シンコはイタチという人間に少しだけ親近感が湧いた。好きな子を特別視してしまうこんな普通な一面もあるんだなと。
『お、幼馴染ですっ』
「ふーーん。付き合っちゃえばよかね。二人似合いやし」
『なっ…!?』
イタチから聞いたリクハの好物が乗った器を湯呑みの隣に置いたシンコ。目の前で自分の言葉に頬を染め取り乱すリクハを見て、素直でいい子だと思った。
「ぶふっ!リクハちゃん顔真っ赤やけん」
『えっ…ちがっ、違いますっ』
「シンコ、リクハを困らせないでくれ」
ため息混じりにそう言ったイタチは、いたって冷静だった。反応を見せたのは先程の一瞬だけで、相変わらず堅物でつまらないなんて視線を向ければまた睨まれる。今度は本気で釘を刺しにきている目だった。
「しょんないなぁ〜。また話そうばいリクハちゃん」
『え、は…はい』
これ以上はイタチを本当に怒らせそうだと思い渋々引き下がると、リクハに笑顔を残して店の中へと入っていった。残された二人の間に少しばかり沈黙が流れ、それを破るようにしてリクハが先に口を開いた。
『シンコさんって、いつもあんな風?』
「いつもあんな風だ」
『なんか…私の父さんにちょっと似てるよね?』
「…オレも、同じことを思ったことがある」
『やっぱり』
自然な感じでイタチの肩に手を添え笑うリクハ。つられてイタチも穏やかな笑みを浮かべる。そんな二人の様子を入り口の影に隠れてこっそりと盗み見しているシンコは、口元に手をあてニヤリと口角を上げた。
『あれ?これイタチが頼んでくれたの?私の好きなお菓子』
「好いた女の子の好物っちゅーのは絶対覚えてるもんよリクハちゃん!」
『え?』
「シンコ!」
まだそこに居たのかと振り向いたイタチに、暖簾を片手で上げ顔を覗かせたシンコは舌を出して最後にしてやったり顔で笑うのだった。
DAY.4/5
(似合いと言われて内心嬉しいと感じた日)
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