「イタチ君と二人だけで話すの、初めてだよね」
任務の帰り道だった。
「いつもはオビトやリクハ達が居るから」
「そうなりますね」
たまたま帰る方向が同じだったリンと会ったのは。
「任務は大変?」
「それなりです」
「今は戦時じゃないものね」
「はい」
表情一つ変えないイタチの横顔をちらりと盗み見てから、リンは穏やかに微笑して前を向いた。
「いつもこの道で帰るの?」
「大体は」
「私も」
「そうですか」
「………」
「………」
「ふっ…ふふふっ」
「…?」
他愛もない会話をしようと何気なく話しかけたが、イタチの定型文のような返事に全く会話が成立しない。すぐに訪れた沈黙の数秒後、リンが急に笑い始めたものだからイタチは少しばかり意外そうな表情を浮かべた。普通ならばここで、大体の人間が話しかけるのをやめようと思うはずなのにリンは笑った。
口元に手を添えて何がおかしいのか「ごめんごめん」と謝罪の言葉を口にする。
「本当に人と喋りたがらないんだなあって思って」
「………」
「あ、嫌味じゃないよ?カカシからそう聞いたの」
「…昔からです」
イタチは戦争を通して若干四歳で自分が何者であるかを理解した少年である。物事に対する考え方、価値観、捉え方などが他とはまるで違う。今だってこんな他愛もない会話に意味がないと思っているに違いない。しかしリンは、天才を前にしても物怖じせず、気まずそうにするわけでもなくイタチに対してもいつもと変わらぬ態度で接している。上忍であり、オビトとカカシの同期であり、リクハと同じ医療忍者の彼女にはどこか余裕が感じられた。
「寡黙なのね。でも、ちょっと意外かも」
「意外?」
「演習場でリクハと話している時とは違うから」
「………」
「あ、もしかして自覚あった?」
「いえ、そうゆうわけじゃ…」
くすくすと笑いながらイタチをからかうようにそう言ったリンの言葉に返事を濁す。自覚がないとかあるとかそうゆう問題ではない、リクハの前だと自然とそうなるだけなのだ。
「気づいてないのはあの子だけだね」
「………」
「こんなに素敵な幼馴染に想われてるのに」
悟られていた。
表情こそ変えないが、イタチはリンにすら自分の気持ちを見透かされていたことに恥ずかしさと未熟さを感じた。他のことでならいくらでも自分を取り繕うことができるのに、いざ恋沙汰となるとこうも簡単に周囲に気取られてしまう。サスケにすらだ。天才であり秀才である彼にとっては、実に難解だと思わずにはいられなかった。
「そんなに…」
「…?」
「分かりやすいですか?」
顔を背けてぎこちなくそう問いかけてきたイタチに、リンは目をぱちぱちさせて少し驚いていた。まさかそんなことを聞かれるとは思っていなくて、そもそも自分との会話に何の関心もないと思っていたからだ。
自分がそんな質問をしてしまったことに羞恥し照れているのか、全く顔を見合わせようとしないイタチが初めて年相応に見えて少しだけ可愛く感じた。
「行動が分かりやすいって言うよりも…」
「…?」
「あの子のこと、凄く大切にしてるのが分かるの」
リンの言葉に、イタチの目が少しだけ見開かれる。
「ただ好きとか、そんな単純な物じゃないよね」
「………」
「自分以上に大切で、守る為なら命だって惜しく無い」
「………」
「イタチ君がリクハに向ける優しい目は、いつもあの子を守ってる」
ああ…そうか。そうだったのかと腑に落ちた。
リクハやオビトが、なぜ野原リンという人間を好み、慕うのかを。
「ずっと、君が守ってあげてね」
「はい」
そう言って向けられたイタチの穏やかだが迷いのない決意に満ちた表情を視界におさめると、リンは綺麗な笑みを浮かべ微笑んだ。
そして、今に至るのである。
*
「オ〜ビ〜ト〜!」
「リ、リンッ(ガクガクブルブルッ)」
「リクハに手を出すなんて最低!」
「はっ!?オレが!?こいつにっ!?冗談だろっ!」
「いいから離れなさい!」
ぷんすかと怒りをあらわにしながら歩み寄ってきたリンに耳を引っ張られ、強制的にリクハから引き剥がされたオビト。いつもは穏やかなで天使のようなリンはどこへ行ってしまったんだとリクハは顔を引きつらせた。今後彼女を怒らせるのは絶対にやめようと決意しながら。
「い"でででででっ!痛てぇよリンッ!」
「信じられない!イタチ君の気持ち知ってるでしょ!」
二人に背を向け声量を下げてオビトを咎めるリン。
「断じてオレは何もしてねぇ!無罪だっ」
「好きだとかオレを選べとか言ってたじゃないっ」
「それは誤解だ!大体オレがあんな生意気な小娘相手にするか!」
『あのすいません、そこだけ思いっきり聞こえてます』
「話しかけんな勘違いされるから!」
『(ブチッ)』
ビシィッ!と人差し指で差されながらそう言ったオビトに苛立ちをあらわにするリクハ。リンさんよ、今すぐそいつの耳を引きちぎっていいよと内心呟いた瞬間、背後から伸びてきた手によって先程までオビトの手が乗せられていた両肩をサッサっと払われた(祓われた)。
『?』
「だっ!てめっイタチ!今オレをバイ菌扱いしたな!?」
『………』
「リクハに構わないで下さい」
「興味ねぇよ!」
「コラ!後輩を怒鳴らない!」
「いだだだだだ!!」
リクハの肩に手を置いたまま、殺意を含んだ瞳でオビトを見据えるイタチ。
「(やべぇ、あの目はカカシが暗部の任務に忙殺されて闇堕ちしかけた時の目だっ。…殺される)」
「イタチ君」
「?」
「リクハを頼める?私はオビトに説教してから帰るから」
「オレ何もしてねぇのに!?」
「問答無用」
そう言ったリンは実に綺麗な笑顔を浮かべていたが、突き刺さるような威圧感にオビトが体を震わせながら口を閉ざした。
「…行くぞ、リクハ」
『え、あ…でも』
オビトがリンに誤解されたままでは流石に可哀想だと思い戸惑っていると、イタチがリクハに対して二人には聞こえないくらい小さな声で囁いた。
「さっきからオビトさんが早く行けと指先で合図してる」
『え?……あ、ホントだ。あの人リンさんと二人になりたいんだ』
「行くぞ」
リクハの背中を軽く押して歩みを促す。オビトとリンに別れを告げる間際、なぜか嬉しそうにウィンクして来たオビトと目が合って本当に陽気な人だなと思い、小さく肩を揺らした。
DAY.3/5
(それぞれの想い人と帰路についた日)
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