ザァァと響く雨音を聞きながら、今日は客足が遠のくなと少々憂鬱なため息を吐いた団子屋の店主。その手には店先に掲げる暖簾を通した竹棒が握られている。
木ノ葉の里は今日、珍しく雨降りだった。
出入り口の戸を開き、人通りの少ない通りに視線を向ける。すると紺色の傘をさした、まだ記憶に新しい人物の姿が映り込み笑顔を浮かべ声をかけた。

「昨日の嬢ちゃんじゃねぇか!また来てくれたのか」

陽気な声にさしていた傘を少しだけ後ろへ下げ、穏やかな笑みを浮かべてペコリと頭を下げたリクハ。

「生憎の天気だな今日は。一人で来たのか?」
『はい。あの、昨日の今日で申し訳ないんですが…』
「ん?」
『お願いがありまして』
「オレに?別に構わねぇが…」

とりあえず雨降りだし中に入れと促され、店内の窓際に設けられた飲食スペースに通された。営業中に申し訳ないと伝えると、店主は笑いながら「今日は客は来ねぇよ!」と弱まる気配のない天気に皮肉をぶつけてみせた。そして三色団子の乗った皿を片手に、机を挟んだ反対側へ腰を下ろした。置かれた皿の上の団子が、幼馴染を思い出させる。

「アキトの話を聞きてぇと?」
『はい。幼い頃の話とか、生前聞くことができなかったものですから』
「そうか。オレが知ってることは話してやれるが…」
『?』
「アキトとハスナのことなら女房の弟の方が詳しいぜ?」

店主の妻の弟は、アキトの同期で忍だと、昨日言っていたのを思い出す。是非その弟からも話を聞きたいという思いが湧いてリクハが名前と居場所を尋ねると、店主は苦い表情を浮かべて頸あたりを数回掻いた。

「名前はうちはムスビってんだが、生憎今里に居ねぇんだ」
『任務ですか?』
「いや、長期休暇らしいんだがね。確か〜何だったかな…」

店主は腕を組み、う〜んと首を傾げながら記憶の引き出しを開けていく。妻から聞いたムスビの行き先を思い出すためだ。そして数十秒の間記憶の中を彷徨ってから、店主は思い出したように眉を上げて手を叩いた。

「"銀鏡(しろみ)村"だ!」
『銀鏡村って…あの…薬草林の近くの小さな村の?』
「ああ!そうそう薬草がどうのこうの言ってたな!」
『…ムスビさんはうちは一族ですよね。なぜあの場所に?』
「さあなぁ、理由までは聞かなかったが」
『(長期休暇で銀鏡村へって…違和感しか感じないけど…)』

医療文献の中に記されていた『銀鏡村』という小さな村は、隣接する薬草が生い茂る薬草林での作業を円滑に行うために仙波一族が昔利用していた村だ。広大な土地に生える当時は稀少だった薬草を採取する代わりに、村人への医療提供をすることで村と一族の関係は良好に保てていたと記載されていた。
しかしそれはもう何十年も前の話であって、今では薬草林を使う人間など滅多にいない。当時は稀少だった薬草も、今では簡単に手に入るようになったからだ。したがって銀鏡村の存在は歴史の一部と化し、大人でも知っている程度の内容だ。若い世代は聞いたこともないだろう。リクハやイタチのように異常なほど情報知識を欲する者は別だが。

『ムスビさんは医療にご興味が?』
「いんや?んなこと聞いたこともねぇがな」
『そうですか…』
「詳しいことは分からねぇが、行き先は間違いなく銀鏡村だぜ」

団子を一本取り頬張る店主。リクハは今度の潜入時、両親が銀鏡村へ足を運んでないか任務の全歴をあたってみようと思考を巡らせた。

「ムスビは、アキトとハスナとよく一緒に居たから、いろいろ聞いてみるといい」
『え…母ともですか?』
「ああ、三人は仲が良かった」

その関係性はまるで自分たち三人の様だと、リクハは少しばかり目を見開きながらイタチとシスイを思い出していた。

『あの、父はどうして"鬼才"なんて呼ばれ方を?』
「そりゃあアイツが、兎に角優秀だったからよ!」
『というと、どれくらい?』
「嬢ちゃん本当に何も知らねぇんだな…」
『あはは…』

あんなに優秀な父親を持ちながら、その才について何も知らない…知らな過ぎるリクハに店主は少しだけ唖然とした表情を浮かべた。串に刺さった最後の団子を頬張ると、「アキトはよ…」とまるで語り部のように切り出した。




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