一方その頃…イタチはカカシと共に暗部の任務へ赴いていた。
「浮かない顔をしているな」
面を付けているから表情など正確には読み取れないだろうに、隣に立つカカシは確信めいた声色でそう言った。
「…問題ありません」
「それはこの現場の状況か?それともお前がか?」
「やめて下さい」
イタチは溜息混じりにカカシの言葉を跳ね除けて、薬品の臭いが鼻につく無法地帯と化した実験室に足を踏み入れた。歩くたびに散乱しているガラスの破片が砕ける音が響き、おびただしい量の血液が床や壁、至る所に付着している。ここに居るのがイタチとカカシではなく堅気の者であれば腰を抜かしていたところだろう。薄暗く、陽の光が届かないこの実験室だった場所には数週間前まで大蛇丸が居たのだ。
「お前がそんな顔をする時は、大抵リクハ絡みだ」
「………」
「図星か?」
周囲に注力しつつ、大蛇丸に繋がる有力な手がかりがないかと捜査を続ける。各々に怪しげな場所を調べ、顔を一切合わせず会話をする。上司にも、同期にも、部下にも、別に馴れ合いを求めているわけでは無い。愛想がないと言われようが、変わり者だと言われようが、そんなことはどうでも良かった。ただ、詮索はしないで欲しいという希望はあるが…。
「奥の部屋を調べて来ます」
「…気をつけろよ」
「はい」
カカシの問いかけに答えるわけでもなく、イタチはあくまでも任務を優先する。向けた背中に視線を感じつつ、毅然とした態度で部屋を出たイタチは冷たい石造りの通路を進んで行く。ひんやりとした不気味な空気にも一切の動揺を見せず、彼はいつも通りとても冷静だった。
数メートル進んだところで無機質な鉄の扉を慎重に開くと、顔だけを覗かせ中を確認する。生き物の気配はなく、先程の部屋同様実験用具が散乱していた。念のために構えていたクナイを下ろし、扉を大きく開けて中に入る。
「…(血と死臭の臭いが酷いな…)」
先程の部屋と代わり映えのない景色だが、至る所に飛び散った大量の赤い血の臭いと、一生慣れないであろう腐敗臭に流石のイタチも手の甲で鼻元を押さえた。纏わりつくような重々しい空気。誰かが説明しなくとも、ここで大量の人間が死んだことは容易に理解できた。死んだというより、殺されたのだ。大蛇丸の実験体として。
イタチは繰り返されたであろう惨劇に表情を歪め、リクハの両親がその中の犠牲者でないことを願った。
ージャラッ…!
「……」
突然聞こえた鎖が絡むような音にイタチが落としていた視線を瞬時に上げると、甲高い鳴き声と共にネズミが二匹、壊れた鉄の扉の隙間から姿を見せた。この部屋には出入り口の扉以外にも、さらに奥へと続いている扉がある。イタチはゆっくりとその扉に歩み寄り、少し力を込めて手前に壊れた戸を引いた。すると…。
「うっ…」
思わず声が漏れてしまうほどの腐敗臭がイタチを襲う。顔を背け、片手で鼻を覆い中に入っていく。
「拷問されていたのか…?」
部屋の奥には血塗れの牢屋と中には四つの枷があった。一際おびただしい血が床や壁を覆っていて、鉄格子には何度も何度も触れたであろう赤い手形が嫌に生々しく残されていた。冷静な瞳で現状を見つめながら、イタチが牢の中に入る。当たり前だが良い気分ではない。様々なことを推測しながら流れるように視線を動かしふと天井を見上げた。
「……!!」
するとその瞬間、漆黒だったイタチの瞳が薄暗い部屋に光る紅いそれに変化した。そして見開かれる写輪眼が、ここに来て初めて…イタチの心を動揺へと誘った。
「(そんな…あれは…まさか…)」
天井に赤い血で記された謎の記号を、イタチの写輪眼が映す。
それは幼い日に、幼馴染の父親から強制的に覚えさせられた暗号であった。
「………(生きて、いるのかっ…)」
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