うちはイズミのことは、あまりよく知らない。
リクハには昔から、同性の友と呼べる存在が居ないからだ。それはイタチ同様に、彼女が周りとかけ離れた才を持っていたから。
『(…こうゆう時って…どうしたらいいんだろう…)』
四歳で戦争に参加して、死の間際シスイに命を救われたリクハ。言わずもがな物事の価値観や思考の基準が他とは違う。同期の人間と話が合わないのは仕方がないのだ。忍としての高みを目指すリクハにとっては、イタチやシスイ、カカシと修行を重ねる方が有意義だと幼いながらに自覚していた。
『…あの、イズミちゃん?』
「………」
なので、こうゆう状況には…、
『話って…?』
すこぶる不慣れなのである。
「急に誘ったりしてごめんね。ほぼ初対面なのに…」
『…アカデミーでは、隣同士のクラスだったもんね』
ジュースの入ったグラスを置き、対面する形で座っているリクハに視線を向ける。大きく澄みきった空色の瞳と視線が絡むと、緊張からか背筋が伸びた。
同年代だが大人びた綺麗な顔立ちに、瞳と同じ空色の艶やかな長い髪。遠目で見ていた時とは違う、リクハの恵まれた容姿に魅入る。それに加えて彼女は中忍。才能にも愛されている。
そんな、想い人の隣にいつもいるリクハという人間を目の前にしてイズミは若干悲観的になっていた。
「…今日は、イタチ君と一緒じゃないんだね」
『え…??』
「いつも一緒に居るから…」
『………』
話がしたいと言われてあまりいい気はしなかったが、案の定だった。詳しい用件を聞かずとも、今のイズミの表情と言葉で全てを理解することができた。ああ、自分はそれで彼女とここに居るのか、と。
だが正直なところ、リクハは今恋沙汰云々に割く気持ちの余裕があるわけではない。こうしている間も頭の中は両親のことで一杯一杯だし、父の話を聞いた後で心と思考の整理がついていない状態なのだ。しかしそんなことを知る由もないイズミは、リクハに対して不満げな視線を向ける。
「あ、あのね…。ずっと気になっていたんだけど」
『??』
「聞いても、いいかな?」
『もちろん』
「…リクハちゃんって…」
『…うん』
「イタチ君と…ど、どうゆう関係なのっ?」
『………』
上目遣いで、不安げな表情を浮かべながらそう問いかけてきたイズミ。"この子も"また、イタチのことが好きなんだと納得した。眉目秀麗なうえ文武両道な幼馴染は実に人気がある。他を寄せ付けないあの独特な雰囲気がなければ、彼を想う少女たちによってとっくの昔に蚊帳の外に追いやられていただろう。幼馴染というだけで目をつけられ、昔から陰口を言われているのは分かっていたが…なぜわざわざそんなことを確認されなければいけないのか、リクハは常々疑問を感じていた。
まずイタチは、誰かの所有物ではない。親兄弟ならともかくとして、赤の他人…それも彼と言葉を交わしたことのない様な人間たちが交友関係にまでとやかく口を出すのは、あまりにも勝手が過ぎる様な気がしてならない。
『幼馴染だけど…どうして?』
「…本当に?」
『え?』
「本当にただの幼馴染?」
そんなことで嘘をつく必要性がどこにあるのかと、逆に問いたい。
「昨日私、イタチ君とリクハちゃんが一緒に居るの見かけたの…」
『………』
「なんか、その…二人は、恋人同士みたいに見えて…」
彼女にとってはそう見えることが不都合だったということだ。昨日といえば、団子屋に行く前か、その後か…詳しいことは分からないが俯くイズミを見てリクハは小さく肩を落とした。
『イズミちゃん』
「…??」
少し残念に思った。せっかく同期で同性の、それもイズミのような可愛らしい女の子から声をかけられ、茶屋で話をすることができているのに…内容がまさか、イタチ絡みの恋沙汰とは。もっと別のことを話せる仲になれたら、どんなに良かったことだろう。
『イズミちゃんは、イタチが好き?』
「……!」
誤魔化しなど効かない、隙のない、けれどどこか優しげな瞳に見つめられ、イズミが一瞬言葉に詰まる。アカデミーに入学する前から、同胞のイタチを想っている。それは下忍になった今も変わらない。忍を続ける理由も、全ては彼の隣に立っていたいから。悪い子ではないと分かっているのに、自分の望むものを手にしているリクハをどうしても認めることができない。彼女さえ居なかったら…そんな風に思考が働いてしまうのだ。
イズミは伏せていた瞳をゆっくりと上げて、リクハに挑む様な視線を向ける。そして、はっきりとした口調で自分の気持ちを告げたのだった。
「うん。…私は、イタチ君のことが好きだよ」
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