『そっか。…イタチを好きな子は、大勢居るもんね』
イズミの迷いの無い真っ直ぐな視線を受け止めながら、リクハは苦笑いを浮かべ瞳を伏せた。改めて聞かずとも分かっていたことなのに、いざ気持ちを告げられあまりいい気がしないのは、やはり根底にある気持ちのせいに違いない。応援してると、平気な顔をして言えたらどんなに楽だったか。
「あの、イタチ君には…」
『大丈夫、言わないよ』
「…リクハちゃんは、イタチ君のこと…」
『どう思ってるか?』
「うん…」
『イタチのことは、大切だと思ってるよ』
瞳を伏せながら、イズミの問いに間髪入れず答えたリクハ。ぴしゃっと言い切る様なその口調が、イタチに対する思いの強さを表している様だった。だがイズミには、それがどの関係を対象とした言葉なのかが分からない。だから懲りずに問うのだ。リクハから本音を聞き出せるまで。
「……それ、どうゆう意味での大切?」
リクハが机に手を置きながら思考を巡らせる。そもそも大切な存在というものをカテゴライズすること自体ナンセンスな気がしてしまう。友人だから大切、家族だから大切、恋人だから大切、まあ確かにそれもありだが…リクハの場合、その枠組みにイタチを当てはめることができなかった。
『自分でも不思議に思うんだけど…』
「………」
『彼を、何か特別な関係性に当てはめるのは、難しいかな…』
「…イタチ君のこと、好きって気持ちは?」
『イズミちゃん…』
「…私、半端な気持ちでイタチ君を思ってるわけじゃないよ」
『……』
「凄く真剣なのっ…」
訴えかけてくる様な表情と言葉に、複雑な思いを抱く。
心底イタチが好きなのだろうと伝わってくるが…。
半端じゃないと言う言葉に疑問を感じるのは、なぜだろう。
そもそも、イズミがイタチを好きな理由はなんだ。
そんなに本気なのであれば…、もっともっとイタチの近くに居ないと駄目だ。居れるようにならなければ。
それなのに…どうしてもっとイタチと関わろうとしない?
彼の抱えているものを知ろうとしない?
共に切磋琢磨し合って、高みを目指そうとしない?
彼女の半端じゃないというその言葉は、果たして自分の覚悟よりも勝っているのだろうか…。
『イズミちゃん、聞いてもいい…?』
「…なに?」
『イズミちゃんは…イタチの為なら命を懸けられる?』
「え……」
『自分を犠牲にしてでも、守りたいって思える?』
「それは…」
リクハの予想外の問いかけに、言葉を詰まらせ動揺を見せるイズミ。ああそうか…、彼女もまた、イタチを好きな女の子たちと同じ理由なのか。好きと言う想いを告げられて悩んだものの、彼女はその程度でイタチを好きと言っているのかと分かると、少しばかり悲しくなった。
『私には、例え自分が死んでも守りたいって思える人が二人いる…』
「…二人…?」
『本当に、自分の命以上に大切な二人で…絶対に失いたくないの』
この想いは、半端なものなんかじゃないと断言できる。
リクハの真剣な眼差しからは、迷いの無い、強い意志が伝わってくる。本物の覚悟というやつを、みせられている様な気がした。
『誰が誰を好きになるかは自由だけど…』
「………」
『イタチを想う気持ちが半端なものじゃないって言うのであれば、それくらいの覚悟を持っていてくれると…私は嬉しい』
「………」
『答えになってるか分からないけど、イタチに対しての"大切"は、そうゆうことで…』
「………」
『まあ、イタチは…そんな覚悟望んではいないんだけど』
そう言い苦笑いを浮かべたリクハに、イズミは言葉を失い俯いてしまった。
『…まだ何か、ある?』
「………ううん」
『…えっと、じゃあ、私はこれで…』
言い過ぎてしまっただろうか…。
気まずい雰囲気の中、リクハがゆっくりと立ち上がりイズミに視線を向ける。何か声をかけなくてはと困っていると、本当にタイミングが良過ぎないか?と逆に勘ぐってしまうほど、本当に良いタイミングで聞き慣れた声が店の入り口からリクハの名を呼んだ。
「ここに居たか。探したぞ、リクハ」
『…!!シ、シスイッ』
「!!」
『なんでここにっ…』
「だから探してたって言ったろ?取込み中すまないが…」
いつものように気さくな態度で歩み寄ってくるシスイの姿に、イズミの姿勢が正される。彼女からすればシスイの存在は同胞の大先輩にあたる存在で、尊敬すべき忍の一人と言えた。自然な動作でリクハの肩に手を置き何かを告げるシスイ。そんな二人のやり取りを前に、やはりリクハには敵わないのかと瞳を伏せた。
「申し訳ないが、リクハを借りるよ」
「えっ、あ、はいっ。すみません…っ」
「いや、こちらも悪かった。行くぞリクハ」
『あ…う、うん…ごめんねイズミちゃん…』
救世主のごとく現れたシスイの背を追い、リクハはモヤモヤとした気持ちを抱えながらこの場を後した。
DAY.7/5
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