「食べる?」
『え?』
「ハイ」
『あ、ありがとうございます』

修行を終えて擦り傷の手当てをしているリクハのもとにやって来たカカシが目の前にしゃがみ込み、小さな包みをいくつか手渡してきた。そのうちの一つを開けて頬張ると、大好きなチョコレートの甘さが口の中に広がり自然と笑みがこぼれる。

「美味い?」
『はい。美味しいです』
「んー、可愛いね〜お前は」

ほっこりする弟子の笑顔に癒され頭をよしよしと撫でるカカシ。先程まで地面を叩き割り、螺旋丸片手に自分を追い回していた人物とは思えなかった。が、そんな強さも気に入っている。自分の出した課題を適確にこなし、目を見張る成長を見せてくれるリクハ。手は焼けるがその分本当に可愛くて仕方がない。修行を終え、こうして穏やかな時間を共に過ごせるのも師匠の特権だなと笑顔を浮かべた。

「それで?」
『はい?』
「なにをそんなに悩んでるわけ?」
『えっ?私が?』
「お前しかいないでしょーよ」
『いや…別に悩んだりは…』
「まあ強制はしないけど…オレを誤魔化すのは無理だと思えよ」
『う''……』

幼馴染と親友からも常々言われているその言葉は、確かにカカシにも当てはまる。自分の周りには人並外れた観察眼を有している人間が三人もいるんだと、少し恐怖を感じた。覇気のない目に見据えられ、観念したのか実は…と昨日の出来事を端折りながら説明した。
それを聞いたカカシは「ふうん」と気の抜けた返事を返す。

「苦手そうだよねお前。そうゆうの」
『はい…』
「で何?理由も話さずイタチを避けてるわけ?今日一日」
『どうしたらいいかよく分からなくて』
「なんで?」
『なんで…って、それは』
「なにリクハ、お前イタチが好きなの?」
『はっ??』

なぜ今そうなるんだとカカシの問いかけに表情を歪めるリクハ。

「だってそうゆうことでしょ?」
『どうゆうことですか?』
「好きだから迷うんでしょ?どうしたらいいか」
『彼は大切な幼馴染です』
「言いたいことは分かるけど、それはちょっとずるいぞ」

ピシッと人差し指を向けられて、痛いところを指摘される。自覚はあるのだ。自分の気持ちと向き合わずに、何とかこのゴタゴタから距離を置こうとしている自分がいることは。

「好きか、そうじゃないか、ハッキリしなさい」
『幼馴染です。オビトさんみたいな追求しないで下さいよ』
「あのね、お前オレの話し理解してる?」
『してますよ』
「いーやしてないだろ。何?次は恋愛指南させる気なの?」
『嫌ですよ。そんなイチャイチャシリーズ直伝みたいなの』
「あ、こら!お前ねーっ」

ぎゃーぎゃーといつものような言い合いに発展する師弟二人。自ずと話は脱線し、イチャイチャシリーズの奥深さを否定するリクハに物申したあと、カカシは深い溜息をついた。子供じみたやり取りだが、やはり彼女と過ごす時間は楽しいと…内心呟きながら。

「あのさーリクハ」
『…何ですか』
「質問の仕方を変えてもう一度聞くけど…」

瞳を伏せ、リクハの手の平にあるチョコレートの包みを見つめながらカカシが問いかける。また嫌な予感がするなと思い表情を歪めると、長い指先が包みを一つつまみ上げそれを目で追うと自然と視線が重なった。

「お前、好きな奴はいるの?」

ほら。彼はいつだって一枚も二枚も上手なのだ。
この聞き方は、ずるい。そんな視線を送るもカカシには意味をなさなかった。

『……そんなこと聞いて、カカシさんに何の…』
「知りたいから聞いてる」
『……』
「自分にとって大切なことだから、聞いてるんだよ」
『それって…どうゆう…』

意味ですか…?と言い終える前に両手を頬に添えられて、ぐいっと顔が近づいた。至近距離にあるカカシの顔に、今何が起きているのか理解できなくてフリーズする。突然のことに無意識に呼吸が止まり、この間がとても長く感じた。

「こうゆうこと…。分かる?リクハ」
『へ……』

心臓が、痛いくらいに高鳴る。

「本当は気づいてるでしょ?」
『な、なに…に…』
「お前はいつもそうやって知らないフリをするね」

鈍感なんて嘘だ。きっと昔から、苦しいくらいあらゆるモノの声が聞こえてしまって、それが怖くて、幼いながらに耳を塞いでしまったのだろう。ハクセンが口寄せとして彼女の力になった瞬間、その感覚が再び戻ってきていろいろと困惑もあるのだと思う。今まで以上に人の心の動きに敏感になり、気づけるようにまでなってしまった。それは彼女の母親も同じだった。
幼い頃はその力のコントロールなんてしようがなかっただろうけど、今の彼女ならそれができる。

「今のお前に、オレの気持ちが分からないはずがない」
『っ……』
「もちろん、イタチの気持ちもね」
『は、離して下さいっ…』
「もたもたしてると、大切なモノは奪われちゃうよ」

カカシの手を掴み引き離そうと試みる。
しかしびくともしない。
射抜くような瞳がただただリクハを見つめ、離そうとはしなかった。そして…。

「お前のこともオレが奪っちゃって、いい?」

その言葉を聞き、リクハの手から力が抜けだらりと地面に落ちていった。


Y.8
(確かにその日、世界が動いた)


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