「つまり、なんだ…リクハのあれの原因は…その"惚れ薬"のせいだと?」
「…ごもっともだってばよ」
「このウスラトンカチがっ…」
「すんません…」

任務から帰ったイタチとシスイを門の前で待っていたのは、リクハではなくナルトとサスケ。二人とも渋い顔しながら「ちょっと話がある」なんて言ってきたものだから、あまり良い予感はしなかったが案の定だった。落ち込むナルトに変わり、サスケが説明してくれた内容がこうだ。

先日、カカシ率いる第七班は「商人一行」の護衛任務に就き、滞りなくその任を遂行した。商人たちはみな陽気で人当たりも良く、特に人見知りなんてしないナルトがその中の一人の老婆ととても親しくなり、別れ際、「おもしろい物をやる」と言われ例の"惚れ薬"とやらを貰ったとか。

最初はイタズラ半分でカカシに使ってやろうと考えていたのだが、いろいろあってリクハの前で小瓶を割ってしまいそれを吸い込んでしまったがために、ああなってしまったのだと言う。一通りの説明を聞いて、とりあえず「そうか…」と納得するシスイとイタチ。ナルトの行動には呆れたものだが、なんであれ原因が分かってよかった。

「でもなんでイタチだったんだ?」
「どうやら、使用者の一番親しい間柄の人間が対象になるみたいだ」
「なるほど…。それで幼馴染のお前が…」

逆にイタチ以外の人間じゃなくて本当に良かったと思うが、そう呑気な事も言っていられない。

「サスケ、何か解毒方法はないのか?」
「オレもいろいろ調べたんだが…悪い…」
「仙波の人間には聞いたか?この手の事なら…」
「効果が消えるの待つしかないって言われたってばよ…」

医療忍術のスペシャリストである仙波の人間がそう言うのなら、もう方法はそれしかないと言うこと。4人は成す術のない状況に、一瞬口を閉ざす。が、イタチが重要なことを思い出しナルトに視線を向けた。

「おい…ナルト」
「なに?」
「その薬の持続時間はどれくらいだ」
「え、あー…えっとー確か……3日?」
「3日っ?」

この調子だと一日くらいだろうと思っていたが甘かった。ナルトのうすら覚えの不確かな情報とは言え、あれをあと2日とちょっと耐えなきゃいけないかと思うと自分には無理だと投げ出したくなる気分だ。隣に居るシスイに視線を向ければ、苦い表情でいる。イタチがリクハに抱いている気持ちを知っているから尚更だ。

「それより兄さん、今日はもう家に帰った方がいい」
「あ、忘れてたそうだってばよ!イタチ、早いとこ家に…っ」
「なんだ二人とも、ちゃんと説明を…」
「い、今サクラちゃんがリクハ姉ちゃんを引き止めてくれてるから…だかっ…!」

突然思い出したかのように焦り出した二人に、訳が分からず表情を歪めたイタチとシスイ。もっと順序よく話をしてほしい物だと思っていると、ナルトの顔がみるみる青ざめて行くものだから首を傾げるイタチ。すると、次の瞬間…。

『イタチみーつけた』
「…っ?」
「…リクハ…!」

どこから湧いて出て来たのか、座っているイタチの背後からスッと伸びた綺麗な手が目元を隠し『だ〜れだ?』と可愛らしく声をかけてくる。驚きながらシスイがリクハの名を口にしてしまうと、プクッと頬を膨らませて『イタチに聞いたの』とむくれる。

そのままイタチの首元に腕を回しギューッと後ろから抱きつくリクハを前に、サスケとナルトが顔をひきつらせた。この目の前に居る女子全開の人物は誰なんだと。

『おかえりイタチ、ケガはない?』
「……大丈夫だ」
『シスイもおかえり』
「おう……」
『今日はずっとイタチのこと考えながら仕事してたんだよ。イタチは?』
「あ、ああ…そうだな…どうだったかな」
『私のこと、少しでも考えてくれた?』

そう言いながら少し身を乗り出し、イタチの顔を覗き込むリクハ。不意に視線を向けてしまえば思った以上の近さに胸が高鳴る。そしてまた、あの子犬のような瞳と目が合い後悔した。これではこちらの身が持たないとすぐに視線を外し、少しだけ距離を開ける。

「近いっ…リクハ…」
『ねえ、考えてくれてた?』
「…そ、そうだな考えていたよ。だから離れてくれないか?」
『…〜っ、イタチ〜ッ…!すごく嬉しい、大好きっ!』
「だ…だだだ誰だってばよこの人っ…!」

言いながらイタチの首元に顔を埋めて喜んでいるリクハに驚愕するナルト。いつものリクハからは絶対に想像できない行動で、そのあまりの可愛さにこっちまで恥ずかしくなる。

「ね、姉さんが…っ」
「おいイタチ、大丈夫かっ…?」
「…早いとこリクハを離してくれシスイ…」
「ああ、そうした方がよさそうだな」
『えへへ、イタチ大好き。もうすごい好きっ』

―チュッ

「「「「……………」」」」

今、何が起こったのだろう。

イタチからリクハを引き離そうと、シスイが立ち上がったその瞬間。この場に居た全員が呼吸すら忘れてしまったかのように驚愕し、フリーズ。可愛らしいリップ音と共に頬に残った感触がイタチの全思考を勢いよく停止させ、次の瞬間にはナルトの悲鳴が響き渡った。

「ぎゃーーーーー!!ちゅちゅちゅちゅ…ちゅーしやがった!」
『そんなに驚かなくても…ねえ、イタチ』
「…………」
「やばい、兄さんが放心状態だっ!」
「早く離れろリクハ!」
『ちょっとっシスイ!やだってば、イタチの近くに居たいのっ』
「もう充分だろ、頼むから我慢してくれっ」
『そんな〜っ!』


想いだらけのリップ
(ああ、もう…好きと言ってもいいだろうか)


*前 次#


○Top