昔から、大好きだった幼馴染。

「リクハ、一緒に帰ろう?」
『うん、いいよ』
「えーっ!またイタチと帰るのかよっ」

幼いながらに感じてた。

「帰り道…一緒だから。行こうリクハ」
『う、うん』

自分が目を離した隙に、誰かに取られてしまうんじゃないかって事を。

「あんなクソ真面目と居たって、つまんねぇのにな」
「ほんとほんとっ」
「あいつにリクハはつり合わねぇよな〜」
「………」

そんなこと、言われなくても自分が一番よく分かってた。明るくていつも元気で、人当たりのいい言わば人気者タイプのリクハと自分とでは…生きていく世界が違うんだと。
いざという場面で強気に出ればそれなりに格好もついたんだろうが、悔しい…なんて柄にもないことを思いながらも言い返せない自分がいたのを覚えてる。そんな自分を見兼ねて、彼女はああ言ってくれたのかもしれない。

『ちょっと!』

今となっては本音なんて分からないけれど、あの時の言葉は確実にイタチの背中を押していた。

『この里で私につり合う忍はイタチだけなんだから!』
「な、なんだよキレんなよ!」
「冗談だろっ!?」
『うるさい!イタチを悪く言うなー!』
「うわー!リクハがキレたー!」




あれから大分、時間は流れてしまったけれど…今でもあの時のような気持ちで居てくれているのだろうか。

「リクハ…」
『呼んだ?』
「…!!」

任務終わり、よく二人で遊んでいた河原へとやって来たイタチ。思っていた以上に考え込んでいたのか、近づいていた気配にも気付かず想い人の名前を呟くとまさにその人物に背後から顔を覗きこまれ、驚きのあまり勢いよく身を引いた。
そんなイタチの反応に、クスクスと可愛らしい笑顔を浮かべるリクハ。

『イタチみーつけた』
「…脅かすな」
『呼んだくせに』
「………」
『えへへ。イタチが私の名前呼んでくれたっ』

躊躇なくイタチの隣に腰を下ろしたかと思えば、左腕にピタリと寄り添う。この3日間リクハに会う度抱き付かれていた為か、もうすんなりと受け入れてしまっている自分がいる。

「…名前なんていつも呼んでるだろ」
『なんかさっきのは違うの』
「……」
『こうやって側に居てくれるし』
「そ、それはお前っ……」
『分かってる。でも、嘘でも幸せだなぁって』

それはこっちのセリフだと言いたくなる。
「薬」の効果でこうなっているとは言えリクハが惜しみなく愛情を注いでくれるのは素直に嬉しいと思えるし、幸せを感じないわけがない。むしろこのまま時間が止まってしまえばいいとさえ思った。
イタチは夕日に染まり流れる川を見つめながら、隣にある温もりに心底癒されていくような感覚に陥る。今はこのわずかな沈黙でさえ、心地いい。

『イタチ…』
「?」
『…大好き』

言いながら、リクハはイタチの肩に頭を預け目を閉じる。心の底から止めどなく溢れるイタチへの想い。好きでもない相手から言われても迷惑なだけだろうに、幼馴染のよしみからかこうして受け止めてくれて本当に感謝している。

「それは…もう何度も聞いた」
『何回言っても言い足りなくて』
「好きでもない奴にか?」
『イタチ!大好きだから言ってるのにー!』
「はは…ちょっとからかっただけだ」

女子顔負けの綺麗な笑顔で笑うイタチの横顔を『かっこいいなぁ』と内心呟きながら見つめるリクハ。

『イタチはさ』
「?」
『好きになった子には、たくさん好きって伝える人?』
「…さあ、どうだろうな」
『是非知りたいっ』

イタチから少しだけ離れ、顔を覗き込んでくるリクハ。気になって仕方がないと言いたげなその表情に、イタチは困ったような表情を浮かべた。
仮にもし…。今目の前に居るリクハと特別な関係になれたとして、自分は何か変わってしまうのだろうかと疑問に思うところはある。この湧き上がる想いと、日々募る気持ちを抑えなくていいとしたなら…恐らく自分は…。

「リクハはどう思う?」
『イタチがどうか?』
「ああ」
『う〜ん、そうだなぁ』

口元に手を当てて考えるリクハ。ああ、可愛いなんて思っているとすぐに返事が返って来た。

『私は、イタチにはたくさん好きって言って欲しいかな』
「……」
『ふふっ。流石に言ってて恥ずかしいっ』
「了解した…」

はにかんで笑うリクハにそう呟くと、聞こえていなかったのだろう『ん?』と首を傾げられた。

『じゃあ好きって言って』
「なんでそうなる…」
『練習?』
「なんのだ」
『ん〜、好きな人ができた時用の為?』
「…いいのか?お前以外を好きになっても」
『はっ…!ダ、ダメッ!今のなしっ』
「ははっ。…バカだなお前」

自分から言い出したくせにアワアワと焦っているリクハがおかしくて、笑みがこぼれる。
反応の一つ一つがとても愛らしく、愛おしい。
独り言のように『他見ないでね!』と言い続けているリクハの頭を優しく撫でると、頬を染めてフワッと微笑んでくれた。

『イタチ…』
「?」
『やっぱり好きって言って』
「…!」
『昨日みたいに、愛してるでも可です』

左腕をガッチリと掴まれ迫って来るリクハに、イタチの頬がみるみる赤く染まっていく。真剣な表情でそう言われても、心臓がトクントクンと高鳴りこれは言わなければマズイのか?と疑問が浮かんで来た。

『好きのかわりに…キ、キスでも可っ…』
「それ以上は要求するな。頼むから」

渋っているイタチに痺れを切らしたのか、頬を赤く染めとんでもない発言をし出したリクハの顔を両手で押さえ俯くイタチ。『お願い1回だけ』と肉食動物並みの勢いで迫り来る幼馴染を宥めるべく、仕方なしにその体をグッと引き寄せ抱きしめた。

「…これで、許せ」

思いがけないイタチの行動にリクハは一瞬フリーズしたが、すぐに嬉しそうな笑顔を浮かべイタチの背中に腕を回して抱きしめ返す。大好きな人の体温が直接伝わってくるこの感覚に、目をつむり胸板に顔を埋めた。

『あーもうっ、イタチ大好き。結婚したい』
「…!?」


何気ないやり取りがせで
(そんなこと言われたら、もう離せなくなる)


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