「すまない。その気持ちには応えられない」
「…そっか……」

半日で任務を終え報告を済ませ、手裏剣術の修行でもしようといつもの修行場へ向かっていた道中、見知らぬ少女に声をかけられ突然告げられた気持ちにイタチは至って冷静だった。

その気持ちには答えられないし、答えるつもりもサラサラないと意思を示す。面倒ごとに巻き込まれるのは嫌だった。こう言ったことは初めてでは無いし、悪い気はしない。けれど自分には揺らぐ事のない想いを寄せる幼馴染がいて、例え容姿も中身も完璧な誰かが自分に想いを伝えてきてくれたとしても何も感じないし、思えないのだ。

少女はイタチからの返答に寂しそうな表情を浮かべて肩を落とす。最初から分かってはいたが、どうしても気持ちを伝えたかったのだろう。段々と目頭が熱くなり、目の前にいるイタチを直視できない。しばし沈黙が流れ、先に言葉を発したのはイタチの方だった。

「…オレはこれで」
「え、あ…ま、待ってイタチくん!」
「………」
「待って!」

これ以上話すことは無いだろうとその場を立ち去ろうとした瞬間、名前を呼ばれ腕を掴まれた。ああ、もっと早くこの場から離れるんだったと後悔しつつイタチは自分の腕を掴んでいる少女に表情を歪めた。その手をやんわりと離そうとすると、抵抗された。

「離してくれないか」
「イタチくん…好きな子がいるの?」

そら来た。面倒なのは嫌なんだ。

「…だったらなんだ」
「…リクハの事?」
「……」
「否定しないんだ。いつも一緒に居るもんね」

俯き加減でそう言う少女に、イタチは深いため息をついた。正直、リクハのことを良く思わない…この少女の様な人間に想いを告げられることが時々ある。気持ちは分からないでもない、自分ももしリクハにそんな相手がいたら心の底から嫌だと思うから。

「リクハの何処がいいの…」
「…おい」
「ただ一緒居るだけじゃないっ。私の方が、いつもイタチくんの事考えてるし、好きって気持ちも負けてないよっ…!」

ここが人通りの多い場所じゃなくて良かったと心底思った。こんな会話を他人に聞かれては恥ずかしくて堪らない。決してイタチのせいではないのだが、まるで自分が悪者にでもなったかの様な気分だ。
目の前にいる少女は今にも泣き出しそうで、感情的に声を荒げている。こうなるのが本当に嫌だったのだ。イタチは更に表情を歪めると、無理矢理腕を離し数歩後ずさった。

「気持ちには応えられない、そう言った筈だ」
「リクハが居るから!?」
「アイツは関係ないだろう。巻き込むな」
「だって、あの子が居なかったからっ…」
「居なかったらなんだ…」
「…い、居なかったら……」

イタチのほぼ無表情で自分を見てくる瞳が恐ろしく冷たかった。漆黒の瞳からは何とも言えない威圧感が伝わって来て、これ以上何かを言っても届くことが無いのは明らかだった。少女は再び肩を落とし、俯く。

「アイツは大事な親友だ。悪く言わないでくれ」
「………」

自分のせいでリクハが悪く思われるのが嫌で、イタチはそう言った。聞き入れてもらえるかどうかは分からないが、更なる面倒ごとにだけはなって欲しくないとため息をつき少女に背を向け歩き出した。近くで今の一部始終を見ていた気配に気づく事はなく。




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