イタチの気持ちを、最後まで聞くことが出来なかった。言いかけたあの言葉に、期待してもいいのだろうか。目が覚めて、もしもイタチがそばに居てくれたら…もう一度さっきの言葉を聞いてみたい、そう思った。

『……ん』

目が覚めると、視界には見慣れた天井が広がりここが自分の部屋のベッドの上であるとすぐに認識することが出来た。まだ幾らかぼーっとする意識の中で、今まで事を思い出そうと懸命に記憶を呼び起こす。するとここ数日間、プラス先程までの出来事が蘇りはっとする。

『イタチッ…』

なんて最悪なタイミングで気を失ってしまったんだと思いながら名前を呼び勢いよく起き上がると、少しだけ頭に痛みが走り表情を歪めた。
と同時に、部屋の奥から知った気配が近づいて来るのが分かり視線を移す。

「リクハ、目が覚めたのか」
『あ…』
「良かった。急に気を失ったんだ、大丈夫か?」
『イタチ…』

ここまで運んでくれたのだろうか、イタチはぽかんと口を開けているリクハの近くに歩み寄るとベッドの近くにあった椅子に腰を下ろし安堵のため息をついた。

「一応医者にも診てもらった。薬の効果が切れる前兆だそうだ。あと数時間もすれば自然ともとの状態に戻る。…良かったな」
『私、どれくらい眠てた?』
「3時間くらいか」
『そんなにっ…?あ、あのイタチッ』
「ん?」
『さっきその、イタチが言いかけた事って』

慌てた様子でそういったリクハに、イタチは苦笑いを浮かべた。

「ああ、いいんだ。気にするな」
『気にするなって…そんな…』
「すまない。余計なことを言って」
『余計なんかじゃないよ…』

しゅん…と肩を落とすリクハに申し訳なさに似た罪悪感が募って行く。一時の感情に流され、伝えかけてしまった想い。
このまま目が覚めた時、何もかもを忘れていつも通りのリクハに戻っていてくれていれば良いのにと思っていた。だがそうはならなかった。

「もう少し休めリクハ」
『イタチ?』
「夜には元通りになってる。オレは帰るから」
『え、ちょっと待って』
「ほら、またフラつくぞ。明日な」

そう言いながら椅子から立ち上がり足早にこの場から離れようとするイタチ。急いで引き止めようとベッドから出ると、強めの立ちくらみに襲われ体が上手く動かなかった。その間にも遠のいて行くイタチの背中。

『イタチ…』

こんな中途半端な別れ方は嫌で、薬がどうとかもう関係なくて。届きそうで届かないこの距離に嫌気がさした。一度深呼吸をしてからゆっくりと立ち上がり、イタチを追いかけるためフラつく足取りで部屋を出た。

すでに玄関の扉を開けようとドアノブに手をかけているイタチの名を呼び引き止めると、一瞬だけ振り返るのを躊躇した。どうしたものかと迷っていたのも束の間、背中から軽い衝撃が伝わり腹部に回された腕がリクハの物であると認識するまで一瞬で心臓がとくんと高鳴る。

「おい、リクハ…」
『行かないで…』
「………」
『ここに居て…お願い』

今にも消え入りそうな弱々しい声でそう言われ、自分でも無意識のうちにドアノブから手を離していた。

『さっき…イタチが言いかけたこと…』
「あれは…」
『期待しても…いいのかな?』
「……」
『私、イタチが誰かにとられちゃうのは嫌…』
「…リクハ…」
『ずっとそばに居たい』

そう囁かれた言葉に、イタチはリクハの方へ体を向ける。このまま時間の許す限り、リクハの思いに応えてやりたいと思わずにはいられない。求められること全てに応え、それ以上の愛を与えたいと欲が出た。今にも泣き出してしまいそうな表情で自分を見上げてくるリクハをそっと抱きしめ腕の中に閉じ込める。

「オレだって、お前が誰かのものになるのは御免だ」
『イタチ…?』
「言わないと、決めていたのにな…」
『……』
「すまないリクハ…」

こんな状況で、気持ちを伝えてしまうのはずるい気がしたんだ。けれど、もう押さえてはいられなかった。愛おしくて堪らない想い人が、こんなにも自分を必要としてくれているのだから。

「オレは、リクハの事を…」

幼馴染なんて、とうの昔に超えていた。

「ずっと前から、愛してるよ…」




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