そう言ってリクハの形の良い桜色の唇に口付けると、今まで押さえていた気持ちが次から次へと溢れ出しもう止められそうにないとすぐに自覚した。
あと数時間経てば、全てを忘れるリクハ。
気持ちが通じ合ったはずなのに、どこか虚しいのはそのせいだろうか。

『…ん』
「リクハ…」

触れていた唇が離れると、妙な熱を帯びる。
ため息混じりに名前を囁くとリクハの頬がほんのりピンク色に染まった。そんな素直な反応が可愛くて、もう一度口付ける。触れるだけのキス、これで十分な筈なのにもっともっとと欲が出た。
リクハは離れた唇に名残惜しさを感じつつ、恥ずかしさのあまりイタチの胸板に顔を埋める。大好きな体温とその香りに包まれ、ゆっくりと目を閉じた。

『イタチ…』
「…ん?」
『好き…』
「…ああ」
『…ずっとそばに居てね』

優しく髪を撫でてくれる手に、安堵する。離れて行って欲しくない、ずっとそばに居て欲しいと募る気持ちに嘘などなくてリクハはイタチの背中に腕を回してギュッと抱きしめる。
そして、とんでもない一言を口にした。

『今日は帰らないで…』
「…は?」
『そばに居て…離れたくない』
「いや、それは流石に…」
『ダメ…?』

じゃないに決まってる。
好きな相手からそんな可愛いお願いをされて、断る男がどこにいるんだ。答えなどYESしかないのにやはり戸惑う。自分たちは思春期真っ只中の男と女。なんの意識もない幼い頃とはわけ違うのだ。
間違いが起きるとは言いたくはないが、こんな状態のリクハと居るにはあまりにも理性という名の柱が足りない。もう何本崩壊させられたと思っているんだ。

「リクハ…」
『一緒に居たくない…?』

しゅんとするリクハに、そうじゃないとすかさずフォローを入れる。

「オレ達はもう、昔みたいに子供じゃないんだ…」
『分かってるよ…』
「お前の幼馴染である前に、オレも男だ…少し警戒心を持て…」
『イタチならいいの』
「……え?」
『イタチとなら、何があってもいいから言ってるの』

今日を含めこの3日間。誰がこんな事を想像しただろうか。近くにいたのに遠かった幼馴染が、今はこんなに近くにいる。いつかはこうなりたいと望んでいて、ずっと想いを寄せていた。
だが流石に、もうこれ以上を望んでしまってはいけないと警報音がけたたましく鳴り響く。イタチはリクハの体をやんわりと離すと、かろうじて残っている理性で首を横に振った。

「駄目だリクハ」
『……』
「お前を傷つけたくはない」
『イタチ…』
「大切なんだ。理解してくれ」

イタチの言っていることが、理解できないわけではない。昔から優しくて真面目で誠実な彼の事だから、今のリクハの状況を考えてこれ以上はと踏みとどまってくれているのだろう。
リクハはそれを察し迷惑にはなりたくないとため息をつくと、イタチの手を取り『ごめんね』と苦笑いを浮かべた。

「すまない、リクハ」
『謝らないで。イタチは悪くないよ』

言いながら頭を撫でてもう一度謝罪の言葉を口にしたイタチの優しさが、痛いくらいに胸を締め付ける。彼の気持ちを引っ掻き回し、振り回してしまっているんじゃないのかと。

『イタチ…あの』
「どうした?」
『家まで送ってく…』
「いや、お前はもう少し休め」
『……』
「…分かった。じゃあ、少し付き合え」
『…うんっ』

少しだけ俯いてしまったリクハに苦笑いを浮かべそう言えば、ぱっと顔を上げてふわりといつも通りの笑顔を浮かべてくれた。分かりやすく単純で、自分の言葉一つに一喜一憂している幼馴染に愛しさが募るばかりだ。
今度こそ玄関のドアを開け外に出ると、リクハもすぐについて来る。やれやれと呆れ顔を向けると『イタチ大好き』と左腕に絡みついてきた。

「リクハには敵わないな」
『えへへっ』
「なに笑ってる」
『だって、イタチと両想いだったんだもん。嬉しくて』
「……嬉しいのはオレの方だ」

こんなにも大好きで愛おしい存在が、自分だけを見てくれているのだから。


想いが届くその日まで
(オレはお前を想い続けてもいいだろうか)


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