『そ、それは…本当にっ…?』
「ええ。凄かったって聞いてる」
『な、ななななっ…(ガクガクブルブルッ)』
「くすっ。面白い経験したわね」

朝起きて、随分と長い夢を見ていた様な感覚に襲われたから何か様子がおかしいなと思っていたんだ。風邪を引いたわけでもないのに頭は重くて鈍痛が今も続いているし、今日は丁度病院内での仕事を任されていたから頭痛薬でも飲んでおけば大丈夫かと思っていたらとんでもない。そんな物では到底治らないようなダメージを、同僚から告げられた衝撃的事実により負ってしまった。

「惚れ薬なんて中々出回らないのにね」
『………』
「あんたの後輩が血相変えていろいろ聞きに来たんだよ」
『……ちょっと待って』

人ごとの様に淡々と話を進める同僚の冷静さには救われる。が、いかんせん思考がついていかないのは既にプチパニック状態であるからだ。「惚れ薬」の存在はもちろん知っているし、その効果も知っている。だが自分には無関係、生涯無縁の長物だと思っていたのにそんなまさかと頭を抱える。知っているからこそ余計にどんな迷惑をかけたのだろうとか、自分はどんな気狂いな行動を仕出かしてしまったのだろうとか、もういろいろ疑問が湧いて来て吐き気すらした。

「あれってさー、使用者の一番親しい人に惚れるって言われてるじゃない?」
『…はっ!』

そうだった、そうだった、そうだった!と、同僚の言葉でさらに青ざめていくリクハ。やってしまったかもしれないと絶望のどん底に突き落とされていく。

「あんたの場合、やっぱりうちはのあの二人の…ってリクハどこ行くの!?」
『ごめんっ!急用!』

こうしちゃいられないと血相を変えて走り去って行ったリクハに驚きながらも見送ると、すぐ隣でボフンと煙が上がり影分身のリクハが現れた。

「器用ね、あんた…」



『お…落ち着け落ち着け落ち着け私っ!!』

病院を出て向かうはこの状況をきちんと説明してくれそうな…、

『どっちも可能性あるからダメじゃんっ…!』

ピタリと足を止めて頭を抱えた。冷静に物事をきちんと客観視しでき、的確なアドバイスをくれそうなイタチかシスイの元へ行かなければと思っていたのだがよく考えてみれば一番可能性のある二人ではないか。最悪だ、最悪な展開だと再び絶望するリクハ。すぐさま他の人選に思考を向けると、先程の同僚の言葉を思い出した。

自分の後輩と言っていたから親しい間柄であるとすればナルトか、サスケか、サクラに絞り込まれる。中でも一番まともに説明が出来そうなのはサスケかサクラ。ナルトに至っては知ってたとしても更にパニックに陥りそうなので避けることにした。もし、もし仮にイタチ相手に迷惑をかけてしまっていたとしたら近しいサスケの方が状況を細かく説明してくれそうだ。
顎に手を添えて悩んだのち、リクハは民家の屋根に飛び移り深いため息を吐きながら足を進めた。



『(な、なんでだぁぁっ!)』

一難去ってまた一難どころではなかった。むしろ、一難増えてまた一難の方が今の状況にはぴったりな表現だと言える。とにかくどういった状況だったのかを知りたくてサスケの元へと足を運んで来たわけだが、数十メートル先にいる彼を発見した時には民家の影に身を潜めるしかなかった。

「え、じゃあまだ姉さんには会ってないのか?」
「オレは今朝方任務から戻って来たばかりだからな」
「兄さんもか?」
「ああ。見ていないな」
『(なんで三人一緒に居るのぉぉ!!)』

こんなに運のない人間だったっけ?と自分自身を呪いたくなった。サスケだけならすぐに捕まえて事情を聞いていたものの、よりにもよって今一番会いたくない可能性大の二人が揃ってしまっている。しかも途切れ途切れではあるが話している内容に自分が登場しているではないか。何故!どうしてこうなるの!と自問しつつ気配を消し、聞き耳を立てた。

「薬の効果は切れてんだろ?」
「ああ。それは間違いない」
「数日の記憶が無いわけだから、オレたちは何事もなかったかのように知らず存ぜぬでいた方があいつのためだな」

気を使ってくれているシスイの発言に感動しつつ、何をやらかしたのかが気になってしまう。知らぬ存ぜぬでいた方がいいほどの何か重大なことをやってしまったのだろうか。

「…あんな姿見せられていつも通り振る舞えってのが無理だ」
『(おぃぃ!何したんだ私ーーっ!!!)』

あんな姿とは何だ!どんな姿を晒したんだ!と冷や汗がどっと吹き出す。

「まあ、極力そう努めろ。ナルトやサクラにも伝えとけ」
「ああ。…分かった」

シスイの言葉に渋い表情で頷いたサスケが二人と別れリクハのいる方角とは真逆の方へ歩き出した。これ以上ここにいるのは実に危険で気まず過ぎるし、サスケから話を聞くため追いかけようと振り返ったその瞬間。全ての思考が停止しまるで金縛りにでもかかった様に体が硬直し動かなくなった。

「盗み聞とは感心しないな、リクハ」
『…っ…』
「はは」

気配を殺していたはずなのに、やはり気づかれてしまっていたようだ。振り返ればそこに、いつもの人懐っこい笑顔を浮かべたシスイがいた。


そのとそれから
(言っとくがイタチも気づいてたぞ)
(ひぃぃぃっ!!)


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