優秀で真面目で不器用な親友と、同じく優秀だがどこか目が離せない鈍感な妹分。この二人の世話(主にリクハだが)を焼くのがわりと好きで、困っている姿を見るとついつい手を差し出したくなってしまうのだ。

「そう落ち込むなって」
『ずぅぅぅん…』
「別にイタチは怒ってないぞ」
『……まだシスイの方がマシだった』
「それオレに対して失礼だな」

ザァァと流れていく小川の沿いに座り、ここ3日間の出来事を知る範囲で順序よく説明してやると膝を抱えて気を落としてしまったリクハ。知らぬ存ぜぬとは言ったものの、本人がすでに薬を使用していたことを知っていたし話してくれと申し出て来たものだから隠さず話したシスイ。リクハが身を潜めて聞き耳を立てていたことはイタチも気づいていたし、自分がこの話をするだろうと確信はしているはずだ。

『イタチが可哀想…最悪私…最悪な女だ』
「そうか?」
『そうだよっ。だって好きでもない奴に3日間も付きまとわれたらシスイだって嫌でしょっ』
「…好きでもない奴、だったらな?」
『え?なに?』

表情を歪めて隣にいるシスイを見れば、苦笑いを浮かべながら視線を逸らされてしまった。

「ほら、お前は幼馴染だろ?だからそこまで嫌な気はしないって意味だ」
『そうだとしてもさぁ〜…はぁぁあ〜…』
「薬のせいだって理解してるんだ、気に病むな」

励ましの言葉をかけるが今はあまり効果を成さない様子。にしてもここまで綺麗に記憶が消えているというのには正直驚いた。自分も見た範囲内でしか説明できないし、イタチしか知り得ないことも多々あるだろう。それでもリクハがここまで落ち込む必要はなく、むしろ愉快な3日間だったとシスイは感じていた。まあそんなことは、口が裂けても言えないが。

『イタチに顔向けできない…』
「避ける方が不自然だろ」
『だって何したか分からないんだよっ?』
「そんな大袈裟な」
『どうするの押し倒してたりとかしたらっ!』
「はははっ!ないな。ないない」
『言い切れないでしょ…?』
「そこまでいったら寧ろ上等だ」
『なっ…!』
「そうなる前にイタチが止めてるに決まってるだろ」

言われてみれば確かにそうか…と親友であるシスイが言うのだからと納得してしまう。可能性としては0ではないが、いや…0であって欲しいと願う。

『で、でも…あの…頬っぺにキスしてたんだよね?』
「ああしてた。今思い出すと笑えるな」
『ひどいっ!…いや、私がひどいのかっ』
「大丈夫だ。多分喜んでたはずだ」
『もーっ、喜ぶわけないよっ…!あ…っ』
「ん?」
『く、くく…口にとか、してないよね!?』
「……知らないな。イタチに聞いてみたらどうだ」
『え、嘘、やだ!聞けるわけないじゃんっ!』

どどどどどうしようシスイ!と驚愕の表情で肩を揺すってくるリクハの慌てようと来たらそれはそれは笑えた。つい昨日までイタチのことを好きだ好きだと追いかけ回し、恥ずかし気もなく自分たちの前でそれを公言していたくせに。

「いや、もしそうだったとしてもだリクハ」
『えっ?』

シスイの言葉にぴたりと動きを止める。

「例えお前が無理矢理迫ったとして、それを止めることはいくらでもできるだろう?力の差だってあるんだからな」
『…た、確かに』
「逆にそれを受け入れたとしたら、どうだ?」
『どうだって…それは』
「お前は好きでもない奴からされたら受け入れるか?」
『いやいや、受け入れないよ』
「じゃあそうゆうことだ」
『……イタチが私を、好きだって言いたいの?』
「いや、まあ、なんだ。それが普通じゃないかって事だ」

もしも自分とイタチがそんな事になっていたらと考えると、恥ずかしくて仕方がない。そもそもずっと幼馴染として接して来て今更イタチが自分を好きになるなんて到底思えない。女として見られているかも危ういというのに。

『そ、それは…』
「それは?」
『絶対ありえないと思うっ』
「はぁ?」

なんでここまで言っても気づかず、明後日の方向へすっ飛んでしまうのかが理解できない。

『私みたいな女をあの優秀なイタチが好きになるわけないって。…いや、だからと言ってキスしたかどうかなんて聞く勇気も出ないんだけどっ…』
「……バカだなお前は」
『な、なんでっ?』
「いや、気にすんな」
『??』

はぁ、と再びため息ついたシスイに首を傾げるリクハ。話を聞き大体のことを確認できたのは良かったが、知れば知るほど落胆してしまった。真面目で機転の利くイタチのことだから、きっとうまくあしらってくれたのだろうがそうだとしてもかなりの迷惑をかけてしまったはずだ。どう詫びれば今まで通り接してくれるだろうかと考えていると、シスイの手が肩を叩き顔を上げた。

「いつまでも引きずるなって。仕方ないだろ」
『うぅぅん……そうなんだけど…』
「変に気を遣うと余計に気まずくなるぞ」
『…うん』

ああ、可愛い後輩たちよ。特にナルトだが、なんてことをしてくれたんだと出た溜息が自分でも分かるくらいに深くてこうして励ましてくれるシスイに申し訳なくなってしまった。

『とにかくイタチに謝らなくちゃ…』
「謝らなくてもいいと思うけどな」
『いやいや…。もしだよ、もしイタチに好きな子がいたら私は邪魔者以外の何者でもないわけだよ…』
「…(それお前だよ)」
『だからお詫びしないと…』

お団子買ってけば許してくれるよね?と自信なさげなリクハを前に、食べ物で吊られるのはお前だけだよと内心ツッコミを入れその頭を撫でた。

「そうしようと思うなら行って来い」
『うん……ああ、気まずい』

シスイの後押しを糧によろよろと力なく立ち上がったリクハを見て、ニカッと人懐っこい笑顔を浮かべた。

「本当、見てて飽きないよお前らは」



ああ、気まずい。とても気まずい。すこぶる気まずい。
10年以上付き合いのある幼馴染に会うだけで、こんなに気まずいと感じる事があるんだなと自分でも驚いた。シスイと話した後一度仕事に戻り、終わった後家に足を運んで来たのだが…。

『気まづくて勇気出ないんだけど…』

幼い頃からの通い慣れた場所のはずなのに、いつもみたくスムーズに入っていく事ができない。やらなければならないことは分かっているにも関わらず、ああどうしようどうしようと家の前で立ち尽くしている自分は不審者も同然。タイミングよくミコトが出てきてイタチを呼んでくれたりしないかな、なんて都合のいいことを考えていると、

「…あ」
『…あ』

下忍になったばかりの可愛い弟がそこにいた。

「姉さんっ?」
『サスケーッ!!』
「うわっ」
『ああ、助かったサスケで本当助かった!』
「な、なにしてんだよ。入ればいいじゃんっ」

自分を見るなり駆け寄ってきて、ガシッと肩を掴んでくるリクハを前に少しばかりたじろぐサスケ。こんな所で会うとは思っていなくて、不意に先日の出来事が頭をよぎった。

「な、なあ…いつも通りのリクハ姉さん、なのか?」
『…そ、そうだよね。サスケも居たんだもんね』
「………」
『だ、大丈夫。大体シスイから聞いてる。姉さんは、いつも通りの姉さんよ』
「(ホッ)じゃあ、薬の効果は切れたんだなっ?」
『うんっ、切れてる。もう安心して…あのそれでサスケ』
「?」
『イタチ、怒ってた?』

表情を歪めて聞いてくるリクハに、首を傾げるサスケ。

「は?なんで?」
『いやだって、イタチに散々迷惑かけたし…』
「兄さんがそんなんで怒るわけないだろ?」
『ホント?全く?』
「うん。つーかオレにじゃなくて、直接兄さんに聞けばいいじゃん」
『えっ?』

「ん」と自分の後ろを指差すサスケの行動に嫌な予感がしてギギギ…と振り向いてみるとそこには。

「おかえり、兄さん。姉さんが話しあるってさ」
『(サスケェッ!)…お、おかえりー…』
「………」


団子あげる
(母さん、姉さんからお団子貰った)
(あら、寄らなかったの?)
(うん。兄さんとどっか行った)
(…はは〜ん。そうゆう事かぁ)


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