『すいませーん、レモンサワー追加で』
「姉ちゃんまだ飲むのかよ!」
「こらー、リクハ」
『まだ全然シラフですよ』
「ダーメ。自分の顔見てみなさい」

居酒屋のカウンター席に座り出てきたレモンサワーをリクハの手に渡る前に奪い取るカカシ。飲むことを許されなかった20杯目を名残惜しそうに見つめながら、枝豆を手に取り頬張った。そのふわりとした見た目とは裏腹に、リクハはスイッチが入るとそれはもう周りがドン引きするくらいの酒豪人間と化すのだ。酔った時の面倒くささというか、後処理が大変なのを経験しているからこそカカシはストップをかけた。レモンサワー20杯なんて、まだかわいいものだったりするのだが。

『カカシさん酷いと思わない?ナルト』
「いや、姉ちゃん飲みすぎだってばよ」
「そーゆーこと。はい、こっからはウーロン茶」
『え〜…』
「え〜じゃないでしょ?お前には前科があるからね。ダメ」
『う"っ…』
「今日は酔わせないって約束でイタチに許可貰ってんだから」

ジト目で不服そうな表情のリクハをじっと見つめ、有無を言わせない圧力をかける。前科というフレーズとイタチという抑止力に大人しくウーロン茶で我慢することにした。

「え、前科ってなに?姉ちゃんなんかしたの?」
『き、聞かなくて良いからナルトッ』
「あれ、お前居なかったんだっけ」
「うん。知らねーってばよ」
『言わないで。…言わないでねカカシさん!』
「なになに!すげー気になる!」

身を乗り出し興味津々なナルトがカカシに向かって教えて!と笑顔を浮かべる。どうしよっかな〜なんて呑気なことを言いながらリクハを見ると、かなり必死な様子で首を振りやめてと訴えかけてきていた。確かにあれだけの醜態を晒してしまったことを弟分であるナルトには知られたくないだろう。だからと言って絶対的に口にしてはいけない様な堅い内容でもない。

「いや実はさ〜」
『あー最低!カカシさん人として最低っ』
「それお前が言う!?」
「はは〜ん、酔っ払ってなんかやらかしたな〜」

ナルトの不敵な笑みに少しだけイラッとする。

『もーカカシさんが余計なこと言うから!』
「前科二犯の癖に態度デカイぞ〜」
「うわっ。何したんだってばよ!」
「1回目は確か半年前ぐらいだったかな〜」
『あー、もうホントあの時……あ"〜』

冷たいグラスを火照った頬に当てながら、ぐで〜んと机に肘をつきうな垂れるリクハ。二十歳を過ぎてお酒を飲めるようになるまで知らなかったのだ。まさか可愛い可愛いこの愛弟子が、あんな酒豪な一面を持ち合わせていたなんて。

あれはそう…中忍試験無事終了の打ち上げを、綱手筆頭に一部の上忍たちが強制参加させられた時のことだ。初めはたまたま後処理で残っていたリクハとカカシだけだったのだが、これまた偶然にも別の任務の報告に来ていたイタチとシスイがまんまと捕まりそこにシズネをプラスした計6人で綱手に付き合う羽目になったのが事の発端。見るからに弱そうなリクハが一番飲まないだろうなと思っていたのに、その予想は大きく裏切られることとなり今まで知る機会がなかったから付き合いの長いイタチとシスイでさえリクハの飲みっぷりには表情を青くしていた。

『すいませ〜ん!ビール追加で〜』
「いい飲みっぷりだぞリクハ!」
『綱手様こそ〜っ』
「ちょっとリクハ…そろそろやめときなさい?綱手様に合わせることないんだからっ」
「はぁ〜?シラケることを言うなシズネ!」
『そうですよっ。シズネさんもほらっ』

えへへと顎に手を置き可愛らしく笑うリクハは運ばれて来たビールをシズネに手渡す。食べると言うより飲む優先。ペースが一向に落ちないリクハの周りには大量の空のグラスが並び、レモンサワー15杯、ビール2杯、加えて焼酎を飲み上げてようやく頬がほんのりと赤くなり側から見て酔ってきたなと言える状態になった。

「……誰この子」
「誰でしょうね…」
「誰なんだろうな…」

目の前でニコニコと終始笑顔のリクハを顔を引きつらせて見つめる男3人。

『えへへ〜。すいませ〜ん、レモンサワー追加〜』
「おいリクハ、もういい加減にしておけ」
「そうだぞ。お前明日オレたちと任務だろ」

懲りずにレモンサワー追加でと水感覚で飲もうとするリクハに、ドン引き中のイタチとシスイが待ったをかけた。二十歳そこそこだと言うのに彼らは大人で、自分たちの飲む量をコントロールしていたのがグラスを見ればよく分かる。恐らくリクハほど強くはないのだろうが、今はそんな二人を見習って欲しいとカカシは切に願った。

「て言うか、もうお開き!12時回っちゃいます!」
「勝手に決めるな!まだリクハと話したいことが!」
『私もまだ綱手様に聞きたいことがっ…うわっ』
「もう行こう、リクハ」
『え〜イタチ〜…そんなぁ…』
「悪いね君たち〜。送ってってあげて。オレはこっちあるから」

常識的な判断のできるシズネがシラフでいてくれて本当によかった。苦笑いを浮かべながら酔っている綱手を指差すカカシ。イタチとシスイも同じ様な表情でリクハの両腕をそれぞれが掴んで立ち上がらせると、案の定方向感覚が麻痺し始めたのか足元がおぼつかなくなっていた。

「お前、明日絶対二日酔いだぞ」
『なりませーん。医療忍者だよ私は〜』
「あーはいはい。なら時間厳守で来いよ」
『シスイはうるさいんだよぉ…』
「はぁ?」
『いちいち言われなくても分かって………う"っ』
「「…!!!」」

腕を抱えていた二人は気持ち悪そうに嗚咽したリクハにぎょっとする。

「吐きそうか?」
『き、きもちわるい……』
「待て待てこんな道のど真ん中じゃマズイぞ」

イタチはすぐに背中をさすってシスイが気を利かせて貰っていた袋をガサッと広げ、前屈みになっているリクハの前に差し出したその瞬間…。

「あれ、お前らまだ居たのって……えぇえっ」
「いいよリクハ。全部出しちまえ…」

店内から綱手を背負って出てきたカカシが目にした光景は、イタチに背中をさすってもらいシスイの腕を掴んで袋の中に顔を突っ込んで見事なまでにリバースしている愛弟子の哀れな姿だった。そしてそんな状況にも関わらず、嫌な顔一つせず介抱している二人の情の深さに涙が出そうになったのを今でも鮮明に覚えている。
このあと引き続き介抱するために自宅へ連れ帰ったイタチが、リクハの残念な姿を見たサスケに同情されたことはカカシも知らない。

「…バカ姉貴が」


前科
(次の日からイタチとシスイの話のネタになった)


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