1回目は初めて飲んだにも関わらずその酒豪っぷりを見せつけたリクハが、幼馴染と兄貴分の前でリバースするという哀れな末路を辿り迷惑をかけてしまった…という内容。それを聞いたナルトはゲラゲラと笑いながら、目尻に溜まった涙を拭った。
「男の前でリバースするとか姉ちゃんやべーよ!」
『わ、私だって好きでそうなったわけじゃないわよっ』
「ま、オレはそんなリクハも可愛いって思うけどね」
「それなんか違くね?」
『全然嬉しくないです』
暴露されたリクハはぶすっと頬を膨らませてご機嫌ナナメな様子。ごめんごめんとやる気のないトーンで謝りながらもついつい反応一つ一つが可愛くてからかってしまうのだ。大きな出来事ではないが、他にも酔った勢いで他人の家に間違えて帰ってしまったり、川に落ちそうになったりとわりと散々な結果をもたらしている。酒豪というよりタチの悪いただの大酒飲みだ。
「他人の家って、知り合いだったの?」
「確かガイの家だったよな」
「うわっ!マジ?」
『あれかぁ…』
そこではちゃんとトイレでリバースしてたけどね。と笑いながら言ったカカシの肩を叩くリクハ。真夜中にガイの家のチャイムを連打して『ただいま〜』と袋に入った缶ビールを持って登場したリクハ。その行動をなぜか飲み比べ勝負だと勘違いしたガイがそのあと酷い二日酔いになったことは言うまでもない。リクハはけろっとしていたが。
「あとはシスイの家の玄関で爆睡してたとかな」
「超迷惑じゃん!禁酒しろよっ」
『普段は飲まないよっ?綱手様がいるとつい…』
「リクハがいつも何かやらかすから、わざと酔わせてんだろーね」
『え、そうなんですか?』
「お前ほんとそうゆーとこ鈍感」
ぺちっと軽く頬を叩かれ『綱手様酷いなぁ』と渋い表情を浮かべたリクハ。確かにいつも隣を陣取り飲め飲めと酒を煽って来るのは綱手一人だけ。たまにアンコが混ざりこんでくるのだが。
「んで?あと一つはなんだってばよ」
「ンフフ。…聞きたい?」
『カカシさん!それだけはダメ!お願い!』
「ここまで来てそれはねーよ。なぁカカシ先生」
「そうだなぁ。最近オレに対して優しくないから言っちゃおうかな〜」
『十分優しいですよっ』
「全然?温かさを感じないもの」
目の前で両手を合わせて懇願して来るリクハに対し、つーんと拗ねたような態度をとるカカシ。それが面倒くさくてジト目で睨み付けると、「もう話しちゃうから」と意地の悪い視線を向けられた。
あれはそう…またもや綱手が主催した飲み会に強制参加させられた時の事。
*
「こーら。ダメだって言ってるでしょリクハ」
『え〜っ…あと一杯!…あと一杯だけ〜』
「おっさんみたいなこと言わないでよ」
『カカシさ〜ん、愛弟子が可愛くないんですかぁ』
「お前は可愛いけど、酔うと面倒くさいからダメ」
『…う〜。…ケチんぼ〜』
今日は初っ端から飲むペースが早く、3時間経った今綱手とリクハは完全に酔っ払っていた。アルコール度数の高いものばかり飲んでここまで耐えられているのは流石だと思うが、また何をやらかすのかが気がかりで仕方ない。
「リクハ〜!遠慮しなくていいぞ!ビール飲め!」
『あ、綱手様〜』
「カカシも固いことを言うなっ。男だろ」
「いえ…それは関係ないでしょ」
綱手から手渡されたビールジョッキを嬉しそうに受け取り口をつけようとしたその瞬間、すっと第三者の手がそれを奪い取りリクハの飲酒に待ったをかける。あれ?なんて言いながらゆっくりとした動作で顔を上げると、呆れ顔のシスイがリクハの隣に腰を下ろしデコピンを一発おみまいした。
「いい加減にしろ。また介抱させる気か?」
『うえ〜んっ、シスイ〜ッ』
「今日はお前のお目付役で来てるんだから、言うこと聞け」
『だからあと一杯だけ〜』
「駄目だ。ったく、少し目を離すとこれだ」
ああ助かったと小さなため息をついたカカシは厳しめな対応をするシスイを感心の眼差しで見つめる。赤く染まった頬とトロンと潤んだ瞳を直視しても一切の動揺を見せず、しっかりとリクハのストッパーを役を果している。任務で来られないイタチがシスイを送り込んできたのにも納得がいく。彼が側にいることで変な虫がつかないのも確かなのだ。それなのに自分は酔ったリクハに懇願されると正直かわいくて仕方なく、この数時間で5杯は与えてしまったその甘さに反省した。
「お前まで堅いことを言うなシスイ〜」
「綱手様も、飲み過ぎですよ」
「私はまだまだこれからだ!なぁ、リクハ」
『えへへ〜、じゃあ芋焼酎追加で〜』
「おい、リクハ」
「綱手様、煽らないでください」
カカシが眉間にしわを寄せてそう言うが、酔っ払いにはそんな言葉通用するわけもなくゲラゲラと笑っては酒を飲む。今日に限ってシズネがいない事にもどかしさを感じた。
『私ちょっとお手洗いに行きま〜す』
「そんなこと手上げて発表しなくていいから」
「トイレで寝るなよ」
『寝ません〜』
よろよろと立ち上がったリクハが席から離れたのを見届けて、シスイとカカシは同じような感情を秘めた溜息をついた。
「シスイってさ」
「はい?」
「リクハのこと可愛いって思ったことないの?」
「…なんですか、急に」
唐突すぎるカカシの質問にシスイが表情を歪める。イタチとは同じ暗部だったこともあり直接話す機会もあったがシスイとこうして話すのは珍しい。
「いや。あのイタチでさえリクハに特別な感情を持ってんのに、お前はなかったのかなって」
「オレが、リクハを?」
「うん」
「はははっ。そんな風に思ったことはないですよ」
「マジで?1回も?」
「妹みたいで可愛いと思ってはいるけど、それ以外は特に」
そう言って向けられた人懐っこい笑顔には不純な感情など一一切無くて実に爽やかでかっこよすぎるでしょと内心呟いた。と同時に弟子であるリクハに特別な感情を抱いたことのある自分が恥ずかしくなる。
「流石はシスイ…尊敬するよ」
「…?いや、オレはただ…」
ガシャーンッ!
「「!?」」
シスイが何かを言いかけたその瞬間、お皿やらグラスやらが床に落ち割れる音が店内に響き渡り一時騒然とする。二人は顔を見合わせ嫌な予感がすると目で訴え合うと、急いで席を離れ音のした方へと移動した。多くの客が何事かと顔を覗かせて状況を知ろうとする中、シスイとカカシは目の前で起こってしまった悲劇に顔を青くし声にならない悲鳴を上げた。だが、最悪な事態はそれだけには止まらず…。
「おい…」
「(この声はっ!)」
背後から聞こえたトーンの低い親友の声に、シスイはギギギ…とゆっくり顔だけを振り向かせ引きつった表情を浮かべた。
「イタチ…」
「最悪なタイミングだこりゃ…」
床に押し倒されているリクハの上には見知らぬ若い男がいて、ただ覆いかぶさっているだけならまだその方がよかった。表情を一瞬にして曇らせたイタチはシスイとカカシを押し退けてリクハたちに近づいて行くと、若い男の胸倉を掴み立ち上がらせ背後の壁へドンッと押さえつけた。
「何してる…」
「ガハッ…!」
「ワザとしたのか?」
「うぐっ…苦…しっ…」
その行動が一瞬過ぎて分からなかったが、咳き込む男の声にハッと我に返ったシスイがイタチの背後に近づき肩に手をかけ制止を促す。その間カカシがリクハを起き上がらせ「大丈夫?」と声をかけた。
「おいっ。一般人だぞ…よせイタチ」
「……」
少しばかりシスイに視線を移したイタチの眼は冷たく、殺気を感じる程。リクハのことになると感情を抑えられないことがあるが、今がまさにそうだ。
「(キレてる…)」
「…二度とリクハに近づくな」
「がっ……ゴホッ、ゴホッ…!」
投げ飛ばすように手を離したイタチはシスイに「すまない」と一言言うと振り返り、頭を押さえているリクハの手首を少し乱暴に掴み立ち上がらせた。そのまま有無を言わせず半ば強制的に店の外へと連れ出していくのを見送ると、カカシとシスイは苦い表情で顔を見合わせた。
ありがちな展開を見送った
(イタチが本気でキレたの初めて見た…)
(オレも怒られそうだ…)
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