「他の男とチューとかありえねぇってばよ!」
「オレ相手に向かって雷切しそうだったもん」
『いや、もう済んだ話蒸し返すの止めましょ?』
あの一件の後日談で、イタチといろいろありましたとは絶対に言えない。否、言うつもりもないが思い出しただけで顔に熱が集まって来るくらいには恥ずかしい内容だ。リクハは平常心を装いながら持っていたウーロン茶を口に含んで喉を潤す。あの後イタチにはこっ酷く叱られてなんとか許してもらえたとカカシや綱手には説明しておいた。
「でもあの時さ、イタチの奴本気でキレてたよな」
『まだこの話続くんですか?』
「そりゃーそうだろカカシ先生!イタチは姉ちゃんラブだもん!」
「オレだって負けちゃいないよ?」
「イタチには勝てねえってばよ」
オレが姉ちゃん独り占めしてたらすげーおっかない目で睨まれたし…と言って、いつの間に頼んだのか目の前で湯気を立たせる味噌ラーメンをずるずるとすすり出すナルト。
「オレにだって勝ち目あるでしょーよ」
「ない。ないない、ぜってぇー無理!年の差考えろって」
『カカシさん、いい人いないんですか?』
「うわっ!酷くない?お前ら…。傷ついた」
ワザとらしく目を細めてそう言ったリクハに拗ねたような視線を返すカカシ。遠慮することなく好きなことが言える関係というのは、実に居心地がいいものだと感じた。そのあと小一時間程三人はそんな他愛も無い話をして盛り上がり、時刻は夜の11時を回った頃…。店のドアがガラガラと開き店員たちがいっらしゃいませーと一斉に声を張り上げる。そんな事を気にせずカカシたちとの話に夢中になっていると、最後の〆にと許しをもらって飲んでいたビールを肩越しに伸びてきた第三者の手によって奪われハッとする。一体誰だと驚き振り返るとそこには…。
『「「…!!」」』
「11時には帰る約束だったよな、リクハ」
綺麗だと感じてしまう程の完璧な作り笑いを浮かべたイタチが、黒いオーラを放出させながら立っていた。
「イ、イタチ…!やべ、時間見てなかったってばよ!」
『時間過ぎてた!いや、話盛り上がっちゃって…つい』
「つい?」
『あーっ、いやいやいやいや!ついじゃない!ごめんなさい!』
慌てて立ち上がったせいでガタンッと膝を机にぶつけて地味な痛みがリクハを襲う。焦っている様子が伺えて、ナルトにまでそれが伝染する。
「姉ちゃん、今日全然飲んでねーからっ!」
『ナルト…(フォローしてくれるのねっ)』
「ただのレモンサワー20杯とビール2杯!最後に焼酎飲んでただけ!この通り酔ってないし!」
ビシ!っと指を差しながらいつもの早口で全てを暴露したナルトに、カカシもリクハも深いため息をついた。
「だぁぁぁぁっ…お前ねぇっ」
『余計なこと言わんでいい!!』
「あだっ…!!いってぇ!」
グーでナルトの頭を殴り怒りを露わにする姿はクシナととても良く似ている。
「いや〜、でも今日は問題無いから。リクハこれぐらいじゃ酔わないし…ね。イタチ」
「酔わなければいいって問題じゃないでしょう」
「……ま、そうなんだけど」
何故かばちばちと火花を散らしているイタチとカカシ。確かにリクハの様子を見れば、頬がほんのりと赤いくらいでほぼシラフの状態。しかしイタチが言いたいのはそうゆうことではない。もちろん酔わせないは大前提だが、これから自分の妻となる婚約者をいつまでもダラダラと酒の席に付き合わせないで欲しいのだ。
「目が怖いなあ、イタチくん」
「殺気立ってる人に言われたくありませんよ」
『いや、二人とも怖いからやめて』
時間を忘れてしまっていたのを申し訳無く思いながらイタチの体を反転させ背中を押しカカシから遠ざけるリクハ。イタチを怒らせるのは得策とは思えず今日はこのまま帰ろうと二人に礼を言ってその場を後した。机の上にはしっかりと自分が飲み食いした分のお金を置いて。
「いいなあ〜イタチの奴。ほんっと羨ましい」
「諦めろってばよ、カカシ先生」
*
夜風が少しだけ冷たくて、火照った体にはちょうど良かった。店を出て月明かりと街灯が照らす夜道を歩くイタチ。リクハに触れている箇所から温かい体温が伝わって来て、迎えに行ってよかったと思えた。
「酔ってないとは言ってたが…」
『えへへ』
「自分の足で歩けない奴がよく言ったもんだ」
『イタチの背中あったかい』
最後の焼酎でほんのり酔いが回って来たのだろう。千鳥足になり始めたリクハを見兼ねて負ぶってやると、嬉しそうにイタチの首に腕を絡めぴたりと寄り添い甘えてくる。昔からいつも、こんな役回りは自分かシスイでそこは何も変わらない。成長と共に大きくなったイタチの背中はとても温かくて、頼り甲斐のある男の背中。リクハはまどろみ始めた意識の中で、幼い頃、怪我をした自分をいつもおぶってくれるイタチとの幸せな記憶に穏やかな笑みを浮かべた。
『イタチ…』
「ん?」
『大好き……』
「え?」
『…すぅ〜…』
「リクハ?」
耳元で聞こえる寝息に「全く…」と呆れ顔を浮かべつつも、心は幸せで満たされていった。
「…愛してるよ、リクハ」
もうだいぶ前から君に酔ってる
(これだけはもう冷めそうにないよ)
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