炎が燃えたぎる日輪刀で、鬼の頸を斬った。
刀に付いた赤い血を払い頭だけになった鬼に視線を向けると、狂気の染みついたじっとりとした眼で心底恨めしそうにこちらを睨みつけていた。

「アァァ…オレはオマエの目が嫌いだァ…」
「………」
「忌々しいィ、忌々しいィ…」
「………」
「炎のように燃えるその目が、オレは大嫌いだァァ…」

日輪刀の影響で、顔半分が灰になって消えていく下弦の鬼。最後の嘆きを吐き出しながら、目の前で炎のように赤く艶めく刀を鞘に収める鬼狩りを、今すぐにでも呪い殺せればいいのにと思った。何度闇を与えても消えない炎に、とてつもない嫌悪感を抱きながら。

「俺は火急の用があるので失礼する!」
「ァァア…嫌いだァ、その目も、その態度も…忌々しいィィ…」

長い夜が明け陽が昇る。今日という一日がまた幕を開けた。命がある。生きている。永遠に続く自然の呼吸とは違って、人間の命など一瞬の瞬き程度に過ぎない。世に蔓延る鬼を狩り、人の命を救う傍ら…清く儚く咲き誇る、美しい一輪の花をあとどれだけ愛でることができるのだろう。願わくば命が尽きても永遠に…その純心と共に在りたいと思う。
陽の光がその身を照らす前に消えてしまった鬼を背後に、煉獄は振り返ることなく歩みを進めた。

「灯華は今日も、穏やかな朝を迎えているだろうか」



煉獄杏寿郎の弟は、その特徴的な眉を八の字に下げ常に自信なさげな表情を浮かべている。兄弟というだけあって容姿は瓜二つだが、正義感が強く意気盛んな兄とは対照的な性格の持ち主だ。まだ幼く、十の歳の代を歩み始めて数年の千寿郎はとにかく心の優しい控え目な少年といえた。

「父上…お呼びでしょうか?」

襖越しに声をかける。すぐに返事はないが、布の擦れる音が聞こえてきて横になっていた父親が起き上がったのだと分かった。千寿郎の父親は、最愛の妻を亡くしてから人が変わったように酒に溺れ、息子たちに辛く当たるようになった。以前はそんな人間ではなかったのだが…。

「千寿郎」
「は、はい…」

足音が近づき襖が人一人分開かれると、酒の匂いを漂わせた父親が、部屋の前に控えている千寿郎を見下ろし気怠そうな口調でその名を呼んだ。父にこうして呼び出されるのも、部屋から姿を見せるのも久しい気がして千寿郎は少しばかり緊張した面持ちを浮かべる。

「この手紙を届けろ」
「え?」

前置きなく唐突に言われたその一言に、千寿郎の大きな目がさらに丸くなる。父、槇寿郎はそんな息子の反応には目も暮れず懐から手紙を取り出し、それを少し投げやりな動作で千寿郎へと手渡した。

「どなたに宛てた手紙でしょうか?」
「ある藤の花の家紋の家に行き、お鶴という老婆に会え」
「藤の家紋の家に?」
「"煉獄"と名を出せば通してもらえる。場所はここに記した」
「え、あ…」

ひらりと落ちて来た小さな和紙。
そこには目的地への簡易地図が書き記されていた。
千寿郎はその地図を拾い、不安げな表情で地図と父親を交互に見つめる。何故自分を遣いに向かわせるのか、根本的な理由が分からないからだ。

「数日そこで世話になれ。正午には発てよ」
「え!?ち、父上それは、どうゆうっ」
「うるさい!早く支度をしろ!」
「っ…!!」

ピシャンッ!と締められてしまった襖を見つめ、千寿郎は疑問に満ち満ちた表情を浮かべた。藤の花の家紋の家と聞いて思い当たる節が無いわけではないのだが…何せ幼少期の曖昧な記憶ゆえに確証は持てなかった。とにかくこれ以上あれこれ考えこの場にいたら、また父にどやされてしまうと腰を上げたその時。

「千寿郎。白百合の花を必ず持参して行け」
「…!?し、白百合ですかっ?花を?」
「そうだ。必ずだぞ」

思い出したかのように少しばかり強い口調てそう言った槇寿郎が、そのあと言葉を発することはなかった。


父の

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