「半月だ!」
「ギャッ!!」
鬼の首が落ちる。
「半月っ!」
「グァァッ!」
また落ちる。
「もう半月経った!」
「ガァァッ!」
渾身の恨み節を燃える炎に叩き込み、また鬼の首が落ちる。
「俺はもう半月、愛する妻に逢えていない!!」
「んなこと知るかぁっ!!死ねよ!オレらには関係ねぇ!!!」
「関係ないわけっ…!」
「うぐっ!!」
「ないだろう!!!!」
ドンッッ!!!
瞬殺とは、まさにこのことを言うのだろう。例外なくこの場にいる隊士全員と、甘露寺がそう思ったに違いない。彼に近づこうとする鬼の頸全てが、瞬きしている間に落ちていた。甘露寺以外、完全に目で追えていない速さである。あまりの強さと力量の違いに隊士たちは顔面蒼白で身を震え上がらせた。
炎の如く輝く日輪刀についた血を振り払い、灰となって消えていく鬼たちから仲間へと視線を向ける。甘露寺は目を輝かせて「煉獄さん素敵です!」と嬉々としているが、隊士たちからしたら口元の笑みを絶やさない煉獄が恐ろしく見えた。怒っているのか、笑っているのか、それともあれが平常心なのか、誰でもいいからとりあえず教えて欲しい!と全員が心の中で叫んでいた。
「よし!!帰るぞ甘露寺!!もうこの辺りの鬼は一掃した!」
「はぁい!お土産に、お花と甘〜いお菓子買って行きませんか?」
「うむ!それは良い案だな!とにかく帰ろう、今すぐっ…」
「ホクホクセイ〜!!ホクホクセイニムカエ〜!」
「「………」」
煉獄に駆け寄っていた甘露寺の足がぴたりと止まり、鎹鴉の水を差すような任務連絡に辺りがシーンと静まり返る。上空を何度も何度も旋回している煉獄の鴉は、珍しくなんの反応も返してこない主に若干冷や汗を流しながら旋回し続ける。が、次の瞬間。
「甘露寺!すぐに向かうぞ!」
刀を鞘に収めた煉獄が一人ズンズンと歩き出す。
「え、えぇぇ!?煉獄さん任務でしたら少し休んだ方がっ…」
「不要だ!!時間の無駄!」
「ど、どうなってんだ炎柱の体力っ…!着いていけねぇよぉっ」
「底なしか!?限界無いのかあの人!!」
「弱音を吐くな大丈夫だ!お前たちは必ず俺が守る!急ぐぞ!」
羽織をはためかせ、夜だというのに何故か轟々と燃え盛る炎のような闘志を燃やし辺りを照らす炎柱・煉獄杏寿郎の頼もしい背中に、甘露寺と隊士たちが「ア・ニ・キーッ!」と言いながら着いて来ているのを、想い人の心配をしている煉獄は知る由もなかった。
「(…灯華…。寂しい思いをしていないだろうか…)」
*
この時期、お鶴が当主の藤の家では…。
「灯華さん、この着物はどうされますか?」
『着物などありましたか?』
「はい。ですがだいぶ古い物のようですよ」
『…あら本当ですね。色褪せてしまってます』
家の敷地内にある物置小屋で、溜まりに溜まったガラクタ整理に勤しんでいる最中だった。長い歴史のある家なだけあって、物の量も半端では無い。片付けなければと常々お鶴や従者たちと話をしていたのだが、この所狭しと詰め込まれたガラクタの山を目の当たりにしてしまうとやる気が失せてしまい今の今まで手付かず状態に。しかし良い機会だと思い直し、日々の仕事はお鶴たちに任せ灯華は千寿郎の手を借りて開かずの扉を開いた次第だ。
「ではこれも処分ですね」
『そうですね。…千寿郎君、少し休憩しましょう』
男手があるとこんなにも早いのかと、千寿郎の働きに感謝する。幼くも非力な自分よりは全然力があるし、何より片付け上手なのか!と言いたくなるほど整理整頓が上手かった。千寿郎は持っていた箱を小屋の外に置かれた荷車に積むと、灯華の提案に可愛らしい笑みを浮かべる。そしてどこからともなく取り出した茶菓子箱を見せると、近くにあったイチョウの木の下で休憩しようと灯華の手を嬉しそうに引いた。
「お菓子を作ったのでどうぞ」
『千寿郎君はお菓子まで作れるのですか!凄いですっ。(そして準備がいい!なんてできた子っ)』
「灯華さんは蜜璃さんをご存知ですか?」
『はいっ、もちろん!以前杏寿郎さんに紹介して頂きました』
まだ煉獄が柱になる前の話だ。自分にも弟子ができたと喜んでいた煉獄が、ある日突然たいそう可愛らしい女の子を連れ立って来たものだからそれはそれは驚いたと、くすくす笑いながら話をする灯華。その見た目とは裏腹に、よく食べ、よく話し、よく笑い、そして何よりとても優しい心の持ち主だったと記憶している。
「蜜璃さんに作り方を教えて頂いた洋菓子です」
『へぇ〜っ。何というお菓子なのですか?』
「"すいーとぽていと"というさつまいもを使ったお菓子ですよ」
パカっと開けた箱の中には、見た目が羊羹のようなその"すいーとぽていと"が綺麗に並んでいる。わぁっ、と歓喜の声をあげながら一つ手に取り頬張る灯華。口の中に広がったさつまいの風味と絶妙な甘さに、心底幸せそうな笑顔を浮かべて千寿郎に視線を向けた。
『とっっても美味しいです千寿郎君〜っ』
「よかった、お口に合ったみたいで」
パッと明るい笑みを見せて、千寿郎も一口頬張る。ここに来てからすでに半月が経つが、灯華と過ごす日常はとても有意義で笑顔が絶えないと感じていた。
「灯華さんに食べて欲しくて、早起きをして作りました」
『!!!』
「遅くなりましたが、かすてらのお礼です」
『千寿郎君っっ…!!』
ぺこりと頭を下げた千寿郎は、初日の夜寝付けなかった自分を心配してくれた灯華の優しさを思い出す。お菓子を片手に千寿郎の律儀さに目を潤ませた灯華は、御礼などなくてもいつでもお菓子を持っていくよ!と心の中で訴えかけた。それからしばらく他愛もない話をする中で、兄の話題が出た時だった。千寿郎が少しばかり表情を曇らせたのは。
「兄上とも…」
『え?』
「こうした時間を過ごせればいいのですが…」
『………』
「兄上はとても忙しいから、なかなか、そういうわけにはいきませんね」
少しだけ寂しそうに瞳を伏せて、まだ家にいた頃の兄との生活を思い出す千寿郎。実際に彼らの生活を目の当たりにしていたわけではないが、煉獄から話を聞いていた灯華は持っていたお菓子を箱の中に置き、隣に座り寂しそうな千寿郎に両手を伸ばして優しくその名を呼んだ。
『千寿郎君、こちらへ』
「…えっ…」
その言葉に、千寿郎の手からポト…とお菓子が落ちる。
ふわりと向けられた笑顔になんとも表すことのできない感情が芽生えて、自分でもよく分からないままその温もりを求めて手を伸ばしてみた。すると次の瞬間には優しい香りと居心地のよい温かさに包まれて、何故だかとても懐かしく思えた。目頭が熱くなり、涙を堪える。
『確かに杏寿郎さんは柱という立場上、大切に思う貴方のそばにいることが叶わない状況にあるけれど…寂しいと思うことはありませんよ』
「………」
灯華の手が、優しく千寿郎の頭を撫でる。
『杏寿郎さんの代わりにはなれないけれど…、今は私が、こうしてそばに居ます』
「…!…灯華さん…っ」
『だから、そんなに寂しそうな顔をしないで。私は千寿郎君の優しい笑顔が大好きですよ』
頬を寄せ、よしよしと慰めるようにして幼い千寿郎の思いに寄り添う灯華。身内の兄以外に、ここまで自分を気にかけ包み込むような愛情を与えてくれた者が居ただろうか…。物心ついた頃にはもう、母は他界し父は今のような状態だった。煉獄という名家に生まれ、兄とは違いなんの取り柄もない自分の笑顔を好きだと言ってくれたのは、灯華が初めてだった。
「うっ…ごめんなさいっ…」
『大丈夫ですよ。気にすることではないです』
灯華の背にしがみつき、幼心に留めきれない思いが涙となって溢れ出た。そんな千寿郎を優しく抱きしめながら、灯華は赤々と燃える紅葉の葉を見つめるのだった。
母の面影に寄り添って
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