「本当にすまないな、二人とも」
『気になさらないで下さい。千寿郎君には私から話をしておきます』
「兄上、お気をつけてっ」
鬼殺隊に属している人間にとって、幸せな時間というものは束の間だ。やって来たかと思えばすぐに目の前からいなくなってしまう。それは瞬きの様に一瞬のことで、長くは続かない。人喰い鬼が常に己の欲望を満たそうと息を潜めているからだ。
「うむ!ありがとう千寿郎!」
『次戻られたら、みんなで焼き芋をしましょう』
「わぁっ、良いですねっ」
「それは楽しみだな!早急に鬼を退治して戻るとしよう!」
灯華から手渡された羽織りを着込み、日輪刀を受け取った煉獄の目が輝く。本当ならば今頃、収穫したサツマイモを焼いたり蒸したり、楽しい時間を過ごしていたはずだった。自分たちの話を千寿郎に語りながら束の間の幸せを堪能する予定だったのに、鬼はそれを見事に奪い取っていった。各々思う気持ちを胸の奥底にしまい込み、灯華と千寿郎は柱である煉獄を見送る。そしてその支えを糧に、彼は今日も鬼を狩りに赴くのだ。
『杏寿郎さん。もしご都合が合えば、甘露寺様をお誘いになって下さい』
「ん?甘露寺を?いいのか?」
『はい。あれだけ沢山ありますし、焼き芋は大勢で食べた方が美味しいんです』
「僕も久しぶりにお会いしたいです」
顔を見合わせてふわりと笑う灯華と千寿郎。弟子だった甘露寺に対しても変わらぬ優しさを向ける二人の心の清らかさが伝わって来て、煉獄は目を細め穏やかな笑みを浮かべた。サツマイモがほぼ食べ放題で、尚且つ二人に会えると聞けばどんなに忙しかろうが駆けつけて来る甘露寺の姿が目に浮かぶ。大切な妻と弟と、手塩にかけ育てた弟子に囲まれ過ごす時間はさぞ幸せに違いない。
「分かった!だが甘露寺も忙しい身であるから、誘うのならば文を届ける方が確実だ。だから君が直接甘露寺に文を出すといい!彼女もその方が喜ぶだろう」
『わ、私が甘露寺様にお手紙をですか?』
「うむ!俺の鎹鴉を使うといい!」
そう言って上空を旋回している鎹鴉に視線を向けると、主の意図を汲み取った鴉が灯華の肩に舞い降りる。
「くすくすっ。すぐに駆けつけて来そうですね、蜜璃さん」
「ああ、全くだ!では、俺はこれで任務に向かうが…千寿郎!」
「はいっ?」
いつもの自信に満ちた表情を浮かべ、兄が弟の肩に手を乗せ視線を合わせるため少しだけ身を屈める。なんだろう?と自分を真っ直ぐ見つめて来る瞳を見つめながら、千寿郎が首を傾げた。
「灯華は俺の大切な妻だ。留守にする間、いろいろと助けてやって欲しい」
『!!き、杏寿郎さんっ…』
まだ詳しい話をしていない状態の千寿郎に対し、急にそのような頼み事をしても混乱させてしまうだけではと心配になる灯華。ただ、煉獄の想いはとても有難いと感じる。オロオロしながら隣にいる千寿郎に視線を向けると、彼は兄をじっと見据えたまま力強く頷いて見せた。
「分かっています兄上!心配は不要です!」
『せ、千寿郎君っ…』
「ハハハハッ!流石は俺の弟!頼もしい限りだ!」
「必ず無事で帰って来て下さい!灯華さんと待っています」
向けられた笑顔に背中を押され、千寿郎から手を離す。兄弟同士でしか分からないであろう意思の疎通を交わしたあと、煉獄は灯華の頭を数回撫でて「行って来る!」と意気込みを露わにし、闇に潜む鬼を狩るべく藤の家紋の家を後にした。
愛の待つ場所
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