「君が家の外に出られないのは、病気が原因?」
『はい。それと外には、人喰い鬼がいるからとお婆さまが』
「昼間なら平気だ」
『そうなのですか?』
「鬼はな。でも外には鬼以外の危険もいっぱいある!」
『はぁ…それは困りましたっ…私は早く走れないから…』
「それでは逃げられないな!言いつけを守ると良い!」

幼い二人は縁側に腰を下ろし、月明かりの下語らい合っていた。灯華はまだ地につかない足をフラフラと揺らし、昼間知り合ったばかりの少年に視線を向けた。秋に色づく紅葉のように派手な色をした髪を持ち、ギョロリとした大きな瞳がとても印象的。話口調も独特で、力強くハキハキとモノを言う。見ただけで彼が、強い人間の部類だと分かる。力のない自分とは真逆。けれどとても優しくて、思いやりのある少年だということは分かっていた。

『あ、あの…家の外には、どんな物がありますか?』
「君の家の周りには田園と竹藪がある!」
『え、えぇと…そうじゃなくて…』
「?」

杏寿郎の答えに戸惑う様子を見せた灯華が思い立った様に立ち上がり、部屋の中にある箪笥の引き出しから一冊の本を取り出した。それを両手に開き杏寿郎の隣へ再び腰を下ろすと、ある文字を指差しながら興味深めに口を開いた。

『鬼狩り様は、"お祭り"を知っていますか?』
「もちろんだ!灯華は行ったことがないのか」
『はい。数え切れないほどの人が集まり、たくさんの出店が立ち並ぶとは本当ですか?』
「ああ!花火もあがるぞ!」
『花火!?花火とは、あの空に咲く大きな火の花のことですかっ?』
「そうだ!見たことがないのか?」
『ないですっ…、どれほどキレイなのでしょうか』

杏寿郎は灯華がどんなに物を知らなくても笑ったり、茶化したりしない。それを当たり前のように受け止め、自分が教えられることなら教えたいと思っている。まだたったの数年しか歩んでいないささやかな人生ではあるが、杏寿郎なりに見聞きした物、経験談を話すと灯華はまるで紙芝居に食い入る幼子のように瞳を輝かせ、嬉しそうに話を聞いてくれた。上から物をいう大人たちとは異なった反応に、杏寿郎の胸が踊る。

「外には祭り以外にも、たくさん面白い物がある!」
『それはたとえば、どんな物がありますかっ?』
「そうだな例えば…体の大きな男たちが生身で戦う相撲という物がある!」
『すもうっ?』
「ああ!先日父上に連れられて初めて見たんだ」
『その殿方たちは、どのくらい体が大きいのですか?』
「とにかく大きいぞ!父上より大きいんだ!」
『そ、それは大変ですっ。人なのでしょうか!』
「ハハハハハッ!それはそうだろう!」

驚愕の表情で『そんなに大きな人間がいるなんて…』と呟いた灯華。杏寿郎は笑顔を浮かべ、彼女が持って来た本を手に取った。パラパラと読み込まれている紙をめくっていくと、日本に存在する様々な行事ごとが書かれている内容になっていた。外に出ることが叶わない灯華は、きっとこれを見て想像と思いを膨らませているのだろう。

「灯華は…」
『はい?』
「もし外に出られるのなら、出てみたいと思うのか?」

本から視線を外し、隣にいる灯華を真っ直ぐ見つめる杏寿郎。大きく垂れ目がちな青い瞳が自分とは対照的で、どこか新鮮な感じがした。

『行ってみたいとは思いますけど…お婆さまが許してはくれません』
「父上とも?父は炎柱をになっているほど強い人だ」
『柱はとても忙しい身だと聞きました。私などに使う時間はないですよ』
「たしかに父上は多忙な方だ」

苦笑いを浮かべた灯華からは、仕方がない。そんな諦めの思いが伝わってくる。この少女は病のせいで、人並みの幸せを感じることなく死んでしまうのだろうか?当たり前の物すら見聞きできずにその目を閉じてしまうのだろうか?そんな思いが杏寿郎の中に湧き上がり、それではあまりにも可哀想じゃないかと病に対して否定的な意見をぶつけたくなった。

「そうだ、じゃあ、こうしよう灯華」
『え?』

こんなにも純粋で、あんなにも愛らしい笑顔を浮かべる優しい灯華が…人並みの幸せを経験できないなんて間違っている。弱い者が日陰ばかりを見るのは、幼いながらに納得できない。そんな強い正義感のような直向きな思いが、灯華の人生を大きく変えたのかもしれない。

「俺が君を守れるほど強い炎柱になるから、そうしたら家の外に出ていろんなものを見に行こう!」
『えっ……』
「必ず強くなると約束する!絶対だ!」
『あの、でも…っ…』
「だから君も長生きをしろ!」
『…!!!』
「俺は強くなるために鬼や自分と戦うから、灯華は長生きするために病と戦うんだ!」

杏寿郎の純粋な思いに、大きな瞳から涙がこぼれ落ちた。

「それと、君は花を生けるから、俺がここに来る時は必ず花を持って来ることにするよ」
『ぐすっ…。お、お花を…?』
「外にはより多くの種類の花がある。君が出られないのなら俺が届ければいいと考えた」

ギランッと目を見開き、名案だろう!というかのように拳を握りしめた少年。一度決めたことは曲げなさそうな真っ直ぐな瞳に見つめられ、あたふたと困っていた時だった。少年の父親が穏やかな声で息子の名を呼んだのは。

「今参ります、父上!」
『あ、あの…鬼狩り様っ、あの、私のことは気にならさないで下さいっ…』
「それは無理だ!」
『…っ!?』

膝に手を置きながら立ち上がった少年が、不安げな表情で自分を見ている少女を見つめる。真っ直ぐ、強い意志の感じられる目で。

「俺がそうしたいと自分で思った。だから君が気にするな」
『………』
「それと、俺は"杏寿郎"だ。鬼狩り様じゃない」
『…あ、あの…』
「友達なんだ!名前で呼んでほしい。ではまた明日な、灯華」




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