「不死川さんは灯華さんに会ったことがないから…」
「あァ?」
「そんな言い方ができるんですよ」
半年に一度の柱合会議が終わるや否や、部屋の中には胡蝶しのぶの冷静な声色が静かに響き渡った。何やらただならぬ雰囲気で、一発触発と呼ぶべき空気が漂い始めている。いつもは穏やかな口調で他人に噛みついたりしない胡蝶にしては、今のような物言いは珍しいことだった。
「胡蝶…いいんだ。我が儘を通す気は無い」
「私も出来る限りお手伝いをします。ですから…」
「てめぇは柱なめてんのかァ?」
狂気に満ちた不死川の鋭い視線が、煉獄の瞳を捉える。
「君の言い分は最もだ不死川。否定するつもりはない」
「だろうなっ。柱ってのはそんな甘かねェんだよ」
「承知している」
「藤の家の女じゃ鬼を狩れねェだろ…っ」
「………」
「死にそうな奴に費やす時間があるならよォ」
「………」
「お前がもっと鬼を狩ったらどうだァ!煉獄杏寿郎ォ」
「不死川さん!いい加減にして下さい。そんな言い方っ…!」
不死川の言葉に表情を歪めた胡蝶が身を乗り出したその瞬間、煉獄の右手が不死川の肩を掴んでこの状況には似つかわしく無い笑みを浮かべて見せた。赤々と燃えるその瞳からは一切の動揺も、迷いも感じられず、正直なにを考えているのか読み取れず逆に不気味な感じがする。ただ、間違いなく争うつもりのない意思だけは汲み取ることができた。そのやり取りを黙って見ている柱の一人、宇髄の口角がニヤリと若干吊り上がる。面白い物が見れるのか?と。
「命を懸けて鬼と戦う。俺たち鬼殺隊の役割だな」
「当然だ。何を今更…っ」
「藤の家の人間は、確かに鬼とは戦わない。だが、鬼殺隊の中にもそうゆう隊士は大勢いる」
不死川が並々ならぬ覚悟で命を懸け、柱を担っているかは聞かずとも分かる。この血生臭い組織の柱になっているくらいだ。彼の辿ってきた道は、決して平坦な物ではなかったのだと。親方様にまで食ってかかるほど粗暴で手のつけられない一面はあるが、決して悪い男では無いと煉獄は知っている。
「鬼殺隊が在るのは、親方様を始めとする大勢の人たちが各々の役目を担い、尽力してくれているからだ」
「………」
「俺たち柱が在るのは、そうゆう支えがあってこそだ」
「………」
「鬼を狩れずとも必死で何かと戦う人間を愚弄してはいけない」
「………」
「君もきっと、誰かの思いを継ぎながら柱としてこの場に立っているんだろうな」
瞳を閉じ、不死川から手を離す。
一歩引いて伏せ目がちに笑みだけを深めた。
「俺もそうだ。ここにいる柱全員が、そうではないだろうかと思っている。そうゆう思いは人を動かす原動力になり、更なる強さへと導いてくれる」
懐にしまわれた大切なお守りに、服の上から手をかざす。自分の心に灯った熱き炎の中には、家族と愛する者の思いが溢れている。血を吐くような惜しみない努力を重ねて来たのは間違いなく煉獄本人であるが、彼が心の炎を灯し続けることができているのは、大切な人たちの存在があってこそなのだ。
「てめぇ…そりゃあ説教のつもりか?」
「それに!さっきの言葉は本心ではないだろう!」
「あァッ??」
不死川はこう見えて、柱という立場に責任を持ち日々任務にあたっている。人一倍鬼を滅することに奮励しているそんな彼だからこそ、煉獄が自分の立場を軽んじて一人の女にうつつを抜かしているのでは?柱とはそんな覚悟では務まらないぞ。と、懸念を抱いているのだろう。
「この間、甘露寺に灯華の具合を尋ねたそうだな!」
「!!!」
「…まあっ。そうなのですか?」
「不死川は本当は、心根の優しい男だ…」
「やめてくれ悲鳴嶼さん」
「んだよ、"また"派手にやり合うかと期待したぜ」
煉獄の一言で、張り詰めていた空気が一気に和らいでいく。悲鳴嶼が数珠を擦り合わせる音が響き、宇髄がつまらなさそうな表情を浮かべた。
「俺はただっ、死んでねェかの確認をしただけだ…」
「またそうゆうことを!気にかけてくれてありがとう!」
「(ブチッ…)気にかけてねェ!話聞いてんのかてめェッ」
「口は極端に悪いが心根は良い男だ!なあ、胡蝶!」
「私は灯華さんへの暴言は許しませんよ」
ふふっと言葉とは対照的な笑顔を浮かべた胡蝶が煉獄に歩み寄る。
「とにかく、私は協力しますから。いつでも頼って下さい」
「そうか、ありがとう!胡蝶!恩に着る!」
「俺は協力なんぞしねェからな!勝手にしろォ!」
「そうか!分かった!」
鋭い視線で煉獄を睨みつけ、舌打ちをしながら部屋から出ていく不死川。乱暴な態度ではあるが、何かあれば恐らく協力してくれることだろうと去っていく姿を見つめ思った。
「不死川の言うことは最もだ。柱の役目を軽視してはいけない。けれど、生まれて此の方外の世界を見ずして死んでいくのはあまりにも可哀想だ…。私も出来る限りの手助けはしよう」
「俺もだ。派手に賛同する。嫁を大事にすることは男として当然の義務だ」
「嫁ではないが、しかし!本当にありがたい!」
ジャリジャリと変わらず数珠を鳴らす悲鳴嶼と、キラーンッと謎の輝きを放つ宇髄の顔を交互に見つめて感謝の言葉を口にする。そして…、ここまで一言も口を挟まず空気の一部と化していた人物に視線を向ける一同。まだ居た、珍しい。と全員が思ったことだろう。鬼殺隊水柱・冨岡義勇は柱合会議参加に前向きではない。いつもなら不参加か、参加したとしても「関係ない」とスタスタ帰ってしまうくせに、今日に限っては話を聞いていたようである。
「冨岡さん、珍しいですね。気になりましたか?」
「……」
「まさかお前も協力しようなんて、空から派手に槍が降りそうなことを言い出すんじゃねぇだろうな?」
「…俺は…」
入り口の襖戸に背中を預け立っていた冨岡が、視線を落としたままぽつりと呟く。そして…。
「あの娘に励まされた。…その恩は返そう」
「「「「…………」」」」
それだけ言って立ち去ってしまった冨岡を、無言で見つめる四人。一体何を励まされたのだろうと不思議に思った胡蝶が煉獄へ尋ねると、穏やかな笑みを浮かべて今の今まで彼のいた場所を見つめていた。
「冨岡さんも、灯華さんを知っていましたか」
「少し前に任務の中継地として立ち寄ったと聞いた」
「励まされたって、何を励まされたんだ?」
「ああ、それはあのことだろう!」
『冨岡様!よく言うではありませんか』
「………?」
『聞き上手は話し上手!口数が少なくとも、貴方の思いはきっと届いていますよ。陰ながら応援しています、頑張って下さいっ』
「…(聞き上手は、話し上手…)そうか。ありがとう」
花言葉には魂が宿る
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