『それからしばらくして、柱の皆さんのご助力もあり、杏寿郎さんにお祭りへ連れて行って頂きましたっ』
「花火を無事見ることはできましたか?」
『はいっ。とっても綺麗でした!』

子供のように無邪気な笑顔を浮かべた灯華が立ち上がり、棚の引き出しを開け『見て下さいっ』と取り出したのはたぬきのお面。それを顔に重ねふふっと笑うと、千寿郎もつられて笑顔を浮かべた。

「あははっ。その面はお祭りで?」
『はい。杏寿郎さんが私はたぬきだと選んでくれました』
「え、灯華さんがたぬき?(失礼では?兄上)」
『杏寿郎さん曰く、私は鈍臭いそうです』
「それ……まに受けなくていいですよ」

単刀直入過ぎる兄の言葉を純粋な灯華がすぐ鵜呑みにしてしまうのは分かっていたが、いくらなんでもたぬきは無いだろうと幼い千寿郎は冷静なツッコミを入れた。しかし、子供でも祭りで買った玩具などすぐに壊すか飽きて捨ててしまうかのどちらかだというのに、灯華はまるで宝物のように今もそのお面を持っている。本当に心根の優しい女性だと改めて感じた。

「僕も灯華さんと兄上と一緒に行きたいです。お祭り」
『千寿郎くん…』
「今よりもっと小さい頃、兄上と父上に連れて行ってもらったことはあるのですが、灯華さんがいればもっと楽しいですから」

控えめで、優しい笑顔を浮かべた千寿郎の願いを含んだその言葉が、灯華の心に強く、強く…痛いくらいに響き渡る。幸せな思い出を語るのは簡単だが、未来を約束するのは実に難しい。本心だけを言えば千寿郎の健気な願いを叶えてあげたいし、一緒に祭りに行けたらどんなに楽しいことだろうと思う。子供のようにはしゃぐ自分が千寿郎の手を引いて駆け出せば、面倒見の良い煉獄が離れぬようにと咎めながらに先導してくれる様が想像できる。きっとそれは、笑顔の絶えない、かけがえのない幸せな時間になるだろう。しかし…病はいつこの体に牙を剥き、命を奪ってくるか分からない。煉獄が様々な選択を早めてくれたのも、自分に近づく死期を感じてのことだろう。祝言に着る白無垢に、腕を通すことすら叶わない可能性だって…。

「灯華さん?」
『(はっ…)ご、ごめんなさいっ。何でもないです!』

そこまで考えて思考を止めた。否、千寿郎が止めてくれたと言うべきだろう。灯華は顔に重ねていた面を棚の上にそっと置き、心配そうに自分を見つめている大きな瞳を見つめ返した。病のことは、煉獄自ら弟に話すと言っていた。だから今は…守れぬ約束になってしまうかもしれないが、少しでも未来を明るく照らすことしか出来なかった。

『来年の夏が楽しみですねっ、千寿郎くん!』
「えへへっ。はい!」



(その日彼女は、未来を見据えた)

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