その日藤の家は、とても賑やかで、慌ただしかった。
「いくよ姉ちゃん!"炎の呼吸!一ノ型っ"」
『また杏寿郎さんの真似事ですか?十四紀』
「灯華ちゃんっ、この子さっきから手加減無しよ!」
『甘露寺様が嫌がっています。やめなさい』
「んだよっ!柱の癖に弱っちぃな!」
今この家には、灯華のいとこ二人が遊びに来ている。九歳になった兄、十四紀(としき)と、五歳の妹、桃葉(ももは)。お淑やかな灯華のいとこだからと甘く見過ぎだ。
十四紀はとにかく暴君だ。甘露寺は今、"鬼狩りごっこ"なるものに付き合わされ疲弊している最中。煉獄とはすでに面識があるらしく、遊びが始まるやいなや彼の真似ばかりしては木の棒を刀に見立て容赦無く切りかかってくる。刀を持つ甘露寺は、すぐにやんちゃな兄の恰好の獲物と化したのだった。
貴重なバターを持参して、灯華と千寿郎との再会に喜び、共にすいーとぽていとを作ろうと心躍らせていたのに…。
『少し落ち着きなさいっ。妹を見習ったらどうですか?』
無礼な態度を咎めながら部屋の方へと顔を向けると、千寿郎の膝の上で本を読み聞かせてもらっている妹、桃葉の姿が映り込む。夢中になっているらしく、こちらの騒ぎには目もくれない。
『(ほっこり)桃葉、何を読んでもらっているの?』
二人の柔らか〜い雰囲気に癒されて、ほわほわしながら問いかけると、視線は絵本に向けたまま、桃葉が元気の良い返事を返してくれた。
「ももたろう!」
『まあっ。それは良いですねっ』
「またそれかよっ。ダッセェな!」
灯華の言葉を押し退けズバ!っと放たれた兄の一言に、一瞬場の空気が静止した。なんとゆう口の悪さ。千寿郎の膝の上にいた桃葉がむ〜っと頬を膨らませて立ち上がると、抗議を訴えるべく兄のいる縁側へと歩みを進める。
ああ…また始まってしまう。そう思った時には遅かった。
「ダサくないもん!ももたろうはオニをやっつけるんだから!」
「んな作り話じゃねーか!桃太郎なんかより鬼殺隊の方がすげーんだ!」
「お兄ちゃんはオニきれないくせにいつもうるさい!」
「お前もだろ!?チビ!弱虫!すぐ泣くくせに!」
ぎゃーぎゃーぎゃー!と始まる兄妹喧嘩に溜息をつく灯華。いつも兄に泣かされてばかりいる桃葉が、ここに来てすぐに千寿郎に懐ついた理由がよく分かる。
『やめなさい、二人ともっ。甘露寺様と千寿郎くんの前でっ』
「二人はいつも兄妹喧嘩を?」
『ええ。どうにも馬が合わないみたいで…』
灯華の仲裁を軽く無視して言い合う二人。苦笑いを浮かべて歩み寄ってきた千寿郎に視線を向けると、灯華はこの兄弟を見習って欲しいものだと内心呟き溜息を吐いた。一体どう宥めようかと困っていたその時だった。「何やら賑やかだな!」と笑顔を浮かべ、子供たちにも負けない程威勢の良い声を響かせながら、ここにいる全員が待ち望んでいた人物が姿を見せたのは。
「ああーっ!!」
「…杏寿郎お兄ちゃっ」
「炎柱だぁぁぁっ!!!」
桃葉の言葉を遮り、へばっていた甘露寺を押し退けて、一目散に駆け出した十四紀が全力の頭突きで煉獄を迎える。その表情は期待や歓喜に満ち満ちていて、煉獄は笑いながら小さな暴君を手にしていた花束と共にいとも簡単に抱き上げた。
「十四紀!しばらく見ないうちに成長したな!今何歳だ!」
「九歳だ!勝負しろ杏寿郎っ!!」
「そうか九歳か!子供の成長は早いな!」
「バカにすんな!前より強くなったんだオレは!」
「ハハハハッ!それは頼もしい限りだ!」
嬉しそうな笑顔を浮かべている煉獄に対し、十四紀は歯を食いしばって両手足をバダバタと動かし攻撃をしかけようとしている。が、抱き上げられているため彼の短いそれでは空を切るだけだった。
『お帰りなさい杏寿郎さん』
「うむ!ただいま、灯華。千寿郎も」
「お疲れ様です兄上。無事で何よりです」
暴れる十四紀を地に下ろし、灯華と千寿郎に笑顔を向ける。生家へ帰って来たかのような温かさに、居心地の良さを感じた。煉獄がいつものように持参した花束を灯華に手渡し頭を撫でると、見たかった愛らしい笑顔が返ってくる。
「(きゃ〜っ。素敵なやり取り〜っ)」
「甘露寺も来られて何よりだ!灯華からの文は無事届いたか」
「はいっ!脱兎の如く参りました!けど煉獄さんっ」
「ん?どうした!」
「来るのが少〜し遅いですよ〜っ。私大変だったんですからぁ」
灯華に縋りついていた甘露寺が、まるで災厄から救われたかのような表情を浮かべたものだから一体何事だ?と首を傾げる。するとその疑問を汲み取った灯華が苦笑いを浮かべて口を開いた。
『十四紀がまた杏寿郎さんの真似をして、鬼狩りごっこを』
「ああ、なるほど。甘露寺は鬼役をやらされたのだな!」
「そうなんですぅ〜っ。木の棒でたくさん切られました〜」
「この姉ちゃん弱っちぃから勝負にならないんだ」
「!弱くないもんっ。私柱なのよっ」
「そんな乳出してる柱いるかよ!」
ふざけんな!と目を吊り上げて暴言を吐く九歳児。
優しい甘露寺だからこの程度で済んでいるが、他の柱相手だったらと考えたら血の気が引く思いがした。しかし煉獄は、そんな十四紀の威勢の良さに声を上げて笑い灯華の隣に腰を下ろした。
「お花きれ〜っ。もも、このお花しってるよ。ゆりでしょ?」
『うんっ。桃葉は物知りだな〜』
「えへへっ。さっき千寿郎お兄ちゃんにおしえてもらったの」
それまで黙っていた桃葉が贈られた綺麗な花束に興味を示し、灯華の背中に抱き付きながら実に可愛らしい笑顔を浮かべた。
『そうだ桃葉。さっき杏寿郎さんに、お願いしたいことがあるって言ってたでしょ?聞いてみたらどう?』
「俺に?なんだろうな!」
『ふふっ…』
「そうだ!」と思い出したように目を丸くした桃葉が隣に座る煉獄と距離を詰める。そして小さな両手で口元を隠し、小声で耳打ちをすると…。
「ハハハハハッ」
煉獄から軽快な笑いが溢れた。
「随分気に入られたようだな!千寿郎!」
「え、僕ですか?」
何を聞いたのかと首を傾げた千寿郎に、桃葉が「えへへ」と愛らしい笑顔を浮かべる。そんな三人を見つめながら、十四紀に遊ぼうとせがまれている甘露寺が灯華に小声で問いかけた。
「桃葉ちゃん、煉獄さんになんて言ったの?」
『桃葉は将来、千寿郎くんのお嫁さんになりたいそうですよ』
「(ほっこり)ふふっ。可愛いわ〜」
未来を繋げて
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