「わっしょい!」
『!?』
「わっしょい!」
『杏寿郎さんっ、どうしてそのような掛け声をっ?』
無知な灯華は何にでも興味を示す。
隣でさつまいもを食べながら、わっしょい、わっしょい言っている幼い煉獄に物珍しそうな視線を送った。
「げん担ぎだっ。言っていると元気がでるだろう!」
『なるほど!では私も杏寿郎さんとさつまいもを食べる時は"わっしょい"と言います!』
「うむ!では毎年この時期はいっしょに過ごそう!」
今年もこうして、貴方とこの季節を迎えられること…心から幸せだと感じています。そう内心呟いた灯華の目の前では、楽しそうに焚き火を突き、中のサツマイモを取り出そうとしている煉獄たちの姿がある。少しぼんやりした視線でその光景を見つめながら、懐かしい思い出に目を細めた。
『ケホッ……』
「姉ちゃん!芋焼けてる!」
刹那、喉に違和感を感じ咳が生じる。
小さな音は子供たちの声でかき消され、灯華は柔らかな笑みを十四紀たちに向けた。
「十四紀くん素手で触っちゃ駄目よっ!火傷するわっ」
「けむりもくもく〜っ」
「オレ一番大っきいやつ食べる!」
「じゃあ私が取ってあげるね〜」
笑顔が絶えないこの光景を、必死に瞼に焼き付ける。来年の秋、またこうして全員が集まれる保証はどこにもない。このまま時間が止まってくれたらどんなに幸せなことだろうと思いながら、目を閉じても大好きな笑顔が浮かび上がってくるよう愛おしみながらゆっくりと瞬きを繰り返した。
「灯華さん?」
『…!』
「ぼんやりしていましたが、大丈夫ですか?」
どうやら感傷に浸りすぎていたようだ。名前を呼ばれるまで近くに来ていた千寿郎に気づがず、慌てて何でもないと誤魔化す。すると彼の控えめな笑顔と共に、手ぬぐいの上に乗せられたサツマイモを差し出された。
「どうぞっ。灯華さんの分です」
『わあっ…ありがとうございますっ』
「すごく熱いのでここに置きますね」
そう言いながら灯華の側に芋を置き、隣に腰を下ろした千寿郎。視線を目の前で楽しそうにしている兄や甘露寺たちに向け、彼もまた灯華と同じように笑顔を浮かべた。
「ここで過ごしている時の兄上は…」
『…?』
「とても、幸せそうに見えるんです」
ゆっくりと視線を移動させ、灯華を見つめる千寿郎。兄があんな風に幸せを感じられる理由はきっと、生涯を共に歩むと心に誓った灯華が居るからだろうと考える。話す時の声色や表情を見ていれば、それは一目瞭然だった。しかし彼女からは、意外な問いが返ってくる。
『なぜ杏寿郎さんが、幸せだと感じているか分かりますか?』
「…え?…それは灯華さんが、居るからでは?」
『ふふっ。そうであれば嬉しいですが…違います』
「??」
こてん、と可愛らしく首を傾げる千寿郎にの柔らかな頬に片手を添える。母を失い、父から注がれていた情熱を失い、鬼に奪われる多くの命を目の当たりにして、彼はあの若さで悟ったのだろう。人は、脆く儚い生き物ではあるが、時にとても強く、美しくて尊い、実に愛おしい存在であると。そして真の幸せとは…物理的な物事だけではなくて、己が大切で、守りたいと思ったそんな相手に、未来を託すことができることだと。
『杏寿郎さんの意志は、きっと多くの方に託されています』
「……」
『千寿郎くんや甘露寺様。十四紀や桃葉にも』
「…灯華さんにも?」
『ええ、もちろん』
大きな瞳で真っ直ぐ自分を見つめてくる千寿郎に、灯華は実に優しい笑みを浮かべた。人が幸せを感じる瞬間はそれぞれだけれど、自分という存在が愛した人たちの中で生き続けると思うだけで、刹那ー、足元に広がった命の終わりを受け入れられる感覚がした。
『瑠火様はここには居ませんが…その思いは、貴方たち兄弟の中で生き続け、また次の未来へと繋がっていく。…私はね、千寿郎くん』
「………」
『貴方や杏寿郎さんの中で生き続けられることが、とても幸せなのです』
灯華の言葉が、千寿郎の心に温かな風を吹かせた。
幸せの理由
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