『少し、難しい話しだったでしょうか?』
とても大切な話を聞いた。
この先も、ずっと心に残っていくだろうと思える程の。
騒がしい十四紀たちの声が遠くに聞こえるくらい、全神経が灯華に集中していた。
「また灯華から何かを学べたか?千寿郎」
「兄上」
「上手く理解出来ずとも、心に留めておくといい」
「はいっ。もちろんです」
『ケホッ…ケホッ…』
穏やかな笑顔を浮かべ歩み寄ってきた兄に視線を向けながら、大きく頷く千寿郎。するりと離れていく灯華の手に頭を撫でられ、恥ずかしそうに頬を染め少しばかり俯いた。
「千寿郎、少し甘露寺を手助けしてやってくれ」
じゃじゃ馬二人の相手は大変そうだと言った兄の言葉に視線を向けると、わーきゃー騒ぐ十四紀たちに手を焼いている甘露寺の姿があった。苦笑いを浮かべ立ち上がると、入れ替わる様にして煉獄が灯華の隣に腰を下ろす。
『余計な話を…ケホッ…してしまいました』
「……余計な話じゃない。君にしか伝えられないことだ」
『千寿郎くんは賢い子なので、すぐに理解します…』
軽く咳き込みながら千寿郎に向けていた視線を煉獄に移し微笑む灯華。いつもより少し顔色が悪く見えたのは、気のせいではなかった。先程までは、平気そうにしていたのに…。
『…コホッ……。杏寿郎さん…』
「体調が悪いのだろう?」
『え…』
「先程から顔色が悪い。少し冷えたか」
『あ、あの…私なら大丈夫です…っ』
「俺に誤魔化しや嘘は通用しないぞ?灯華」
千寿郎たちに悟られない様あえて笑顔を浮かべ、大切な羽織を灯華の肩にかける煉獄。華奢な手を優しく握りしめると、指先がとても冷たかった。今しがた、千寿郎の頬に手を添え確かな温もりを伝えていたはずなのにだ。
「…指先の感覚はあるか?とても冷たい」
『…だ、大丈夫です』
「ならこれはどうだ」
『………』
灯華の側に置かれた、まだ湯気の立つサツマイモの包まれた手ぬぐいに触れさせた。普通であれば体を跳ねさせ手を引くところだが、灯華は表情を歪めたまま固まっていた。熱いという感覚の伝わって来ない自身の指先を黙って見つめながら。
「医者を呼ぶ」
『…っ!』
「横になって休もう、立てるか?」
この状況において一切表情を変えない煉獄から、少しばかり憤っているような感情が伝わって来た。有無を言わせない声色は、自分を心配してくれてのことなのだろうが、灯華はどうしてもこの場を離れたくはなかった。もう二度とこの目に映すことが出来なくなってしまいそうなこの光景を、最後まで焼き付けておきたくて。
『ま、待って杏寿郎さんっ。本当に大丈夫ですっ…』
「駄目だ灯華、俺は君が心配なんだ」
『分かっていますっ。…でも…ケホッ…でも杏寿郎さんっ…』
自身の体を抱き上げようと伸ばされた煉獄の腕をぎゅっと力一杯掴み、懇願の眼差しで燃える瞳に訴えかける。少し離れた場所から聞こえてくる千寿郎たちの弾むような声が最後の一押しとなり、灯華の口から放たれた願いに煉獄の目が見開かれた。
『…また来年もっ、私がこの光景が見られる保証はありませんっ…』
「…!!」
『だからお願いです杏寿郎さん…っここに、居させて下さいっ』
「……灯華…」
徐々に抜けていく手の力に、灯華も合わせるようにして煉獄の腕から手を離す。優しい彼を困らせてしまった…そんな申し訳なさから表情を歪め小さな息を一つ吐くと、控えめに煉獄の大きな手をとりきゅっと握りしめた。温もりは分からずとも、愛おしさは募るばかりだ。
『私は、杏寿郎さんがいて、大切な人たちが笑ってくれている全ての時間が大好きです…』
「………」
『今も凄く幸せで…離れたくないんです。この場所からも、杏寿郎さんからも…。この目に焼き付けておきたくて…』
今日はやけに、感傷的になりやすい自分がいる。
どうしてかは分からないが、物事にはタイミングというものがあって…今、この瞬間、こうして起きていることや、感じていること全てに意味があって、漠然としていた最後に向けての一歩が…ついに始まった様な気がしていた。
『ケホッ、ケホッ…我が儘なのは重々…』
「……分かった」
『……』
「毎年この時期、必ず一緒に過ごそうと言ったのは俺だったな」
『杏寿郎さん…』
「おいで灯華。羽織だけでは寒いだろう」
不安も、心配も、悲しみも、憤りも、全て愛する者の願いを叶えるべくその深い愛情で受け止めた煉獄。気持ちを切り替えいつも通りの表情を浮かべると、握られていた手で灯華を引き寄せ背後から小さな体を抱きしめた。離れたくない、ずっと一緒にいたいという思いは同じだ。一途な愛おしさが膨らむほど、この人を失いたくない、そんな不甲斐ない思いが込み上げてきた。
『杏寿郎さんは、いつも温かいですね』
「俺は炎柱だからな」
『ふふっ。…それって関係あるんですかっ?』
「勿論ある!」
少しだけ顔を後ろに向けると、煉獄の笑顔が返ってくる。つられて肩を揺らし控えめに微笑むと、目の前に半分に割られたサツマイモが現れて灯華が嬉しそうにそれを手に取った。
『わっしょいっ、ですね杏寿郎さんっ』
「うむ!わっしょい!」
この美しい世界に純心を捧げて
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