「良かったな千寿郎!父上からの許しを得られて!」
「あ、あれは許しを得たことになるのでしょうか…?」
「うむ!勿論だとも!」
当主であるお鶴宛に、槇寿郎から文が届いた。
しばらくこの家で世話になる様言われ千寿郎が生家を離れてから、数週間が経過した。充実した日々にすっかり意識が薄まっていたが、父は大丈夫なのだろうか。期限を設けられていたわけではないが、さすがに長いこと身を置きすぎたのでは?と思いお鶴に相談を持ちかけた。
するとお鶴は「気にしなくとも大丈夫です」と顔色一つ変えずに、届いた手紙の内容を二人に伝えたのだ。
『杏寿郎さんっ、千寿郎くんっ…お話は終わりましたか?』
「灯華さん…」
「灯華、休んでいなくては駄目だろう」
『もう平気ですっ。それよりも…』
肩にかけた羽織で身を包みながら、障子戸を開け顔を覗かせた灯華。二人の姿を見つけるなり小走りで歩み寄って来たものだから、煉獄が数歩進みその華奢な肩を押さえ立ち止まらせた。走っては体に障ると注意を促すが、今はそんなことよりも千寿郎が気がかりだった。
『千寿郎くん、帰ってしまわれるのですかっ?』
「いえ、それが…」
胸の前で不安そうに手を組んで問いかける。
千寿郎にはまだまだここに居て欲しい、それが灯華の本音なのだ。
「"もうしばらく帰ってくるな"と言うことでした」
『ではっ…』
「はいっ。また一緒にお菓子作りができます」
『良かったぁ…』
小動物のような愛らしい笑顔を浮かべた千寿郎に癒され『はぁぁ〜可愛い〜』と間の抜けた表情を浮かべほわほわしていると、煉獄に肩を抱かれ方向転換させられた。
「朗報が聞けたことだし、君はもう休め!」
『え、そんなっ。私もお話に混ぜて下さいっ』
承知しかねますと訴えるべく、ぷくっとフグの様に頬を膨らませて振り返った灯華が煉獄をジト〜っと睨みつける。申し訳ないが気迫のきの字も感じれない。だだをこねる子供のようなその態度にむしろ愛らしさを感じながら、ニコッと笑顔を浮かべた煉獄が片手で柔らかな頬を掴んだ。
「ハハハッ。そんな可愛い顔をしても駄目だ!」
『体調はばんぜんれふっ…!(体調は万全です)』
「さあ、部屋に戻ろう!」
『ガーンッ!(無視されたっ)』
「…あ、兄上…灯華さんが可哀想です…」
ハ、ハ、ハー!といつもの自信に満ちた表情を浮かべ、灯華の肩に手を置き強制連行する。先日のこともあって、彼なりにとても心配しているのだ。病の詳細を知らない千寿郎に余計な不安をかけまいと明るく平然と振る舞ってはいるが、一刻も早く休んで欲しいという気持ちが根底にはある。
『休みますからっ、お話し相手にはなって下さいねっ』
「うむ!勿論だっ」
ぶつぶつ不服を呟いている灯華の隣を歩く兄。
そんな二人のやり取りを見つめながら微笑んだ千寿郎が、止めていた足を一歩前へ動かした…その時だった。
「ワン!!」
『「「???」」』
この家に居るはずのない、生き物の鳴き声が聞こえてきたのは。
「見ろよ杏寿郎!」
『…!?』
「??」
「犬拾った!」
十四紀に抱えられてやって来た赤毛の子犬が、ドーンッ!と三人の前に突き出され尻尾を振っている。嬉しそうに無邪気な笑顔を浮かべた十四紀に続いて、妹の桃葉が「お兄ちゃんずるいー!」と姿を見せたその刹那ー、驚愕の表情を浮かべた灯華の悲鳴が家中に響き渡った。
→
*前次#